霧島荘2号店

三十路男 霧島の生活、ネット上での出来事をつらつらと書き綴る

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星の唄 第十二話「【ほしのうた】」

2006年09月25日 23時21分36秒 | 小説風味
 
 雪乃の手を引いて、聖夜は走り続ける。
 浅摩家の敷地を突き進み、人影を見付けたら物影に逃げ込んだ。遠くから聞こえる爆竹とロケット花火の音は今だ健在で、太一はまだまだ捕まる気配はない。犬の遠吠えが何重にも重なって夜空に響き、それに合わせるかのように大勢の人の声が混じっている。
 聖夜と雪乃が浅摩の門を潜ったその時、目の前に人が立ち塞がった。その場で急停止し、回れ右で逃げ出そうとした。が、それより一歩早くにその人がこう言った。
「待ってくれ、聖夜くん。そして、雪乃」
 月明かりに照らされたその人は、浅摩徹彦だった。何をするでもなくそこに立ち、真剣な瞳で聖夜と雪乃を見据えていた。
 雪乃を背中に庇い、聖夜は真っ向からその視線とぶつかる。
「やっぱり、こうなってしまうんだね」
 徹彦はそうつぶやいて聖夜を見ていた。
 聖夜が何かを言い返そうとすると、それよりも一歩早くに後ろの雪乃が歩み出た。
「お父さん、お願いっ! ここを通してっ!」
 必死に訴えるその表情に、涙が伝っていた。さっきからずっと泣いていたのに、聖夜は今の今まで気付かなかった。どうすることも出来ずにそのまま二人を見守っていると、不意に徹彦は笑った。何もかも受け入れた、そんな笑みに思えた。
 徹彦は体を横に傾けて道を譲る。雪乃が呆然と父親を見つめる。
「雪乃、お前が望むのなら、行きなさい。ぼくは元々こうするつもりだった。本家の連中の前じゃそうはいかなかっけど、今は違う。自分の娘の幸福を願って何が悪いのか。お前はぼくの娘だ。決めたのなら、行きなさい」
 その視線が、聖夜へと移る。
「ここは任せて欲しい。それに水上くんも、ぼくが責任を持って保護する。だから、今は雪乃を頼む。時間がない、早く行くんだ」
 迷ったのは、ほんの一瞬だった。行こう、と雪乃の手を引いて走り出す。徹彦の前を通り過ぎるその瞬間、ありがとうと言うつぶやきを聞いたように思う。
 雪乃が最後に叫んでいた。ありがとうお父さん、と。
 走り続ける。今日は雲一つない、満天の星空が広がっている。


