隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

ギャグ連発の中、老人の悲哀を~『サンシャイン・ボーイズ』

2022年03月11日 22時30分36秒 | ライブリポート(演劇など)

2022.03.09
『サンシャイン・ボーイズ』
  at 下北沢 本多劇場


  https://spice.eplus.jp/articles/297601

■ 作 :ニール・サイモン
■ 訳 :小田島恒志・小田島則子
■ 演出:堤 泰之
 
■ 出  演:加藤健一/佐藤B作
       佐川和正(文学座)/田中利花/照屋 実/加藤義宗/韓 佑華
  声の出演:清水明彦(文学座)/加藤 忍


 一緒に行くはずだった相方が急な仕事で行けなくなり、前日に3回目のワクチン接種済みの友人に声をかける(最近は誘うのも遠慮してしまう)。
 忙しい人なので、終演後、楽しかったね~、の一言で消えてくれるのもありがたい(笑)。
 基本的に芝居のあとはあんまり話をしたくないので(おもしろかった場合も、つまらなかった場合も)、相手に気を遣うのがちょっとわずらわしい、わがままな私。相方だと遠慮なく黙っていられるのでいいのだけど・・・。

 コロナの影響で2年遅れの上演。
 これは2年前の記事とお二人のインタビュー。
 https://lp.p.pia.jp/shared/cnt-s/cnt-s-11-02_2_477f4b86-568d-425e-abea-30e344f4f4d9.html

  【スペシャル動画】『サンシャイン・ボーイズ』カトケン&B作さんコメント
 まさか、このあとにコロナ感染症が広まり、中止に追い込まれるなんて想像もしてなかった頃だ。


 ご年配の(失礼)役者が二人、激しく行きかうやりとりで、終始舞台を盛り上げる。
 わがままでプライドばかり高くて、少しだけ物忘れもありつつ、それをうまく利用して周囲を巻き込む術も心得ているような、ダメなような、そんな往年の大スターの芸人、ウィリー・クラーク(加藤健一)。
 彼とコンビを組み、長年名コンビとして世の中を沸かせていた相棒、アル・ルイス(佐藤B作)。
 お互いに芸人としての相手は敬愛しつつも、長年のコンビ時代に積み重ねた鬱憤は、11年前にコンビを解消してからも消えることはない。
 ピンの役者として業界に残ったウィリーは、仕事はしたいが思ったようにはいかず、以前と同じホテルを定宿として、甥であるマネジャーの世話になっている。
 一方、引退したアルはニューヨークを離れ、娘一家と平穏な暮らしをしているようだ。
 その二人に「一回限りのコンビ復活!」というテレビ番組の依頼が飛び込んでくる。
 久々にステージに立ちたい気持ちと、その思いを素直に出せずに甥のマネジャーを困らせるウィリー。輝かしい過去の栄光があるだけに厄介な老人だ。
 アルのほうはもう少し柔らかな雰囲気を見せるが、芸に関しては譲らない頑固さを秘めてはいる。
 昔喝采を浴びた「診察室」というコントをやることになり、そのリハーサルをする二人の見事に息の合ったようすと、変わらぬ頑固な面がぶつかり合い、現代の笑いとは少々異なるベタな騒々しさで、現実の私たちを笑わせてくれる。
 結局、心臓発作に襲われたウィリーのために、一夜限りのコンビ復活は流れてしまったが、ラストでベッドの横になるウィリーと、彼を見舞うアルの間に交わされる「息の合ったコンビのやりとり」に、こちらの胸が熱くなる。
 どうもその後は、役者たちが入る同じ老人ホームに入居することになりそうだが、そこでどちらかが旅立つまで、こんなやりとりを交わしながら賑やかに暮らしていくことができるのだろうか、と思いを馳せる。

 往年の人気コンビでありながら、ここ10年余りはまったく交流もなく、異なる世界に生きてきた二人。その長い空白の時間を越えて、そう、いとも簡単に越えて、かつてそうであったであろう息の合ったやりとりを見せてくれる。
 初共演という加藤健一と佐藤B作が、こちらにも伝わってくるような無邪気な喜びを見せてくれて、本当に楽しい2時間余りだった。
 果てしなく続くギャグとつながらない会話を織り交ぜながら、二人の主人公はリアルに老いぼれた男たちであり、片方はかつての栄光を捨てられずにいるわがままな男であり・・・。
 人生の黄昏を生きる物悲しさもたしかに伝わってきて、笑いながら胸に迫る。

 カーテンコールで、少しだけ感極まったかのような、主役のお二人の表情がとても印象的だった。
 コロナ禍で一度は中止に追い込まれた芝居をこうして再開できたこと、丁々発止のやりとりに客席がわいたこと・・・。
 年齢を感じさせない熱い芝居を終えて、ふっと素に戻り、年齢相応の疲れと満足げなまなざしを見せてくれて、とても素敵なカーテンコールだった。




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