1.黒田荘
ここは伊賀国名張郡(三重県西端、奈良県の近く)の荘園、黒田荘である。
山々に囲まれた盆地だ。
伊勢と奈良を結ぶ伊勢大道が通っている。
川沿いの平地に村落が点在し、そのまわりに田畑が広がる。
この荘園の領主は東大寺だ。
荘園の管理を任されているのは、我らが主、大江清定である。
乙次郎は名主、太郎左衛門の三男坊だ。
御家人ではないが、主から帯刀を許されているので、自分は武士だと思っている。
ある夜、半鐘が鳴った。
「隣村に夜盗が現れたぞ!」
郎党数人を引き連れ、夜道を急ぐ。
村に着いたときは、夜盗が米びつを運びだすところだった。
乙次郎は逃げ出す夜盗の背中に一太刀浴びせる。
振り返った夜盗の振り下ろした刀を跳ね上げ、相手の胸元に刀を突きとおす。
残りの夜盗は米びつを放り出し、山中に逃げ込んだ。
相手は夜盗だけではない。
黒田荘の隣は国司が治める国衙領であり、境界があいまいで、
相手との境界争いが度々起こった。
参考図:悪党鎌倉時代の画像、bing.com/images