第100大隊は完全装備でLSTに乗り込む。サレルノまで3日間の航海だ。
危険な夜が来る。灯火管制で真っ暗闇の中を、黒い船体が白波を立てながら進む。
前線の匂いをかぎつけた兵士達は緊張する。
暗闇の中で、同じ分隊のタダシ・モリモトがシゲルに話しかけてきた。
「君は何で志願したんだい?」
「アメリカへの忠誠‐‐‐と言いたいところだが、家族と自分のためさ。親父は海軍の造船所で働いていたんだが、日本軍のパール・ハーバー攻撃でクビになり、失業中でね。子供が志願すれば、再雇用もありうるんだ。それに、僕はハワイ大学の工学部を目指しているんだが、軍歴があれば有利だからね。」
「君は?」
「家でパイナップル栽培をやっているんだ。このまま、狭い島であくせく働いて、一生暮らすのはごめんだ。別な世界を見て見たい、と思ってね。」
「無事に帰れるかな?」
「さあな。神のみぞ知る、だ。」
白波が立ち始め、LSTはひどいローリングとピッチングを繰り返し、船酔いに苦しむ兵士が続出した。
曇天の中、船はサレルノに到着した。ドイツ軍が撤退してから、まだ4日しかたっていないため、戦いの跡が一面に残っていた。大破したLST、あばた状の砲弾による穴、焼け爛れた戦車、打ち棄てられた多数の装備品、破壊された町、それとオリーブ林のそばの木切れの十字架群。
参考図:「二世部隊物語」、菊月俊之、グリーンアロー出版、2002年
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