 浅摩家の本家が建っている山には一本の道が続いていて、そこを通れば中腹に浅摩家に辿り着ける。しかし道はそこで終ってはいない。さらに山の頂上まで、その道はずっと続いている。
 街灯もない、灯りは月の光だけでそこを進むしか方法はなかった。闇に慣れ切った目は、それでも十分に道を確認できたし、道は直線の一本道なので迷うこともなかった。左右を木のトンネルに囲まれたその道を進む。道に落ちている落ち葉を踏み付けながら走り、その度に落ち葉が砕ける乾いた音が鳴った。真冬だというのに汗をかき、走りながらコートのボタンを外した。
 握った雪乃の手に力が篭ったことに気付いた。しかし聖夜は振り返らない。雪乃の手を引いてどこまでも続く道をどこまでも走って行く。
 背後で音と閃光を感じたのはそんな時だった。そこで初めて聖夜と雪乃は後ろを振り返った。さっきまでいた浅摩家の空の上に、巨大な花が咲いていた。夜に咲くその花は、虹色に輝いていた。それは、太一が持っていた特大花火だった。太一には、感謝し切れないほど感謝したい、と聖夜は思う。
 花火の光りが消える頃、聖夜と雪乃はまた走り出す。道中取り出した携帯電話は、その時、十二月三十一日の午後十時十五分を示していた。山の頂上に辿り付くには、まだ時間が掛かりそうだった。
 それでも止まるわけにはいかなかった。
 この手を繋いで、どこまでも行くと決めたから。後ろを走る雪乃が、本当に大切だったから。
 頂上に近づくに連れ、道は獣道へと代わって行く。落ち葉の量が増し、何度も転びそうになりながらそれでも必死に走った。頭上にはもう木のトンネルとは呼べないようないくつも重なりあった木の葉があるだけだ。そこから微かに見える、その星に手を伸ばせば届くように思えた。
 走り続ける。息が切れ、後ろの雪乃から苦しそうな吐息が漏れる。それでも走り続ける。葉を失った枝が聖夜の顔を傷付ける。血が出ているかもしれない。しかし、止まるわけにはいかない。走り続けて、走って走って走り続けて、そしてそこに辿り着いた。
 視界が一気に開けた。
 さっきまでの景色が嘘だったかのように、そこには草原が広がっていた。膝の辺りまで伸びた草が風の吹かれる度に弓なりに泳いでいる。荒い息を吐いて、走るのをやめて、ゆっくりとその草原の真ん中まで歩んで行った。草原の真ん中に辿り着くと同時に、聖夜と雪乃はその場に仰向けに倒れ込んだ。
 草が長いせいで隣りにあるはずの互いの顔は見えないが、しっかりと繋いだ手がすぐ側にいるということを伝えてくれた。見上げる星空は、雲一つなくて、聖夜の住んでいた場所よりずっと綺麗だった。その中で一際目立つ大きな星。月だった。まるでバスケットボールを空に浮べたような満月が、そこにあった。
 クスクスと雪乃が笑い、ははっと聖夜は笑った。
 何がおかしいのかはよくわからなかった。だけど、二人でずっと笑っている。顔は見えないけど、隣りにいる雪乃の存在を確かに感じる。雪乃は今、どんな表情をしているのだろう。しばらく、そのままでじっと空を見上げていた。静寂の時間が過ぎて行く。数分だけそうしていたように思うし、もしかしたら一時間くらいそうしていたかもしれないと思う。
 仰向けに倒れたままで、聖夜は手を繋いでいるのとは別の手でポケットに入っていた携帯電話を取り出した。ディスプレイにはしっかりと時間が正確に刻まれていて、今現在時刻は十二月三十一日十一時二十四分。携帯をポケットにしまう。
