前々回の 「続 ・ 聴くということ」 をアップした直後、珍しくふと中まで覗いた朝日新聞で見つけた 「米中間選挙2018 心の奥底の物語」 という記事。
デジタル版にリンクを張ろうと思ったら有料会員限定記事なので、かいつまんでご説明しますと、トランプ大統領の熱心な支持者が多い米中西部のラストベルト (さび付いた工業地帯) で三年ほど取材を続けてきたニューヨーク支局の金成隆一記者が、同じように米南部に通っての取材から生まれた全米ベストセラー 「壁の向こうの住人たち
ホックシールドさんは 右派の人々の声にひたすら耳を傾ける中から、彼らの心の奥底に横たわる 「ディープストーリー」 を見つけます。
「アメリカンドリーム」 というはるか彼方の山頂めざして長蛇の列に並び、なかなか動かない行列で 自分の番を辛抱強く待ち続けていると、誰かが列の前方に割り込んだように見える。
黒人、女性、移民難民に公務員、しまいには海洋汚染の被害を受けた油まみれのペリカンまで。
白人、とりわけ男性である自分たちは 悪条件にもめげず辛抱強くルールを守って働き続けてきたというのに、リベラルの連中は寛容を説くばかりで 列の後ろで不当に待たされている自分たちにはお構いなし。
挙句の果てに、高学歴の人々が 「おまえは人種差別主義者だ、レッドネック (貧しい白人への差別語) だ」 と後方の自分たちを指差して笑いものにしているようにも思える。
怒りに燃える自分たちに、トランプ氏は 「皆さんを列の前に入れてあげます」 というメッセージを送ってきた。
我々に不公平をもたらすばかりだった民主党の面々を引きずりおろし、トランプを熱烈に推すために全力を尽くしてなにが悪い?
「私たちひとりひとりは、大きなひとつの意識から分け出され それぞれ少しずつ異なる視点を持ち 異なる角度から世界を眺め渡す個別の意識体である」 と貴秋は捉えています。
二つとして まったく同じ視点というものはない、もしあったら二人いる意味も必要もなくなってしまいます。
そして当然 その個別の意識から生まれる人生の物語も みな違っているわけです。
自分に近い立場の物語は理解しやすくても、大きく異なるものは受け入れにくい、それは無理もないこと。
でもいま 敢えてその無理をすることが、世界の歩みを大きく変えると感じます。
現在、世界中の多くの人が 「自分は不当に扱われている」 という不満を胸に生きている印象を受けます。
幼い頃に受けた教えを守り 勤勉に誠実に生きているのに 報われることは少ない、時には報われるどころか ますます悲惨な境遇に落とされてゆく。
その根底には 「ほんの一握りの人々が 世界の冨の大半を独占している」 とたびたび報道されている現行のお金のシステムがあると貴秋は見ていますが、その話はまた別の機会にするとして。
貧富の差が開く一方のいま、長い間辛抱していた人々の中でももっとも苦しいと感じている人たちが動き出しています。
我慢に我慢を重ねて膨れ上がったその不満は わずかな火花でも簡単に爆発する条件を備えているし、実際そのパワーを利用しようとわざわざ焚きつける動きもあるような。
ただ そんな危うい意識のおおもとである個人の物語は、その人の視点からはもっともな話なのですが、もっと大きな視野から見ようとしないと 互いに責め合い争い合っての分断の動きを大きくするばかり、争いが拡大すれば 不満が解消するどころか 皆が命を落としかねません。
抑圧されたエネルギーの破壊力のすさまじさ、貴秋は身をもって知っています。
恐ろしいことを言うようですが、あのまま放っていたら 「相手は誰でもよかった」 などという事件の加害者になっていても不思議はないぐらいだったのです。
そんなことにならずに済んだのが、自分の心の奥の暗がりとひたすら向き合い ほんとうの声を聴くことで、自作の物語を引きの視点から見つめなおすチャンスを得たからだともわかっています。
自分の物語の主人公はどこまでも自分なのだから、その筋が主観の色合いを帯びるのは当然のこと。
が、異なる物語どうしが角突き合わせてばかりいても、大筋ではなにも解決しません。
金成記者は 取材相手の多くから 「話を聞いてくれてありがとう」 と言われ、彼らは話をしたがっていると感じたそうです。
いまひとりでも多くの人が まず自分の そして相手の心の声に真摯に耳を傾け、少し引いた広い視野からめいめいの物語を見つめなおすことが喫緊の課題だと思えてならないのです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます