観賞桃

日本で見られる観賞桃(2017年ー80品種前後)を、写真付きで紹介します。

❛相模しだれ❜は、一重咲き

2018-01-13 09:32:32 | ハナモモ
7. 八重咲きの❛相模しだれ❜は、❛垂枝緋桃❜

 

  『広益地錦抄 8巻』  国立国会図書館蔵


 

  『本草図譜』  国立国会図書館蔵

 紅花で八重咲きの枝垂れ桃は、元禄年間に、すでにありました。
『花壇地錦抄(くわだんぢきんせう)』に、❛しだれ紅桃(かうたう)❜の名で、4つの輪と2つの蕾が描かれています。
そして、本文には、「紅しだれ  しだれもゝの色 少あかき物なり」と、記されています。

 また、1739(元文4)年の『本艸花蒔絵』にも、見られます。
目録には、「紅下垂(こうしだれ)」、画には、「紅しだれもゝ」と、名が記されています。
そして、本文には、「紅下垂桃(こうしだれもゝ)  濃もゝいろ やゑ 大りん 花数多く付き 木のたれ ながめすぐれてよし」と、記載されています。

 それでは、『本草図譜』に描かれている、八重の❛さがみしだれ❜は何なのでしょうか。

それは、『三千とせ』に載せられている❛垂枝緋桃❜です。


 『三千とせ』には、開いた花が2つと蕾が1つ描かれています。
表を向いている花に見られる花弁數は、20枚前後です。
裏面から見られる花弁の数は、18枚です。
花弁は、緋色です。
雄しべの数は多く、色は薄ピンクです。
萼片は10枚あり、浅茶色が見られます。

 ここで注目すべき点は、6つ見られる旗弁です。
現在どこにでも見られる八重咲きの❛相模枝垂❜にも、同様に多くの旗弁が現れます。

 江戸時代の後期、緋色で八重咲きの枝垂れ桃は、❛垂枝緋桃❜以外に見当たりません。


 次に、『本草図譜』における誤記載について、私見を述べてみます。
『三千とせ』には、❛さがみしだれ(一重)❜、❛垂枝緋桃❜および❛垂枝さらさ❜の、3つのシダレモモが描かれています。
当時流通していた、これらの枝垂れ桃を『本草図譜』に載せるにあたり、❛垂枝さらさ❜は❛さらさしだれ❜としています。
ところが、八重の❛垂枝緋桃❜を誤って❛さがみしだれ❜としてしまったため、一重の❛さがみしだれ❜を省かざるを得なかったのが、真相だと思います。
 この『本草図譜』は、数多く模写されて販売されたため、人の目に触れる機会が多くありました。
いつの間にか、八重咲きの紅枝垂れ桃が、❛さがみしだれ❜として定着してしまいました。
 一方の『三千とせ』は、原本しか作られず、その上松平家に秘蔵されていました。
そのため、本来の❛垂枝緋桃❜の品種名は、忘れ去られる運命となってしまいました。
 更に悪いことに、一重咲きの❛相模しだれ❜が、駒場以外に広まらなかった事も、その原因の1つと考えられます。


 

  『浴恩春秋両園梅桃雙花譜』  国立国会図書館蔵


 

  『浴恩春秋両園梅桃雙花譜』  国立国会図書館蔵


 ※ しばらくの間、休みます。




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