 夜空を見上げたままで、聖夜はぽつりと言う。
「……雪乃」
 繋いだ手に微かな力が入った。
 その手をぎゅっと握り返しながら、聖夜は続けた。
「全部、本当なんだよね……。徹彦さんが言っていた、呪いとかそういうの……。全部、事実なんだよね?」
 しばらく返答は返って来なかった。風が舞い、草が揺れて微かな物音を出す。不思議なくらいにそれ意外の音は聞こえず、真っ暗な静寂が降り立っていた。
 その静寂を、ゆっくりと雪乃の声が切り開く。
「……うん。全部、本当……」
 山の中を走っている時にはすでに理解していた。徹彦の言ってたことが全部事実で、嘘など何一つないのだと。
 だから、ここまで走って来た。誰にも邪魔されず、雪乃と二人だけで話がしたかった。聞きたいこと、知りたいことは山ほどあったはずなのに、何も思い出せなかった。ただ、隣りに雪乃がいるということに安堵していた。
「……ごめんなさい、聖夜くん」
 その声は小さく、今にも消え入りそうな声だった。
「わたし、ずっと聖夜くんを騙してた……。本当のことなんて何にも言わないで、言いたいことだけ言って勝手にここまで逃げて来た……。謝って許されるなんて思ってない。聖夜くんにしてみれば迷惑かもしれない……。だけど、どうしても謝りたかった……。記憶が消える前に、どうしても。だから聖夜くん、ごめんなさい」
「……雪乃、それ以上言ったら、ぼくは怒るよ」
 草むらの向こうで微かな気配の変かを感じた。夜空を見上げたままで聖夜は言う。
「少し前、ぼくが松田達を殴ったときに雪乃が言ってたじゃないか。迷惑なんて思うはずがない。それどころか、雪乃がちゃんと話してくれてぼくは嬉しいくらいだ。だから、それ以上謝ったら、ぼくは怒る」
 しばらくの間、雪乃は無言だった。繋いだ手が微かに震え出した頃になってようやく、掠れた声でつぶやいた。
「……ごめんなさい、聖夜くん……」
 あの時とは逆だ、と聖夜は思う。あの時は全く逆の立場でこうして話していた。そして雪乃のさっきの言葉の意味を、聖夜は誰よりも深く理解していた。
 風が舞い草が鳴く。ゆっくりと、聖夜はその身を起こす。長い草を手で払い除け、隣りにいる雪乃を見付ける。雪乃は、一人で声を殺して泣いていた。その時、聖夜は自分がどんな表情をしていたのかはわからない。だけど、たぶん微笑んでいたのだろうと思う。
 そっと手を伸ばし、雪乃の体を抱き寄せた。聖夜の体に身を預け、雪乃は一人で泣いている。頭上に輝く満月と星だけが、その二人を見守っていた。
 回した手に優しく力を込める。
「雪乃……ぼくは、君が好きだ」
 ずっと想っていたこと。言葉に出せば、それだけだったこと。すべてが終ってしまう前に、どうしても伝えておきたかった。今の雪乃のために。
 その言葉を聞いた雪乃はゆっくりと肯き、そして確認するように何度も何度も首を動かした。押し殺していた声が溢れ、大声で雪乃は泣く。悲しみや嘆きではない。それとは全くの逆の感情で、彼女は涙を流していた。これでいい、と聖夜は思う。最後の最後でしか勇気を持って言えなかったけど、それでも、これでいいと思う。
 聖夜と雪乃しかいないこの場所で、二人は静かに抱き合っている。風が吹いて音を消し、小さな小さな雫が空を舞う。それが雪乃の涙だったのか、聖夜の涙だったのかは、誰もわからなかった。
 気持ち良い空間に包まれる。静かに時は流れゆく。


