ドン、ドン ドン
その夜、ゴトーたちは川を渡り、後退した。
負傷したカナヤとニシオカは、毛布に包んで運んだ。
戦死したイトーは、しばらくは泥の中だ。
味方の攻撃部隊とすれ違う。
暗くてよかった。我々の姿を見たら、戦意を失うだろう。
攻撃発起地点に、行方不明のササキがいた。
「おい貴様、どうしたんだ!」軍曹、ササイ兵曹、タナカが詰め寄る。
「すみません、軍曹、足をくじいて皆について行けなかったんです。」
「這ってでも来い!援護射撃ぐらいできたろう。」
ササキは青い顔をして、うつむく。
「いいか、1人臆病者がいると、分隊全員がやられることがあるんだ。今度、勝手に離脱したら、脱走罪で告発するぞ。」
軍曹の平手が飛ぶ。タナカがササキの胸倉をつかむ。
「今度から、お前が俺の前を行け。逃げやがったら、お前の背中に一発食らわすぞ。」
大損害を受けた第100大隊は、後方の兵站地まで1たん下がり、再編成に入った。
ゴトーたちは、冷たいシャワーを浴び、フィルドジャケットを洗濯し、ウールの下着と靴下、オーバーコートを受領した。故郷からの手紙も届いていた。
フジイが話しかけてくる。
「家から何て言ってきた?」
「元気でやっているか、だってさ。今日元気でも、明日はわからないよ。」
「女房が海軍関係の工場で働き始めたそうだ。俺は日系の新聞社に勤めていたけど、閉鎖になって失業していたから、貯えが底をついたんだ。よかったよ。」
「僕の親も海軍造船所を辞めさせられたんだが、再雇用されたそうだ。自分が命をかけて、戦った甲斐があったというわけさ。」
「クッキーを送ってきたんだ。お袋が焼いたんだ。」
ヒラヤマ分隊にも、パリパリの補充兵が3人やってきた。
同じ年頃なのに、自分がひどく老けているように感じた。
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