1883年、ヨーロッパ初の大陸横断鉄道が開通した。
フランスのパリから、オスマン帝国のイスタンブールまで、全長3千2百キロを走る。
西野中佐は、パリのストラスブール駅のプラットフォームで汽車を待つ。
後藤領事代理が見送りに来た。
「高い乗車賃を払ったんだ。価値のある情報を持ってきてくれ。」
「ご期待に沿えるよう、全力を尽くします。」
夜、7時30分、列車は駅を離れた。
汽笛が緊張感を高める。
蒸気機関車に牽引された列車は、寝台車2輌、食堂車1輌、荷物車2輌の5輌だ。
客車の内部は一流ホテル並みの豪華さだった。
マホガニーの壁、ビロードのカーテン、革張りの椅子、オリエンタル・カーペットなど。
客室はオーストリア・ハンガリー帝国の軍人と同室だった。
フランス語で話す。
「私はカール陸軍少佐です。パリでの用事を済ませ、ボスニアに赴任するところです。」
「ボスニアの情勢はどうですか?」
「ボスニアは我が帝国の占領下にあるのですが、近頃、独立を目指す武装勢力の活動が活発化しています。」
「その武装勢力を、隣のセルビアが支援しているようなので、やっかいです。」
「そして、セルビアの後ろにはロシアがいます。」
「日本もロシアを一度破ったとはいえ、油断できませんぞ。」
参考図:「オリエント急行の時代」、平井正、中央公論新社、2007
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