「どうだ、危ない仕事だが、やってみるか?」
ある朝、皆が作業をしているとき、船長が話を持ってきた。
佐世保の某所に旧軍隠匿物資の石油があるという。それを無断で頂戴しようと言う話だ。
「やらんでか。泥棒から盗んだって罪にはならんたい。」
「相手も警備しているはずだから、作戦をねらんとな。」
「倉庫の道路沿いは、塀と鉄条網に囲まれ、侵入は無理だ。」
「倉庫の後ろの海沿いの崖から入るぞ。」
夜、船で佐世保から数キロ離れた海岸線に近づく。
ゴムボートに乗り、ごつごつした岩場に上陸した。
「敵前上陸だ、興奮するばい。」
「まさか、撃ってはこんじゃろう。」
「わからんぞい。」
崖をよじ登り、建物の陰に隠れる。
2人の男がパトロールしている。
1人は懐中電灯を、もう1人はカービン銃を肩に掛けている。
「申、他に警備員がいるかどうか、調べて来い!」
門のそばのポストの中に、胡麻塩頭の男が1人、ウトウトしていた。
「見張りは俺たちがやる。申は、門番が騒ぎに気がついたら、脅して縛っておけ!」
銃剣を渡される。
ポストの陰に隠れていると、十分ほどして、“ドカドカッ”という音が建物のほうから聞こえた。
門番が、はっと起き上がる。
兵藤は素早くポストに入り、銃剣を男ののどに押し当てた。
男を床に腹ばいにさせ、後ろ手に縛った。
“バチン”という大きな音が聞こえた後、押し殺したような物音が続く。
どうしたらよいか判らず、不安になった頃、“ヒュー、ヒュー”という撤退の合図の口笛が聞こえた。
兵藤は思い切りの力で、男の首筋に銃剣の峰を叩きつけ、ポストを飛び出した。
建物の辺りに行くと、もうすでに、船長たちが石油缶を崖の下に降ろし始めていた。
30個ほどの石油缶に、漁具の浮きをつけたロープを結び、船まで引っ張ってゆく。
「大漁だ!」
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