東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

「さまよえる絵筆ー東京・京都 戦時下の前衛画家たち」展(板橋区立美術館)

2021年04月15日 | 展覧会(日本美術)
さまよえる絵筆ー東京・京都 戦時下の前衛画家たち    
2021年3月27日〜5月23日
板橋区立美術館
 
   板橋区立美術館による昭和初期の前衛美術を対象とする展覧会シリーズの最新作。
   1930年代後半、日本の前衛画壇は最盛期を迎える一方で戦争に伴い表現の自由が奪われつつありました。また、美術界では日独伊防共協定の締結、太平洋戦争開戦などをきっかけにイタリアのルネサンス絵画や日本の埴輪や仏像、庭園などの前衛とは対照的なものの紹介が盛んになります。東京に暮らす美術文化協会の福沢一郎や靉光、麻生三郎、寺田政明、杉全直、吉井忠らに加え、同会に京都から参加した北脇昇、小牧源太郎、自由美術家協会の長谷川三郎、難波田龍起ら、そして新人画会の松本竣介をはじめとする画家たちも西洋古典絵画を思わせる技法で描かれた人物画や静物画、日本の埴輪や仏像、京都の龍安寺の石庭を描いた作品などを展覧会で発表しました。そのために戦時下の日本の前衛絵画は弾圧されたと見なされることもありました。しかし、前衛画家たちの作品を見ていくと、彼らが西洋や東洋・日本の伝統的な技法や題材に立ち戻ることで自身の立ち位置を確認し、時代のリアルな感覚を伝えるための新たな表現を模索していたことが分かります。 本展では、戦時下に前衛画家たちがそれぞれに現実を見つめ、描いた作品を当時の資料と共に展示いたします。これにより、東京・京都ふたつの都市で育まれた前衛絵画のひとつの流れを確認できるでしょう。
 
【本展の構成】
 
1章:西洋古典絵画への関心
   福沢一郎、小川原脩、杉全直、吉井忠
 
   1937年の日独伊防共協定の締結以降、イタリア・ルネサンス絵画の紹介が盛んとなる(美術書の刊行や1942年の「アジア復興レオナルド・ダ・ヴィンチ展覧会」の開催など)。これらをモチーフとするシュルレアリスムの画家たち。
   「その隠れ蓑を使いながら、彼らは日本の戦時下の社会状況を描こうとした。」
 
2章:新人画会とそれぞれのリアリズム
   靉光、松本竣介、麻生三郎、寺田政明
 
   戦争画/戦争協力画の全盛のなか、戦争とは関係のない作品の展覧会を開催。
 
3章:古代芸術への憧憬
   難波田龍起、山口薫、小野里利信、長谷川三郎
 
   古代ギリシャ、仏像、埴輪。
 
4章:「地方」の発見
   吉井忠の東北地方への取材旅行
 
   シュルレアリスム絵画への弾圧、東北地方の困窮、日中戦争以後の「地方」を取り巻く政策。時局に添いながら、新たな表現を模索。油彩2点と多数のスケッチなどの展示。
 
5章:京都の「伝統」と「前衛」
北脇昇、小牧源太郎ほか
 
   竜安寺石庭。14人の共同制作「浦島物語」。道祖神。
 
 
 
福沢一郎
《女》
1937年、富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館
   マザッチョ《楽園追放》のイヴをモチーフとした満州国のイヴ。
 
 
吉井忠
《女(麦の穂を持つ女)》
1941年、福島県立美術館
   空想的?な風景を背景とした、座る1人の女性像。
 
 
吉井忠
《毛場内風景》
1943年、福島県立美術館寄託
   通りに面した町家の正面に設けられたひさし「コミセ」のある東北地方の町の風景。隣展示のスケッチと比べ、リヤカーをひいて通る娘/停車している車などが付け加えられている。
 
 
   1章の4人、他章の一部の画家は、陸軍大臣賞を取るなど目立ったかどうかは別として、戦争記録画/戦争協力画を制作・出品することとなるが、それは本展展示の対象外である。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。