山西省の奥地にも、中央の政変が伝わってきた。
林彪副主席がクーデターを起こし、失敗、逃亡途中で死んだこと。
また、党中央委においてイデオロギー重視の極左派が後退し、周恩来などの経済重視の穏健派が優勢になったこと。
人民公社の集団化が緩やかになる。
さらに、一部農地の個人請負制度も始まった。
京生のいる離石人民公社でも、生産性を無視した開墾は中止され、下放青年らも、徐々に都市に戻ることを許されるようになった。
“都市戸籍を失ったら、一生山奥暮らしだ。いやだ!”
京生は父の死を理由に、帰郷を申し出、許可された。
数年ぶりの故郷だった。
「ただいま帰りました。」
母は真っ黒に日焼けし、やつれて面変わりした息子を見て、涙を流した。
「お帰り、ご苦労さんだったね。」
こうして京生は、街に溢れている待業青年(失業青年)の一人になった。
学歴もなく、技能もなく、知識階級出身で、元紅衛兵を受け入れてくれる職場はなかった。
建設現場での日雇い仕事や農作業の季節仕事で、その日その日を送る。
同じような境遇の仲間が集まり、互いの境遇を嘆く。
「俺たちは毛主席のため、人民のための革命活動をしたんだ。この扱いはないだろう!」
「いろいろな組織で、実権派が復活しているという話だ。」
「毛主席も永続的な革命が必要だ、と言われている。もう一度運動を起こそう。」
しかし京生を含め、皆、勇ましい言葉とは裏腹に、社会の潮目が変わりつつあるのを感じていた。
参考図:「中国文化大革命の大宣伝」、草森紳一、芸術新聞社、2009
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