タタールとの闘い(3)
トルコ兵がいるアゾフ要塞は、黒海やカスピ海方面に略奪行に行くドン・カザークにとり、目の上のタンコブだった。
窮したカザークは、トルコと問題を起こしたくないツァーリの意向を無視し、アゾフ要塞への攻撃を決めた。
そのころロシア本土では、農奴制が強化され、税金や賦役に耐えかねた多くの農民がドン下流地域に逃亡してきた。
ワシーリェフの村にも、そうした農民が村はずれに居つくようになった。
生活の基盤を持たない彼らは、村民の日雇い仕事で生活の糧を得ていた。
ワシーリェフが軍務につくことになり、家の畑仕事にビクトルという男を雇った。
ビクトルはワシーリェフと同年配の、眼付きの鋭い、落ち着きのない若者だった。
「僕もカザークになりたい、と村のアタマンにお願いに行ったんだ。」
「何度も頼み込んだら、“アゾフ攻略でよい働きをしたら、取りたててやる”と言ってくれた。」
「ワシーリ、君は戦いの経験は?」
「何度か、タタールとはやりあったよ。」
「でも、今度は精鋭トルコ軍が相手だ、タタールのようにはいくまい。」
「しかし、カザークに生まれたからには、男らしく戦って死ねれば、本望だ。」
参考図:「プガチョフの反乱」、中村仁志、平凡社、1987