隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

エキスポ(加藤健一事務所)

2006年03月15日 00時26分06秒 | ライブリポート(演劇など)
■『エキスポ』(加藤健一事務所)
19:00開演(下北沢・本多劇場)

 昨秋の一人芝居『審判』以来の加藤健一事務所の公演(といっても、皆さん、ご存知でしょうが、加藤健一事務所は加藤健一自身が『審判』を上演したくて立ち上げた劇団で、純粋な劇団員は彼一人ということです)。
 かつてテレビに出ていた頃の彼は、なぜかあまり好きではなく、興味がないというより嫌いだったのですが、2004年に再演された『すべて世は事も無し』を観てからは、毎公演引き寄せられるかのように、本多劇場に通っている。
 この魅力はなんだろう。同じテーマを扱ったとしても、長塚圭史のグロな世界とは違う(これも大好きですが)、「ハートウォーミングな」(これ、カトケン芝居のキャッチコピー?)上質な笑いの中に隠された真実を見据える姿勢かなあ。ま、理屈じゃないんだけど。

 今回は、中島淳彦脚本、というから最初から期待は高まるばかり。『エキスポ』は2001年の岸田戯曲賞の候補にもなった作品で、1970年、万博が開催されている頃の、大阪から遠く離れた宮崎の片田舎が舞台。大衆食堂と連れ込み宿(ラブホテルではない!)を切り盛りして、生活力のない夫や息子娘を育てた母親が急死し、その通夜~告別式までの舞台裏が描かれる。
  登場人物14人によって、実際には舞台に現れない母親の姿が迫ってきて、一癖も二癖もありそうな家族やその周辺の人たちがちょっとした事件?に右往左往する。その中から、人が揉まれあって軽くぶつかりあって、本音を言ったり隠したり、自分を飾ったりさらけだしたりして暮らしていくことが、ああ、なんだかすてきだな、と思えてくる。セリフがとにかくいい。いくらテンポが早くてもしっかり胸にせまってくるのは、役者の力量もあるだろうけど、やっぱりすぐれた脚本だからなんだろう。浮いたセリフが一つもないから、人物がそれぞれちゃんと匂いをもって生きている感じがする。
 セットも好きだな。今でもこういう家は残っているんだろうか、地方にいけば出会えるんだろうか、そんな淡い期待をもたせてくれる。
 そして役者たち。相変わらず加藤健一は存在感があって、あのでかい顔が妙にかわいらしく映ったりする。どこにでもいそうな、頼りないけど人のいい長男を時に力をこめて、でもすごくゆるやかに演じていた。
 しっかりもので明るく、たぶん死んだお姑さんのように一家を引っ張っていくんだろうな、と思わせる長男の妻役を演じたのが、富本牧子。昨年、下北沢のOFF OFF劇場で『リタの教育』を観て以来。リタの底抜けの明るさとはまた違った、生活臭のあるたくましさを見せてくれた。今とても気になる女優さんだ。
 そして、加藤健一事務所公演で欠かせない加藤忍。彼女は加藤健一事務所の俳優教室の出身。その人の容姿の美しさ、華のある声、表情…。天性のものなんだろうけど、器用になんでもこなしてしまわなければ、きっといい女優になるだろうなあ。今回は、ちょっと勝気な明るい、でも離婚をちょっと引きずっている長女の役だった。
 そのほかの出演人も、適度なはじけぶりが心地よい舞台だった。
 
 母親の日記に何が書かれていたかを、みながそれぞれに気にしていて、結局長男はそれを母親と一緒に火葬場で焼いてしまうんだな。
 見たいけど、なんだか見るのが怖い。人の日記ってそういうものだ。まして身近な人であればあるほど、日記はその相反する気持ちを増幅させるだろう。たぶん、それは死者と一緒に葬るべきものなんだろう。残された者は、自分が見て感じたことだけを思い出にすればいい。日記に書かれた心の深遠は覗いてはいけないのです。

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