至上の印象派展
ビュールレ・コレクション
2018年2月14日~5月7日
国立新美術館
会期最初の金曜日の夜間開館時間帯に訪問したビュールレ・コレクション展。
日本におけるビュールレ・コレクション展の開催は2回目。
1回目は、1990-91年、米加日英の4カ国を巡回する展覧会で、日本では横浜美術館で開催された。
西洋の名画展
スイス ビューレー・コレクション特別公開
1990年11月2日〜1991年1月13日
横浜美術館
「西洋の名画展」と「至上の印象派展」。
両展とも「ビュールレ・コレクション」を本題名に入れず、副題扱いとするのは、知名度を考慮したのだろうか。しかし、前時代的というか、羊頭狗肉を想像してしまう展覧会名は、その題名に恥じないコレクション自体の質量、そして展覧会出品作の質量だという自負がなせることなのだろう。
1990-91年横浜の出品数は85点。うち52点がビュールレ・コレクション財団の所蔵品、33点がビュールレ・コレクションのプライベート所有品であった。
今回2018年の出品数は64点で、全て財団所蔵品である。約半数が日本初公開であるという。
そこで、今回の出品作全64点について、前回の出品状況を確認しつつ、ざっと見ていく。
本展の章立て
第1章 肖像画
第2章 ヨーロッパの都市
第3章 19世紀のフランス絵画
第4章 印象派の風景-マネ、モネ、ピサロ、シスレー
第5章 印象派の人物-ドガとルノワール
第6章 ポール・セザンヌ
第7章 フィンセント・ファン・ゴッホ
第8章 20世紀初頭のフランス絵画
第9章 モダン・アート
第10章 新たな絵画の地平
出品作一覧
●印は、1990-91年の出品作を示す。
第1章 肖像画
フランス・ハルス
●《男の肖像》
前回も今回も出品番号1はフランス・ハルス。その軽妙なタッチが魅力的。
アングル
●《イポリット=フランソワ・ドゥヴィレの肖像》
アングル
《アングル夫人の肖像》
1813年の結婚の翌年頃に描かれた新妻の肖像。
アンリ・ファンタン=ラトゥール
●《パレットを持つ自画像》
元松方コレクションであったらしい。
クールベ
《彫刻家ルブッフの肖像》
ルノワール
●《アルフレッド・シスレーの肖像》
ドガ
●《ピアノの前のカミュ夫人》
ドガの治療にあたった眼科医の妻で、ピアニストとしても知られていたらしい。
第2章 ヨーロッパの都市
グァルディ
《サン・マルコ沖、ヴェネツィア》
カナレット
●《カナル・グランデ、ヴェネツィア》
今までカナレット作品をブランド美術館展等で何点か見てきているはずだが、今回本作のおかげで初めてこの18世紀ヴェネツィア派の巨匠の魅力に目覚める。細密かつ詩情溢れる建物・壁・窓・洗濯物・煙突・屋上テラス、道行く人々と犬、運河を行くゴンドラ・漕ぎ手と乗船客、水面の白波、空。121×152cmの大画面の迫力もあって、実に素晴らしい。図録の図版が余りにも低レベル。まだ、27年前の図録の図版の方がマシ。
カナレット
●《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア》
本作もいいけど、本作のみの出品だったならば、目覚めなかったかもしれない。
シニャック
《ジュデッカ運河、ヴェネツィア、朝》
白い色調の点描により平面的に描かれた、ヴェネツィアの教会、運河、ゴンドラや船、朝の情景。魅力的と思ったが、その後見た、前述のカナレット作品に圧倒されてしまい本作の印象が消えてしまった。
モネ
《陽を浴びるウォータールー橋、ロンドン》
マティス
●《雪のサン=ミシェル橋、パリ》
第3章 19世紀のフランス絵画
コロー
●《読書する少女》
クールベ
●《狩人の肖像》
ドラクロワ
《モロッコのスルタン》
ドラクロワ
《アポロンの凱旋》
シャヴァンヌ
《コンコルディア習作》
マネ
●《オリエンタル風の衣装をまとった若い女》
マネ
●《燕》
2010年の三菱一号館美術館のマネ展に来日してくれたことを思い出す。
マネ
●《ワシミミズク》
第4章 印象派の風景-マネ、モネ、ピサロ、シスレー
ピサロ
《ルーヴシエンヌの雪道》
ピサロ
●《会話、ルーヴシエンヌ》
家の庭の柵越しに、隣人と立ち話をする内縁の妻(翌年正式に結婚)、その横に立つ娘。
ピサロ
●《オニーからポントワーズへ向かう道-霜》
シスレー
《ハンプトン・コートのレガッタ》
シスレー
●《プージヴァルの夏》
マネ
《ベルヴェの庭の隅》
モネ
●《ヴェトゥイユ近郊のヒナゲシ畑》
ビュールレ財団美術館閉館の原因となった2008年の武装集団による盗難事件の被害作品4点のうちの1点。その後4点全てが損傷なく取り戻されている。本展にはその4点とも出品。
モネ
《ジヴェルニーのモネの庭》
