カヤ日記

活動する研究者、かやちゅ。@カヤニストの行動記録
カヤネズミの研究&保護活動や野生生物の保全に関する話題をつれづれに

テニスボールとカヤネズミの話

2019-04-23 | 気になるニュース

先日から、ツイッターでのあるつぶやきを皮切りに、ウィンブルドンの使用済みのテニスボールをカヤネズミの巣の代わりにして保護活動をするという話題が出回っています。
これは別に新しい話題ではなく、20年ほど前に実施されたもので、その後いろいろな媒体で紹介されています(上記のツイートには根拠となる記事が示されていませんが、2001年のBBCの記事もしくはその後追いの記事を見てつぶやかれたもののようです)。

私自身は、当時この話を取材した方から「あんまり効果がなかったようだ」と聞いていたのですが、イギリスのハル・シティの生物多様性アクションプランにも、カヤネズミはテニスボールの巣をほとんど使わなかったと書かれています(そりゃそうでしょうね)。

しかしネットで拡散されている記事にはこうした経緯が省かれていて、「いい話」「かわいい」「日本でもやってほしい」「田んぼの周りにテニスボールを刺してほしい」などというつぶやきとともに、ツイッターだけでなくフェイスブックにも飛び火して、ネットのまとめサイトなどでも後追い記事が書かれ、どんどん広まっています。

これから、カヤネズミの繁殖シーズンに入るにあたり、この状況は非常にまずいと思っています。
そもそも、環境のキャパがないところに、テニスボールをおいてもカヤネズミは守れません。
主にイネ科やカヤツリグサ科の草を割いて編んで巣を作る習性があり、営巣場所にはそうした草本類が十分にあることが必要です。
草刈や稲刈りで、巣が丸見えになったら、その巣を放棄してしまいます。
テニスボールを刺しておけば問題ない、というわけにはいきません。

カヤネットのホームページでは、テニスボールを使った保護活動は効果がなく、かえって敵に所在を目立たせやすくなるため、安易に行わないように呼びかけています。

Q:テレビでやっていた、イギリスでのテニスボールを巣にしたカヤネズミの保護活動、日本でも効果はある?

知り合いの方がもし話題にされていたら、「テニスボールではカヤネズミを守れないよ」とぜひ教えてあげて下さい。
誤解に基づいた知識で、誤った判断がされないよう、どうぞよろしくお願いします。

それにしても、実質的でない、目先だけの保全活動が「かわいい」というだけでぱーっと広まってしまうのは、なんなんでしょうね。
20年間、地道にカヤネズミの生息地保全に取り組んできた身としては、なんともいえず、つらい気持ちになります。


カラパイアのカヤネズミ記事

2015-07-29 | 気になるニュース

日本最小のネズミ、「カヤネズミ」(カラパイア)

この記事をご存じでしょうか?
ネット上のカヤネズミの紹介記事としては、よく知られている記事です。

実は、ここで紹介されているカヤネズミの写真は、飼育個体をスタジオや屋外に放して撮影されたものです。

これらの写真をみて、「かわいい」と思う人は多いでしょう。
でも、私は非常に強い違和感を覚えます。
不自然にアクロバティックな写真が多く、竹馬にまたがったような姿は野外ではあり得ません。
特に巣を大きく広げた写真が酷い。

カラパイアの記事には、演出された写真とは書かれていません。
元記事を読むとわかりますが、いちいち英語の記事を読む人は少ないでしょう。
この記事のおかげで、日本では過剰に演出されたカヤネズミの写真が出回り、本来の生態のように誤解されています。
保護の観点からも、とても心配しています。

過去に、このような事例がありました。
2009年に、滋賀県で、目も開かないカヤネズミの子がいた巣が、植物についたまま大きく開かれ、発見者の男性が笑顔で写った写真とともに、希少種カヤネズミを発見として、読売新聞に掲載されたのです。

「滋賀・高島の空き地で「カヤネズミ」巣…子ネズミ2匹」(http://osaka.yomiuri.co.jp/animal/genre1/20090908-OYO8T00392.htm)
*リンク先は現在は見られませんが、一応ソースとして出しておきます。

記事を書いた読売新聞大津支局の記者に確認を取ったところ、記者が現場に到着した時には、すでに巣は開けられていたそうです。
しかし、これが美談として掲載されたことが、非常に残念です。

たとえば、野鳥のヒナがいる巣を広げて、発見者がにっこり笑っている写真が添えられた記事を読んだら、どう思いますか?
直感的にダメだと感じる人が多いのではないでしょうか。
カヤネズミも同じです。

話を戻しますが、カラパイアのカヤネズミの記事の問題点は、以前もツイッターで指摘したことがあります。
しかし、未だに記事が拡散され続けていますし、類似の演出過剰なカヤネズミの写真も増えてきています。

昨日、ツイッターで改めてこの記事の問題点について投稿しましたが、ツイッターの投稿は時間と共に流れていってしまうので、カヤ日記に意見を表明しておきます。

どうか、記事を読んで、カヤネズミの巣を開けて良いのだと誤解しないで下さい。
人の手で乱暴に暴かれた巣は、放棄されます。
最悪、子どもが親に見捨てられたり、かみ殺されてしまう可能性もあります。
竹馬にまたがったようなポーズが、本来のカヤネズミの行動だと思わないで下さい。
これらは、演出された写真であるということを、重ねて強調しておきます。

1度ネット上に広まった情報は、簡単には収束しないだろうと思いますが、カヤニストとしては、カヤネズミについて、正しい理解が広まるように願っています。


アユモドキ生息地に球技場、日本魚類学会が計画撤回要望

2013-03-10 | 気になるニュース

アユモドキ:絶滅危惧種、瀬戸際 京都・亀岡の生息地に球技場、日本魚類学会が計画撤回要望へ(毎日新聞 2013年03月05日 大阪夕刊)
(記事より引用)府自然環境保全課は「本格的な環境調査はこれから。共生ゾーンで新たな産卵場所を作るなど、建設の影響が最小限になるよう学識者と検討していきたい」と説明。

