複数付き合っている彼女の一人が
お家にやってきて
私と鉢合わせしたことは,書いてきたとおり。
ゆっくりゆっくり,反芻しながら記していくつもりだったのに
事態は,そんなに悠長な訳にはいかないらしい。
短いスパンの中で,二度目の接近は果たされてしまった。
初回のことを,じっくり記して振り返る間も無く
一度目の印象が消えてしまうくらいに
それは,起こってしまったな・・・と思う。
彼女は『楓ちゃん』と呼んでしまおう。
第一日目
楓ちゃんは,彼が体調が悪いとメールに記していたので,彼を心配してやってきたのだと言った。(単に歯痛でそこまで心配するかと思うが)
私は,彼女の話の内容から,疑わしきを確認にやってきたのだと思ったけれどね。
そこで,家に私がいるのを見て遭遇して玄関い応対に出た彼に対して
「なんかさ,やってること酷くない?」という第一声を聞いて
それなりに気丈で,強さを湛えた人なのだと思った。
でも,彼の評価も,本人からの自己評価も「弱く,鈍感な素直な馬鹿正直な人」
なのだと言う。
私が,特定はしていないものの,彼には他にも女性がいることを承知して
付き合っていると言うと
「そんなの平気なのは,あなたも他に付き合っている人がいるからじゃないのか?」と言っていた。
いろいろ物があって,ゴミがあって,行動も怪しくて疑ったら
「将来を考えているから,俺を信じろって言われていた。
私,結婚すると思っていたし。子どもにもそろそろ合わせようと思っていた。両親にも。
生理が遅れていて,本当に妊娠したのだと思っていた。
これが結婚のきっかけになるのは嫌だけれど,そういうきっかけも必要なのだと
思っていたところだった。
今日,生理が来て,そのことを報告したのに,本当に心配していたのに
他の人と遊んでいたなんて・・・」
泣きじゃくる楓ちゃん。
その前でも,彼はハッキリと
『二人とも別れないか,二人とも去っていくかのどちらか』と言っていた。
私に視線を送ってきて,助けを求めている様相。
それが,楓ちゃんを悲しい気持ちにしていたのだと,後日,彼女から言われた。
その夜,孫を乗せて,楓ちゃんの母が迎にきて,彼女は帰宅する。
楓ちゃんが錯乱している,事が起こったばかりの時に
「悪いけれどさ,緑子,今夜は帰ってくれないか」と言われた。
・・・・気がする。
でも,その後に,話しが佳境に入って,彼が一人でニッチもサッチも行かない状態になって
私も煮詰まってしまった時に
「私,帰るわ。なんなら,途中のホテルにでも泊まってもいいし」と去ろうとすると
「緑子,家は今頃帰れないだろう。お母さん,寝てしまっているしな」
と引き止める。
きっと,その時は,助けて欲しかったのだろう。
でも,結局は,その夜を一緒に過ごす。
楓ちゃんには一緒に過ごしたことを知られたくない様子だったのが気に入らない。
二人になり,彼が言ったことは
「結婚するなんて言ってないんだけれどな」
「これがきっかけになって,緑子と存在を認め合えればいいな」
「楓はメールで,俺が好きなようにしていいってさ。そんなに
卑屈に,引くこともないのにな」
ですって。印象に残っているのは,そんなところ。
ああ,向こうのお母さんから,彼の携帯に電話がバンバン入っていたっけ。
第二日目
一時的に強いショック状態にあることが,容易に想像できる楓ちゃん。
もちろん,今夜,私がいないところで接触されるであろう。
朝に想定する。彼「来てしまったら拒めないと思う」
そんなのは想定内だ。
彼女はやって来る。
仕事を休んででもくるかもしれな。
私は・・・・大好きな野球観戦で紛らすのだ。
実際,快勝してクライマックスシリーズに進出した試合観戦に
気持ちが晴れていくのを感じた。
その夜は,ぐったりと眠る。
彼の「今は,みんなが落ち着く時間が必要。時間を下さい。誰も悪くない。」
そのメールが引っかかりつつも,どろどろになった体で眠る。
楓ちゃんは,その時,ショック状態で,彼の職場までいき泣きじゃくり
そのまま,二日間ステイしていた様子だ。
