gooブログはじめました!

第4話(4)

渡河(4)

 ドン、ドン ドン
その夜、ゴトーたちは川を渡り、後退した。
負傷したカナヤとニシオカは、毛布に包んで運んだ。
戦死したイトーは、しばらくは泥の中だ。

 味方の攻撃部隊とすれ違う。
暗くてよかった。我々の姿を見たら、戦意を失うだろう。

 攻撃発起地点に、行方不明のササキがいた。
「おい貴様、どうしたんだ!」軍曹、ササイ兵曹、タナカが詰め寄る。
「すみません、軍曹、足をくじいて皆について行けなかったんです。」
「這ってでも来い!援護射撃ぐらいできたろう。」

 ササキは青い顔をして、うつむく。
「いいか、1人臆病者がいると、分隊全員がやられることがあるんだ。今度、勝手に離脱したら、脱走罪で告発するぞ。」
軍曹の平手が飛ぶ。タナカがササキの胸倉をつかむ。
「今度から、お前が俺の前を行け。逃げやがったら、お前の背中に一発食らわすぞ。」

 大損害を受けた第100大隊は、後方の兵站地まで1たん下がり、再編成に入った。

 ゴトーたちは、冷たいシャワーを浴び、フィルドジャケットを洗濯し、ウールの下着と靴下、オーバーコートを受領した。故郷からの手紙も届いていた。

 フジイが話しかけてくる。
「家から何て言ってきた?」
「元気でやっているか、だってさ。今日元気でも、明日はわからないよ。」
「女房が海軍関係の工場で働き始めたそうだ。俺は日系の新聞社に勤めていたけど、閉鎖になって失業していたから、貯えが底をついたんだ。よかったよ。」
「僕の親も海軍造船所を辞めさせられたんだが、再雇用されたそうだ。自分が命をかけて、戦った甲斐があったというわけさ。」
「クッキーを送ってきたんだ。お袋が焼いたんだ。」

 ヒラヤマ分隊にも、パリパリの補充兵が3人やってきた。
同じ年頃なのに、自分がひどく老けているように感じた。

     
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「大西洋」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事