第100大隊は、カッシーノ山塊での激しい戦いで、兵員の30%の死傷者をだして、力尽き、後退命令が出た。分隊でも、ヒラヤマ軍曹とスズキがイタリアの土となった。
第34師団に代わって、第4インド師団と第2ニュージーランド師団が2回目のカッシーノ攻撃を行うこととなった。
その前に、ドイツ軍の主要観測所と見られる、モンテ・カッシーノ山頂にあるベネディクト修道院を空爆により破壊する命令が出された。
ゴトーは数マイル離れた包帯所から、その様子を眺めていた。
最初にモンテ・カッシーノ上空に、青い空に飛行機雲を引きながら、B17の大編隊が次から次へとやってきて、爆弾を落とす。
たちまち、頂上が爆煙と白熱の炎に覆われる。
ドロドロドロ
しばらくして、数百のドラムを鳴らしたような音で、空が満たされた。
数百門の重砲がこの饗宴に加わりだした。
モンテ・カッシーノ全体が雷で打たれたようだ。
さらに、低空から中型爆撃機、B25とB26の編隊がやってくる。
包帯所の兵士や所員達はこのスペクタクルを、うっとりと見とれている。
しかし、実際にはこの爆撃の効果は低く、高さ45m、厚さ3mの城壁を部分的に破壊しただけで、かえってドイツ軍に格好の防衛拠点を与えてしまった。
このカッシーノをめぐる戦いは、さらに4ヶ月間続くのである。
第100大隊は、ナポリ郊外のベースキャンプに移った。
ゴトーも包帯所を出て、部隊に復帰した。
イノウエ少尉に申告する。
「ごくろう。わが隊はしばらく休養だ。次に備えろ。」
「今はササイ軍曹が分隊長だ。」
2週間ぶりなのに、ひどく懐かしい。
「よお、生きていたか。」
「包帯所で、ナポリは天国だって聞いたよ。」
「ああ、買って、飲んで、抱いて、音楽を聴いてさ。」
「嘘つけ、ナポリは世界で一番美しい町だって誰かが言ったけど、今は破壊と喧騒と悪臭の町だ。」
「それと、売春婦の町さ。」
猛毒の淋病が兵士の間で蔓延し、売春宿への兵士の出入は禁止されてしまった。
ワインだけはたっぷりあった。
カッシーノの悪夢を振り払うように、毎晩飲んで、騒いだ。
ヴェスビオス火山が、何事も無かったように、ナポリの町を見下ろしていた。
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