幼子を残して,家を空けることは珍しいことだと言う。
そんなことまでに追い詰める状態に,たまたま居合わせてしまった自分が辛い。
だって,他の女と楓ちゃんという構図でもよかったはずだもの。
彼が,いくら「二人だけ」と言っても,私には,この時点では
複数いる女のなかで,たまたま楓ちゃんにあたったのが私だと感じていた。
私は蚊帳の外で,他の女と楓ちゃんならよかったのにと
本気で思っていた。
第三日目
私は,霊験あらたかな山へ裸足参り。
・・・・状況から欲したわけではないが,
状況的にはぴったりだった。
人形の薄い紙に,おのれの穢れを移し流す・・・
ぴったりだ。
彼からは「時間を取りたい」というメエルで,不安感募り出す。
第四日目
彼と直接会う予定。
時間は「決められない。都合よくなったら連絡するのでいい?」というメエル。
なんとも,悲しくなる。
そんなに,楓ちゃんに時間をかけるということは彼女を選んでしまったのではないかと不安になる。
でも,逢えば直ぐに
「お願い,別れるなんていわないで。探そう。いい方法を」
何一つ,楓ちゃんとのやり取りは明かされいないうちに
こんな抱擁は意味がないのに
心は解放されていく。
「誰も傷つけたくないし,緑子と離れるなんて考えられないんだよ。
やっぱり,緑子がいないと駄目なんだって,こんなことあって
なおさら思うんだ」
「楓ちゃんにななんて言ったの?」と問うと
「どちらとも別れたくないっていった。でも,楓は,いろんなことが
落ち着くまで,緑子さんは抱かないでって言ってた。
そのために,明々後日来るんだってさ」
「楓のお母さんと電話で話した。
今回のこと全て聞いたって言うんだ。
別れて欲しいって思っているんだよね」
どんなやり取りがあったのか
今となっては,寝不足と抗うつ剤の作用で朦朧とした頭では
思い出せない。
強烈に記憶があることしか思い出せない。
初日も,
彼女が窓をノックするほんの一時間前から
気持悪いほどの胸騒ぎを感じていて
それは的中していた。
この,四日目も,私は彼に口にする。
「10時前にお風呂に入ってしまわないと,また,お風呂に入る
機会を無くすよ」
それは,事実となる。
彼女は再びやってきた。
庭に彼女がいる。
「私はどうすればいい?」
「・・・・まずは逢ってくるよ」
しばらく,家に入ってこない二人。
その時の楓ちゃんの表情が忘れられない。
硬くこわばっている。
家に入ってくると,もう,彼女に精気が感じられない。
きっと,ほんの何時間か前に,彼から聞いた内容とは
別のことが知らされるに違いないことが,わかっていた。
楓ちゃんは
「私と別れて緑子さんと付き合いたいなら,そうしてって言ったんです。
でも,彼は,緑子さんとは別れるから,俺と付き合ってと言いました。
その後,母にも連絡してきて,安心してくださいって宣言しました。
母も,『雨降って字地固まる』と言っています。
緑子さんは,別れを告げられましたか?」
楓ちゃんのお母さんは,彼に別れて欲しいといったのではないのか・・・
彼が話し出す。
「俺は,緑子と別れることはできないよ。
別れるなんて思っていないし,だから,そんなこと告げてもいない。
あの時,泣きじゃくる楓を落ち着かせるには
そう言うしかないと思った。
楓のお母さんとの話は,俺が捉えているのとは,ちょっとニュアンスが違う。
俺は,別れて欲しいと言われていると思っていたよ。
どうしたいかって言ったら,二人とも面倒みたいんだ。
大事にしたいんだ」
真面目な顔して,こんな滅裂な内容言ったかと思えば
「二人とも去って。俺はお坊さんになる」
そんなことを言ってみたり。
私は,楓ちゃんと私が付き合いが始まっていた期間に
他の女と海外旅行に出かけていたいことも知らせてしまう。
たぶん,いろいろ言った。
三人の話をリードしていたのは私。
「私も,始めから平気だったんじゃないよ。
今は,楓ちゃんはショックが一番強い時だよ。
どうだろう,少し,考えるのを辞めてみては?
