哨戒艇といっても、各島、各所に散らばる駐屯部隊への兵員、食料、備品、郵便物などの輸送が主で、時々ゲリラ掃討戦や潜水艦の見張りに駆り出されることがある、と織田航海士が教えてくれた。
「今日はルソン島南部の駐屯地への物資輸送だ。」
雨の中をディーゼル・エンジンの音を響かせながら出発する。
藤田艇長(皆、“船長”と呼んでいる)と織田航海士は雨にけむる前方を見つめている。
本田と砲手2人は甲板員2人の荷物の仕分けを手伝う。
「近い所の荷物は手前に持って来い。」
「地名がわかりません。」
「バカヤロー、地図ぐらい見ておけ!」
船倉から出る時、荷物が重いので、つい敷居を踏んでしまった。
こわい木下甲板員のビンタが飛ぶ。
荷の仕分けが一段落したとき、
「ゲリラに警戒!」の声。
「お前の前任者が海岸の崖の上から撃たれたところだよ。」
砲手の田中と井口が機関砲に取り付く。
2人とも、乗っていた海防艦が潜水艦に沈められて、ここに配属されたのだ。
今回は何事も起こらなかった。
夕食を食べる。握り飯と漬物、缶詰のニシンだ。
船乗りの握り飯は、頭が痛くなるほど塩っぽい。
夜、基地からの電信文を受信する。
簡単な暗号になっているので、平文になおし、“船長”に報告する。
船尾で阿部機関士が釣り糸を流して、魚を釣っていた。
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