東京でカラヴァッジョ 日記

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ティツィアーノ《ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな)》

2020年10月16日 | ロンドンナショナルギャラリー展
ティツィアーノ
《ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな)》
1514年頃、110.5×91.9cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
 
 
   ティツィアーノの生年は不詳である。
   画家が1571年にスペイン国王フェリペ2世に宛てた手紙には、自身の年齢を95歳と書いたのこと(1476年生?)だが、これは一種の営業戦略でサバを読んだものらしく、生存当時から年齢不詳で幅広く年齢が推定されていたようである。現在では1488〜90年との説が有力とのこと。
   現在の有力説に従うと、本作品は、ティツィアーノの20代半ばくらいに制作した作品。いずれにせよ長い画業の初期にあたる作品となる。
 
 
   ロンドン・ナショナル・ギャラリー展に出品されている本作品、図版で見る限りそれほど期待していなかったが、実物を見てびっくり。
   背景の風景が素晴らしい。
   「ヴェネツィア本土の風景を理想化して描いている」らしいが、田舎の詩情溢れる風景。この風景については、完成に至るまでにかなりの変更が加えられているとのことであり、画家が相当に力を込めたのだろう。画集に必ず取り上げられるのが分かる。虜になる。
 
 
   そこで、ティツィアーノの初期作品のうち、背景に描かれた風景が魅力的そうな(実見していないけど)作品を探してみる。
   以下、6選。
 
 
ティツィアーノ
《Rustic Idyll(牧歌的風景)》
1505-10年頃、45.9×44.2cm
フォッグ美術館
 
 
ティツィアーノ
《聖母子》
1507年頃、38.8×48.3cm
カッラーラ美術館、ベルガモ
 
 
ジョルジョーネ&ティツィアーノ
《眠れるヴィーナス》
1508-10年頃、108.5×175cm
ドレスデン国立美術館
 
 
 
ティツィアーノ
《人生の3段階の寓意》
1512-14年頃、90×150.7cm
スコットランド国立美術館
 
 
ティツィアーノ
《キリストの洗礼》
1511-12年頃
カピトリーノ美術館、ローマ
 
 
ティツィアーノ
《聖愛と俗愛》
1515年頃、118×279cm
ボルゲーゼ美術館、ローマ
 
(↓追加添付)
 
 
   オスマン帝国による地中海の制海権の確立。インドとの間の新航路の発見。アメリカ大陸の「発見」。
   ヴェネツィア商人は、貿易への投資よりも、本土の土地への投資に傾いていく。地主化である。
   ジョルジョーネやティツィアーノが描く「理想化された風景」は、そのような時代の趨勢を反映しているのだろうか。


4 コメント

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背景の建物の原画が同一 (むろさん)
2020-10-16 23:50:36
先日2回目のLNG展に行くのに先立って、手持ち資料でティツィアーノの絵を調べていたら、Rizzoli集英社版世界美術全集「ティツィアーノ」の「我に触れるな」の解説中に、この絵の右上背景の建物とジョルジョーネの「眠れるヴィーナス」の右上の建物が類似していると書かれていたので、それを確認するつもりで「眠れるヴィーナス」の画像をタブレット端末に入れ、LNG展でその画面を拡大しながら「我に触れるな」をじっくり見てきました。まさにそっくりであり、下の地面の道路がジグザグに走っているところも(多少違いますが)よく似ています。帰ってきてから本に出ている両者の建物部分に定規をあてて、絵に描かれた建物の寸法を計算したらほぼ同じだったので、同じ素描を使っているのかと思いました。

さらにこの話をルネサンス美術に詳しい方に伝えたら、「ボルゲーゼの聖愛と俗愛の左上の背景の建物も、大きな塔を加え左右反転しているが同じ建物であり、この件はパノフスキーの著書『ティツィアーノの諸問題』に書かれている」とのことでした。(この本、私の住んでいる区の図書館にはないので、他の区から取り寄せてもらうか、以前ティツィアーノ展を開催した都美の資料室で閲覧しようかと思っています。)