えっ、充分なアセスなしに誘致を決めたということ???と絶句してしまいました。
アユモドキは、国の天然記念物で、環境省RDBでは絶滅危惧IA類、京都府RDBでは絶滅寸前種にランクされています。
府の条例に基づいた希少野生生物の保全回復事業計画も策定されている種です(京都府の希少種対策について(アユモドキ) アユモドキ保全回復事業計画(pdf))。
その上で、このコメントとは、京都府民として非常に情けない思いです。

記事によれば、建設予定地の近くに唯一の産卵場所があり、工事予定地は稚魚の重要な生息場所になっています。
本種の保護には、京都府・大学の研究者・市民団体と官民協働で保護に取り組んでおり、このあたりに生息しているのはわかっていたはずです。にも関わらず、なんでこのようなずさんな計画が立ってしまうのか、理解に苦しみます。

サッカースタジアムと引き替えに、アユモドキを絶滅に追い込むようなことがあってはならないと思います。
建設計画の白紙撤回を支持します。


草地の保全をめぐる話題3件

2012-10-16 | 気になるニュース

最近の、草地の保全をめぐる3つの話題を紹介します。
いずれも文化的側面からの保全の重要性が大きく扱われていますが、生物多様性保全の観点からも、重要性は高いです。
近年、草地は開発などの影響で急速に減少しており、また草地をすみかとする多くの絶滅危惧種が生息していることから、草地は生物多様性のホットスポットと言えます。
私自身、カヤネズミの調査や観察会で訪れたことがあり、何とか生き物たちのすみかが失われることがないようにと願っています。

1.奈良平城宮跡地の埋め立て・舗装
世界遺産に指定されている奈良平城宮跡地の一部で、埋立て・舗装工事が進められています。
今回、45000m2の土地が埋め立てられることになり、地元の市民を中心に反対運動が展開されています。
既に工事予定地の草刈りが始まっており、来月には埋め立てが行われる予定とのこと。
近接する草地は、近畿で有数のツバメのねぐらとして知られています。
工事の問題点や反対運動の内容は、以下のサイトに詳しいです。
平城宮跡を守る会

2.淀川鵜殿の新名神高速道路建設
凍結されていた新名神高速道路計画が解除され、大阪府高槻市鵜殿の淀川河川敷のヨシ原の真上を通ることがわかりました。
高速道路の橋脚建設によるヨシ原の直接的な破壊と、維持管理のために毎年行われているヨシ焼きが、高速道路の開通後は実施が困難になると予想されることから、ヨシ原の衰退が懸念されています。
鵜殿のヨシは、雅楽の篳篥(ひちりき)の蘆舌(ろぜつ=リード)の材料として利用されています。
工事による鵜殿のヨシ原の衰退は、雅楽の材料の不足につながります。
危機感を持った雅楽関係者と地元でヨシ原保全活動を行っている人々が保全運動を展開しています。
SAVE THE 鵜殿ヨシ原 ~雅楽を未来へつなぐ

3.伏見・宇治川河川敷のヨシ焼き復活への取り組み
伏見のヨシ原では、毎年ヨシ焼きが行われてきましたが、2010年、宇治川河川敷で行われたヨシ焼きの煙が広がり、国道1号線が通行止めになった事態を受けて、以後ヨシ焼きが中止になりました。
火入れが行われなくなったヨシ原にはツルがはびこり、ヨシを刈ることができない状況になっているとのこと。
一帯のヨシは桂離宮などの文化財建築の材料や、市無形民俗文化財に指定されている、地元の三栖神社の炬火祭でたいまつに使われていることなどから、地元のヨシ屋さんと、自然観察を行ってきた市民団体が中心になって、ヨシ焼きの復活を目指す取り組みが行われています。
京を掘る:ヨシ焼き復活プロジェクト=伏見・宇治川河川敷/京都(毎日新聞2012年10月5日)

*写真は鵜殿の風景(2003年撮影)。


茅草人

2012-03-24 | 気になるニュース

「かかしいっぱい 山里元気」(朝日新聞夕刊、2012/3/22)

高知県香美市物部町の集落で、村民に似せたかかしがあちこちに作られ、反響を呼んでいるとのこと。

過疎が進む自分の集落を寂しく思った一人の男性が、「せめて、かかしで人を増やせないか」と考えて、自分に似せたかかしを畑に置いたところ、村の人に好評。
作業に加わる人も増えて、実在する村人をモデルとなったかかしが、集落各所に出現。
その結果、家に閉じこもりがちだった高齢者がかかし作りに参加。見物客も訪れるようになって集落が活性化し、活動の輪が広がっている。

写真で紹介されていたかかしは、生活感を伴っていて、本当に生きている人のようだ。
かかしは近所で拾ってきた木やわらなどで作られているとのこと。さらに見物客の訪問が刺激となり、人々が草むしりや掃除に積極的になったそうで、里山の管理にも一役かっていそうだ。
「小さなことじゃけんど、大きなことをやって長続きしないよりはいい」との発案者の言葉に共感した。

ところで、記事によれば、かかしは中国語で「茅草人」と呼ばれるそうだ。
知り合いの中国人に読み方を聞いたところ、「mao-cao-ren」だと教えてくれた。
以前にブログで紹介したが(→茅人Tシャツ)、中国には「茅人節」というお祭りもある。
草文化、茅つながりで、またひとつ共通点を発見して嬉しくなった。