     ◎


 草原が始まる境目にある木に、寄り添うように凭れながら空を眺めていた。握った手から伝わる温もりは、本当に優しかった。隣りにいる雪乃が、誰よりも、そして何よりも好きだった。ずっと一緒にいれればどれだけ幸せだっただろう。もしかしたら、もう呪いなんてものは消えていて、このまま一緒にいれるんじゃないか――そんな想像が膨らむ。だけど、言葉には出せなかった。そんなことを言うだけの力が、聖夜にはない。
 時計を見るのはやめた。時間に縛られたくはなかった。時計さえ見なければ、時は止まったままで過ぎ去るかもしれない。そう思ったから時計を見なかったのかもしれない。しかし今は、本当にどうでもよかった。隣りに雪乃がいる。それだけで、十分だったから。
「……聖夜くん」
 隣りの雪乃がそうつぶやいた。
「このまま逃げちゃおうか……。誰も知らないところへ、二人だけで」
 雪乃と同じように、空を見上げたままで聖夜は答える。
「……いいかもね、それも。どこか暖かいところがいいな。冬なんて来ない、そんな場所」
 冬が来なければ、新年は迎えない。何となくそんなことを思ったあとで、季節があろうがなかろうが月は巡るということに気付く。
 逃げられないのかもしれない。だけど、最後のその瞬間までは、抵抗してやろうと思う。
「わたしの中の、聖夜くんの記憶が消えちゃっても、もう一度聖夜くんを好きになれるのかな……」
 記憶を忘れた人がもう一度その人を好きになる可能性は零だ――と徹彦は言っていた。が、可能性なんてクソくらいだ。可能性なんて今までのことを統計して出したものに過ぎない。未来に、可能性で割り切れることなんてこの世には存在しないのだ、と聖夜は思う。だから、聖夜はこう言った。
「もしぼくが雪乃ともう一度出会ったら、今度は絶対にぼくが振り向かせてみせる」
 昔の自分からでは想像も出来ない言葉だった。いつから、こんな台詞を言えるようになったのだろう。いつから、こんなにも物事をはっきりと言えるようになったのだろう。すべては、雪乃と出会ってからだと思う。聖夜は雪乃に救われた。だったら、今度は聖夜が雪乃を救う番だ。絶対に、雪乃を幸せにしてみせる。自分のことを幸せにしてくれた彼女を、絶対に。
 いつから、雪乃のことが好きになっていたのだろう。今になって初めてそう思った。でも、今はそんなことは考える必要なんてないのかもしれない。だって、隣りには雪乃がいてくれるのだから。
「……ありがとう、聖夜くん……」
「……雪乃、あのさ、」
 その言葉を遮り、雪乃は言った。
「あの、お願いがあるんですけど、いいですか?」
「え……? あ、う、うん。……なに?」
 ごそごそと、雪乃がポケットを探る。そして中から出て来たのは携帯電話。雪乃は携帯を開き、ディスプレイを見て何やら操作をし始める。やがてその操作が終った時、突然に聖夜のポケットから電子音が流れた。着メロで、曲名は『to love song』。これに設定してある人はたった一人しかおらず、そしてこれはメールだった。携帯を取り出し、メールを確認しようとすると、それを雪乃が制した。
「待って。そのメール、見ないでください」
「見ないでって……」
 じゃあどうして送ったの? そう聞こうとすると、雪乃は少しだけ淋しそうに微笑んだ。
「わたしの記憶が消えちゃったら、それをそのままわたしの携帯に送信してください。内容は見ちゃダメですよ」
 その言葉の響きに、ずしりと来るものがあった。
 たったそれだけで、雪乃はすべてを受け入れているのだという確信が沸き上がった。そんな雪乃に、自分は何もしてやれない。だったら、それくらいの、いや、その『お願い』だけは聞き入れなければならない。今の雪乃にしてやれることは、たったそれだけなのだから。
 聖夜は携帯を閉まって肯いた。
「わかった。約束する」
 もう一度、雪乃は「ありがとう」と言った。その微笑みが、酷く悲しそうに思えた。その笑みに、自分は何をしてやれるのだろう。何か、もっと他に出来ることはないのか。考えろ、心の底から雪乃が笑えるような、そんなことを。自分に出来る最大のことを、考え抜け。
 しかしいくら考えても、今の雪乃にしてやれることは何もなかった。焦りだけが増し、これからどうすべきが必死に思考を巡らせたその時。
 最初にそれに気付いたのは、雪乃だった。
「あ……」
 雪乃のその声に反応して、聖夜は思考から抜け出し、そしてそれに気付いた。
 自然と立ち上がっていた。二人でゆっくりと歩き出す。草原のど真ん中へ、二人は歩みを進める。
 視線は、雲一つない夜空に向けられていた。
 聖夜は思った。


 ――星が、歌ってる。


 幻想的な光景だった。
 聖夜と雪乃の瞳に写っているもの。それは、無数に広がる流れ星。
 一つではない。何個も、何十個も、この視界一杯に広がる夜空に、星が流れている。
 まるで何かを祝福するように、まるで何かを照らすように、まるで何かを称えるように。流れ星は、止まることなく流れている。
 その時、確かに歌っていた。星は、この夜空で歌っていた。
 祖父に聞かされた言葉が頭の中で甦る。――雲一つないその夜空に満天の星が輝く時、【ほしのうた】が見えるだろう。どこまでも続く綺麗な夜空で、いつまもで続く【ほしのうた】。満月に導かれしその【うた】を、いつか誰かは聞けるだろうか――。すぐにわかった。違うかもしれない、という気持ちは全くなかった。
 いま見ているこれが、じぃちゃんの言ってた【ほしのうた】なんだ。そう思う。
 流星群。【ほしのうた】は、それを言い換えたものなんだってことを、聖夜は初めて理解した。
 それは、幻想的な光景だった。目を奪い、心を奪い、そして時間をも奪った。
 雪乃と一緒に、その光景をただ見つめていた。