このことから、よく言われている「ジョルジョーネの『眠れるヴィーナス』は部分的にティツィアーノが描いている」ということは事実なのだと実感しました。

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Unknown ()
2020-10-17 08:00:40
むろさん様
コメントありがとうございます。
本当ですね。「我に触れるな」と「眠れるヴィーナス」の建物は同じで、「聖愛と俗愛」の建物はそれを反転させてますね。気付きませんでした。
参照した画集を改めて確認すると、本作品の解説(英語なのでスルーしてました)に確かにその旨が書かれていました。
確かに道路も同じ。
「我に触れるな」と「眠れるヴィーナス」の建物の寸法もほぼ同じとのお話。この3作品は横の長さは大きく異なりますが、縦の長さは近いですね。
お教えくださりありがとうございます。私も『ティツィアーノの諸問題』を確認したいと思いますが、事前予約の必要な図書館に行く余裕がないのが現状です。
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ティツィアーノ 続き (むろさん)
2020-10-17 22:56:44
E. PanofskyのProblems in Titian, Mostly Iconographic(1969)、(邦訳「ティツィアーノの諸問題」2005 織田春樹訳 言叢社)ですが、23区内の区立図書館を検索できるサイトで確認したら、所蔵している区がいくつかあったので、早速地元の図書館で取り寄せの依頼をしてきました。1カ月ぐらいで借りられると思います。この本はパノフスキーの最後の著書だそうで、上記コメントの3枚の絵に描かれた建物については、「『聖愛と俗愛』はティツィアーノがジョルジョーネの影響を完全に脱した時期を特色づけていて…、左手の建物群は間違いなくジョルジョーネのモチーフを逆にして繰り返している。ジョルジョーネのこのモチーフはティツィアーノの初期作品『我に触れるな』の背景にも借用され…」となっているそうです。私はこの建物の一致から、眠れるヴィーナスの建物部分はティツィアーノが描いたと考えているのですが、パノフスキーは「ジョルジョーネのモチーフをティツィアーノが借用した」と書いているようで、眠れるヴィーナスでのティツィアーノの協力を否定しているように思えます。あとはこの本を読んでからのお楽しみということにしておきます。

また、私の手持ちのナショナル・ギャラリーガイド(同朋舎出版1996)には「我に触れるな」のX線写真が出ていて、①最初キリストの足はマグダラのマリアから離れる方向に向いていた、②上部の大きな樹木は最初もっと小さくて、キリストの頭上から斜め右へ伸びていた、③丘と建物は左側にあった ということが分かります。初期作品であるためか、かなりの試行錯誤、描き直しをしているようです。

上記本文で風景が魅力的として取り上げられた初期作品6点中、行ったことのないベルガモとスコットランドを除く4点は現地で見ているはずなのですが、有名作品であるドレスデンとボルゲーゼの絵以外の2点は全く記憶がありません。カピトリーノはカラヴァッジョの女占い師と同じ部屋にあったようですが、記憶なし(カラヴァッジョの裸のヨハネorイサクがなかったので、がっかりして他のことは全て頭から消えてしまいました)。フォッグはボッティチェリの神秘の十字架に夢中で、その他の絵には目もくれなかったのかもしれません(モネのサン・ラザールの駅だけは覚えています)。ドレスデンの眠れるヴィーナスは美術館ではラファエロのサン・シストの聖母と並んで最重要な作品だと思うのですが、ラファエロの方は館内中央の最高の位置に展示してあるのに、眠れるヴィーナスは裏の方の狭い部屋が続く所にありました。もう少しいい場所を与えてあげないと、せっかくの美女がかわいそうです(この絵はジョルジョーネの最高傑作だと思っています)。

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Unknown ()
2020-10-18 08:16:45
むろさん様
カピトリーノやフォッグ、ドレスデンの体験談、ありがとうございます。
カピトリーノは私もカラヴァッジョだけ確認して、他の作品は実質見ていません。ボルゲーゼの絵のみ実見していますが、画面がテカテカしていること、光の反射で見づらかったことを覚えています。フォッグの絵は最初期の物で、別の画家の作としている書籍もありました。ドレスデンの絵は裸体画だから控えめな展示場所としているのかもしれませんね。
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