法律に盲点あり １６３号

卓越した能力の野球投手である江川卓は巨人軍に入団することが希望である。プロ野球業界の法律に従ったドラフト会議の結果は、ライオンズ球団で、入団を拒否してアメリカに渡る。巨人軍就職活動のためのアメリカ留学を突如切り上げて緊急帰国。「ドラフト会議の前日は自由の身分で、ドラフト外の選手として入団契約可能」と解釈し、巨人は江川と入団契約を締結した。空白の一日とも言われ、世間で江川事件として有名である。

当時の野球協約(法律)では、ドラフト会議で交渉権を得た球団がその選手と交渉できるのは、翌年のドラフト会議の前々日までとされていた。この規定は前日まで交渉を続けた場合には球団関係者がドラフト会議に出席できない、球団側の都合である条項が、選手に有利な解釈を可能にした法律の盲点である。

人気商売は世論を無視できず、種々雑多な人間ドラマを生んだ。江川報道による問題提起と宣伝広告効果の業界に対する貢献は巨大で、江川は成る程「巨人」である。

高校野球は男子球児のみの祭典で、女性はユニホームを着用して、甲子園のグランドに入ることが出来ない法律がある。しかしやはり法律の盲点はあるので、選手としては出場できないが、監督なら可能である。千葉県立鎌ケ谷の斎藤友夏莉投手が高校球界では史上初の現役女子高生監督として誕生する。女性が監督になるのは世間常識の盲点である。

輸入バターは、冷蔵で運ぶから運賃も高額で、ＣＩＦ(外国の売主は、貨物を荷揚げ地の港で荷揚げするまでの費用の運賃、海上保険料等を負担)に対して２９．８％とＫｇ当り１７９円の関税がかかる。それに国内酪農家を救う農畜産業振興機構（農水省の外郭団体）へＫｇ当り８０６円を支払う法律があるが、全額酪農家の為とは考え難い。しかし砂糖を混ぜて輸入すると役所に支払う金額を節約できる盲点がある。

中国の鰻に対して、食の安全の観点からその表示に関する法律がある。中国産や愛知や愛知産などあるようであり、価格も違う。言葉による騙しのテクニックである。
独立行政法人の農林水産消費技術センターにおいて、使用した原料のうなぎが「国産」である旨の表示がされている８０業者の８０商品を買い上げ、その品種の確認のため、多額の経費を使いＤＮＡ分析を行ったところ、全商品が「ジャポニカ種(ニホンウナギ)」であったようであるが、盲点が存在する。中国で養殖された鰻を中国で加工しても、中国産の鰻を日本で加工しても、愛知県一色で養殖された鰻を中国で加工しても、日本で加工しても、鰻の品種は同じであるが、食の安全性は同じというわけではない。スーパーの販売基準による違いも当然ある。

外国の子牛を舟で運び、日本で肥育した牛肉は、黒毛和牛ではないが国産牛肉なのだろう。牛肉になると区別がつかない。安全性の評価は、多分私の死後の話である。

「価格が安いことは善」は「資本主義的物欲社会」の呪術で、その原理原則で肥満体となったメタポリック症候群の企業の食品を、安価であるからと言って暴飲暴食をすると生活習慣病のメタポリ患者になる。近い将来の食料危機の可能性を念頭に置く慎重さが無いと、子子孫孫が飢餓に苦しむことになる。今が良ければ全て善しとはならないだろう。

近所の旧知の魚屋主人が吟味した鰻の蒲焼の対面販売は、鰻の素性が明確で、割高であるが安全であり、魚屋の経営の窮地を救う一石二鳥の効果があり、紙幣の価値が二倍になる。
そして魚屋として一生を捧げた主人の法律には盲点がなく自然である。