こう考えようよ。
考えることを止める,向き合い過ぎないで時間を取るの。
それは,棚上げにするのでは無いよ。
グツグツ煮詰まってばかりいても解決しないならば
考えることから離れるのを
『関係を熟成させる』って事だと考えようよ」
話しを終始けん引しすぎて,話し過ぎていたかもしれない。
そういう私に,彼は視線で訴える。
その姿に楓ちゃんは
「そういうのも嫌。前も感じたけれど,彼が緑子さんに
視線で目で語っている。そういう二人を見るのは嫌。
所詮,かなわないんだって感じる。
そこで,駄々っ子みたいにしている彼も見たこと無い。
そういう姿に,彼をさせたこと,私には無いよ」
また,泣きじゃくる楓ちゃん。
私は,もう,まったく,楓ちゃんを嫌とか憎いなんて気持ちは持てず
心配な存在。
「それは違うよ。私だって,二人が『ね・・・』って見つめあいながら
確認している姿に嫉妬していたよ。
みんな,そういう気持ちになるんだよ」
吐き出すだけ吐き出して
幾分,気持ちも治まった頃
楓ちゃんを彼と二人で送ることにする。
なのに,彼は,楓ちゃんの車を置いて,自分が送っていくから
私は家に残り,一人で起きて出て行けと言う。
私が代行の役割をして帆走すると言うと
「いいから,残れ」と強い口調で言いやがる。
納得しないと主張してみる。
折れて,出発。
楓ちゃんの車を運転する彼。
後ろを付いていく私。
車内では
「本当はさ,緑子に別れをいうからさ」なんてやり取りしているかもしれない。
楓ちゃんの自宅近くに車を止めて
私の車に彼が乗り込んでくるまでに大分時間がかかる。
ぐったりとした思考。
「もう疲れたな・・・どうしたら,この状況から解放されるかな」って
思ってしまう。
本意じゃないのはわかっているが,彼に言ってしまう。
「どうしたらいいんだろうね。疲れたね。
私が退くのが一番いいんだろうね。
楓ちゃんの両親は,こういうことが明らかになっても
あなたを,娘と孫を引き受けてくれる,立派なお医者さんのムコとして求めている。
私が退けば,一番いいんだよ」
「そんなの,嫌だよ。俺はよくないよ」
間髪いれずに返されてホッとする。
「・・・・でも,緑子はそうしたいの?」
「いや,本意じゃないよ。ただ,疲れたよ」
帰ったら,眠ろう。
ただ,泥のように彼を抱いて眠ろう。
そう思って,帰宅したのは四時過ぎ。
事は,それで終わらない。
彼は楓ちゃんの車にコートを忘れ,そのポケットに家の鍵は仕舞われていて
私達は締め出されていた。
私は,幸い,財布も携帯もあった。
そのまま,帰宅する。
帰宅して5時。
2時間眠って出勤。
よく,持っている。
第五日目
荷物を取りに,再び彼の家へ。
急いで取りに行くには理由がある。
また,いつ楓ちゃんがやってくるか知れない。
でも,楓ちゃんが娘とその祖母と旅行に出ている
今日中ならば,間違いなく安息の夜だ。
急いで行こう。
それが,第五日目だ。