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第6話(3)

カルムイク大平原(3)

 1942年秋、国境の緊張が緩み、山本たち残留組も独ソ戦に投入されることになった。

 シベリア鉄道でひたすら西に向かう。
どこまで行っても、果てしなく続くタイガ。
思い出したように現れる寒村。
(なんと広い国なんだ!)
そして、日本は果てしなく遠くなって行く。

 2週間程かけて、ロシア南部のサラトフにつく。
そこでアジア系兵士だけ集められ、戦車旅団が編成された。
ボルガ河下流域のカルムイク自治共和国出身の兵士が多い。
チンギス・ハーンの末裔で、遊牧の民だ。
顔つきは日本人とあまり変わらず、親しみがもてる。

 「ヤポンスキー?」(日本人か?)
「ニッポン モ ワレワレニ クワワッタノカ?」
(説明のしようがない。)「ダー。」(そうだ。)
胸ポケットにお守りみたいなものを、入れている。
「ブッディスト?」(仏教徒か?)
「ダー。コミッサール、ナイショ。」

 戦車はT34だ。
強力な76ミリ砲、厚い装甲、強力なエンジン、悪路に強い足回り。
但し、居住性、操縦性は悪く、通信機能も貧弱だ。

 激戦が続くスターリングラードは陥落寸前だった。
しかし、ドイツ軍の力は尽きかけており、ソ連軍は持ちこたえていた。
ここでスターリンは、スターリングラードのドイツ軍30万名を包囲、殲滅する反攻作戦を準備していた。

 第4機械化軍団に編入された山本らの戦車旅団は、雪の降る中、カルムイク大平原を通り、スターリングラードの南方に移動した。
スターリングラード方面は雪原の彼方、黒煙が無数に立ち上がっている。

 黒く流れる大河、ボルガ河が戦車の覗き窓から見える。
(遥かなる祖国、あまりにも遠い。)
(悔いることは多い。しかし、一度きりの人生、後を振り返るのはやめよう。)
(戦争が終わったら、この地、カルムイクで新しい人生を始めよう!)

        ――― 完 ―――

     
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