ボイマンス美術館所蔵
ブリューゲル「バベルの塔」展
16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-
2017年4月18日~7月2日
東京都美術館
2回目となる今回の訪問。前回の反省を踏まえ、単眼鏡を持っていく。
2階、バベルの塔とミュージアムショップのフロアに向かう。
懸念していたとおり、話に聞いていたとおり、《バベルの塔》前の様子が前回と変わっている。
間近だが歩くことが求められる「最前列」と、立ち止まって鑑賞できる「第二列」とに分離されているのだ。
係員は二人がかりで、歩け歩け、前の人との間を空けるな、と声をかける。一歩ずつ進め、ではなく、歩け、である。絵を覗き込もうとする行為も勧告対象である。
この絵は、ちょっとやそっと立ち止まったからといって、その細部の緻密さをごく一部でもほんの少しでも味わえるような代物ではない。
その細部の緻密さのごく一部でもほんの少しでも味わおうと思ったら、相当長い間立ち止まって単眼鏡で眺め続ける必要があろう。
皆さんもお判りなのだろう、この絵の前を、あたかも関心のない絵の前を通り過ぎるかのようなスピードで歩く。
そして、3DCG動画上映や約300%の拡大複製画で細部を確認する。
第二列につき、単眼鏡で《バベルの塔》を眺める。
絵までの距離がこれだけあると、私の低性能の単眼鏡では、細部は全く判別不能。人物や建築現場などの微細な描写は、単なる点、単なる塊である。
ただ、塔の外壁や窓を眺めると、塔の外壁が何だか浮き出て見える。
あるいは、塔と空や緑の大地との境界あたりを眺めると、境界あたりの壁や建築機材が何だか浮き出て見える。
16世紀の3D。何だか浮き出て見えるのが面白くて、結構長く単眼鏡で絵を見つめる。
また、単眼鏡なしでマクロの描写、塔の威圧感と外壁の色を楽しむ。
空いているときを狙って最前列にもいってみる。このスピードでは何も見れないということを実体験する。
次回は、間近で立ち止まってじっくり鑑賞できるような日時に、単眼鏡を持って、訪問したい。そんな日時がそもそも存在するのか?
【会場内の細部解説】
1)ブリューゲルは船舶の銅版画集を制作するほど、船の構造に明るかった。
2)建築資材となる漆喰(アスファルト、石灰など諸説ある)の白い痕。落ちた粉をかぶって、真っ白になった人々も描かれている。
3)塔中央部の教会とおぼしき場所には、窓にガラスがはめられ、その下の柱には彫像が置かれている。
4)今なお建設途上の頂上部。足場の描写から当時の建築技法がうかがえる。
5)ひとつひとつ様式の違う窓。天まで届く塔を作るための年月の経過を、ブリューゲルは様式の違いで表そうとしたのだろう。
→(補記)アーチ型開口部の構成が、塔の頂付近ではほぼ均質だったのが、下方に向かうにつれて多様さと複雑さを増している。
6)バベルの塔の舞台は、自分が生きた16世紀のネーデルランドに置き換えた。塔のそばには制作当時の農村の風景が描かれる。
7)赤い帯はレンガを地上から頂上部へ運ぶ際についた痕。周囲には運ぶ前のレンガに加え、落下した破片も積もっている。
8)遠景には、豊かな緑などネーデルランドの風景が描かれている。レンガを焼く窯もみられる。
【その他メモ】
1)画面右の沖合に浮かぶ小さな島は、処刑した罪人を晒す処刑場。
2)描かれた人々は、計1,400人!
3)塔の高さは、描かれた人物の身長が170cmとして試算すると、510mになるという。
現代でも、高さ510m以上の超高層ビル(建築中を含む)は、世界でせいぜい10。勿論、日本にはない。
しかも建設途上。「建設が進んで頂上まで完成すると、1500mもの高さのとがった塔になるだろうという計算」もあるらしい。
今、8〜10層目あたりを建設中のようだが、とすると、1層あたりの高さは51〜65mほど。14-15階建てのマンションの高さが45mだから、それがすっぽり入ってまだ余裕のある高さである。
お世話になっております。
ブリューゲル『バベルの塔』の観覧方法について。
先日、上京して本店を観覧しました。平日の午前中(11時台)だったのですが、その時には、記事中の分離方式は採用されておらず、作品の前でじっくり鑑賞できる状態でした。
個人的な話で恐縮ですが、私は仕事が平日が公休日のため、基本的に展覧会は平日となります。そのため、土休日の状況がわからないのですが、平日であればまだ作品の前で立ち止まって鑑賞することができる状況にあると思います。
余談ですが、私がこれまで経験した分離方式の作品は、2007年の国立新美術館「フェルメール『牛乳を注ぐ女』展」と毎年の正倉院展のメイン作品です。
後者に関しては、この観覧方式を含めての正倉院展と思っているので、この方式が採用されていると妙に安心します。
今後の観覧のご参考になればと思います。
情報ありがとうございます。
平日なら間近で立ち止まって鑑賞できる可能性があるのですね。出来るだけ早い時期に、休みをとって再訪したいと思います。
正倉院展も、毎年トップの一日あたり入場者数を記録していますが、どんなに凄いのか一度行ってみたいところです。