 時間にすれば、一分足らずの出来事だったはずである。


 【ほしのうた】が終ると、夜空には静寂だけが残った。
 そんな中で、雪乃の声が聞こえた。
「今のが、聖夜くんの言っていた【ほしのうた】……?」
「……そう、だと思う」
 少なくとも、間違っているとは思えない。
 雪乃が微笑んだ。
「……よかった。最後に、聖夜くん一緒にこれを見れて……。もう、思い残すことなんて何にもないです……」
 瞬間、聖夜の隣りで微かな明かりが灯った。振り返ったそこで、聖夜は凍りついた。
 雪乃の体が、まるで蛍のように黄緑色に輝いていた。
 これが、合図――。時計は見なかった。見る勇気がなかった。聖夜が見つめる中で、雪乃はゆっくりと指で目元を拭った。そして、悲しそうに微笑んだ。ダメだ、と聖夜は思う。こんな表情のままで、雪乃を行かせてはならない。行かせてしまったら、自分は一生後悔する。
 雪乃の肩を掴み、その瞳を直視する。
「まだダメだっ! ぼくは雪乃に何もしてやれてないっ! お願いだ雪乃っ、まだ行かないでくれっ! ぼくに、雪乃のが望むことを、たった一つでもいいからやらせてくれっ! 雪乃には、ずっと笑っていて欲しい、だからっ!」
 その時、雪乃の指が聖夜の目元を拭った。
 そして不思議そうに聖夜を見つめ、黄緑色に輝くその中で、雪乃は言った。
「――……あなた、だれ? どうして……泣いてるの?」
 拭ってもらえたはずの涙が、また溢れた。まだ行かないでくれ、お願いだから、まだ、ぼくは何もしてない……だからっ、もう一度だけでも、お願いだから!
 その願いが通じたのか、それともただの偶然か。雪乃は、こう言った。
「そんなことないですよ、聖夜くん……。聖夜くんがいてくれるだけで、わたしは嬉しかったです、だから、泣かないでください……」
「でも……っ! 雪乃はまだ本当に笑ってない! それだったら……それだったら……っ!」
 雪乃のが、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「だったら、今のわたしからの最後のお願いです」
 腕がすっと回され、気付いたら、雪乃とキスをしていた。
 一瞬だったと思う。ゆっくりと離れた雪乃は恥ずかしそうに笑い、
「……聖夜くん、ありがとう……」
 言わなければならない。後ろを振り向かず、目を背けず、雪乃に、言わなければならない。
 勇気を、奮い起こせ。雪乃を、しっかりと見ていてやれ。
 聖夜は微笑んだ。自分が泣いていることに、今も気付かない。
 最後の、言葉だった。
「――さようなら、雪乃」
 雪乃は笑った。涙を瞳に溜め、それでも彼女は笑ってくれた。すっきりとした、何もかも受け入れたように。心の底から、聖夜を見つめるように、雪乃は笑った。
 そして、雪乃の最後の言葉を聞いた。
「――バイバイ、聖夜くん」


 刹那、雪乃の体を纏っていた黄緑色の光りがパァーっと舞った。
 無数の蛍のように、【ほしのうた】のように、それは幻想的で、とても綺麗な光景だった。
 この空間を舞う光りの一つ一つが、雪乃の記憶なんだと思う。
 忘れない。雪乃と過ごしたこの日々を、何が起ころうと、ぼくは忘れない。
 やがて、黄緑色の光りは、その輝きを失っていった。


 夜空に瞬く月と星に導かれ、浅摩雪乃の中から、結城聖夜の記憶が消えた。


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