第5章 印象派の人物-ドガとルノワール
ドガ
●《リュドヴィック・ルピック伯爵とその娘たち》
2008年の盗難事件の被害作品。
ドガ
《出走前》
ドガ
《控え室の踊り子たち》
後述のブロンズ像の後に見て、少女たちの厳しい環境に想いを馳せる。
ドガ
《14歳の小さな踊り子》
今回一番のショッキング作品。ブロンズ像。写実的なのかもしれないが、その細さ、表面の凸凹、経年劣化してしまった木綿のスカートが一層彼女の置かれた環境の厳しさを想像させる。
ルノワール
●《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》
こんなに早く再来日するとは思わない私、2010年、イレーヌに会うため大阪遠征を敢行してしまった。8年ぶり2回目の鑑賞、あれっ?イメージよりサイズが小さい、華やかさも少し、と面食らう。勝手なイメージは改めたうえで、次の訪問時にしっかりと味わいたい。
ルノワール
《夏の帽子》
ルノワール
《泉》
第6章 ポール・セザンヌ
セザンヌ
《聖アントニウスの誘惑》
セザンヌ
《風景》
セザンヌ
●《扇子を持つセザンヌ夫人の肖像》
仮面のような夫人の顔。
セザンヌ
●《赤いチョッキの少年》
少年の異様に引き伸ばされた腕。
私的には、本展で一番楽しみにしていた作品。2008年の盗難事件の被害作品。
セザンヌ
●《パレットを持つ自画像》
禿げ上がった頭部の円形。
セザンヌ
《庭師ヴァリエ(老庭師)》
最晩年の画家が熱心に取り組んだ画題の一つ、老いた庭師兼セザンヌの身の回りの世話もしたというヴァリエの肖像。2タイプがあり、このタイプの作品は本作を含め4点の油彩画が残されているらしい。本作は画家の死により未完に終わる。
第7章 フィンセント・ファン・ゴッホ
ゴッホ
《古い塔》
ヌエネン時代、1884年の作品。ヌエネンの廃墟となった教会。地の傾いた十字架。人が一人歩いている。廃墟の詩情に浸れる作品。
ゴッホ
《自画像》
パリ時代、1887年の自画像。
ゴッホ
●《アニエールのセーヌ川にかかる橋》
パリ時代、1887年の作品。
ゴッホ
●《日没を背に種まく人》
アルル時代、1888年の作品。似た構図のゴッホ美術館所蔵作品よりもずっと大きい!想像以上の大きさに戸惑う私。
ゴッホ
《二人の農婦》
サン・レミ時代、1890年にミレー《落ち穂拾い》に想を得て制作された作品。
ゴッホ
●《花咲くマロニエの枝》
オーヴェール時代、1890年の作品。2008年の盗難事件の被害作品。
第8章 20世紀初頭のフランス絵画
ロートレック
《コンフェッティ》
ピカソ
《ギュスターヴ・コキオの肖像》
ヴュイヤール
●《訪問者》
最近、ヴュイヤールが気になる私。本作品も魅力的。
ヴュイヤール
《自画像》
ゴーギャン
●《肘掛け椅子の上のひまわり》
ゴーギャンがゴッホへのオマージュとして1901年に制作した「ひまわり」シリーズ4点のなかの1点。2016年の東京都美術館「ゴッホとゴーギャン展」で来日、同展における本作の重要性もあって感動した作品。再会できて嬉しい。
ゴーギャン
《贈りもの》
タヒチの女性二人。
ボナール
《アンブロワーズ・ヴォラールの肖像》
ボナール
《室内》
第9章 モダン・アート
ヴラマンク
《ル・ペック近くのセーヌ川のはしけ》
アンドレ・ドラン
●《室内の情景(テーブル)》
ブラック
●《レスタックの港》
ブラック
●《ヴァイオリニスト》
ブラック
《果物のある静物》
ピカソ
●《イタリアの女》
ピカソ
《花とレモンのある静物》
第10章 新たな絵画の地平
モネ
《睡蓮の池、緑の反映》
初来日の200×425cmの大型睡蓮。ジヴェルニーでモネの次男ミシェルから直接購入。ビュールレは、この前にもミシェルから2点の大型睡蓮を購入し、チューリヒ美術館に寄贈している(うち1点は2014-15年のチューリヒ美術館展で来日した200×600cmの作品。会場も同じ国立新美術館でその鑑賞経験があるので、本展出品作が小さく感じて仕方がない)。2020年からはチューリヒ美術館で3点の大型睡蓮に囲まれる経験ができることとなる。
なお、本展出品の大型睡蓮は、なんと写真撮影可能。で、画像を掲載する。
この作品に限っていうと、写真撮影可能は良かったのかどうか。絵の前でじっくりモネの世界に浸ることは難しい。
確認結果、1990-91年の展覧会でも来日した作品は31点、非来日は33点となった。
今回、プライベート所有が対象から外れ、財団所蔵のみとなったのは諸事情があるのだろう。
無い物ねだりしても仕方ないが、前回来日したが今回来日しなかった財団所蔵作品は21点、そのうち特に残念に思う作品。
ゴヤ
《ヴァレンシアの宗教行列》
スーラ
《《グランド・ジャット島の日曜日の午後》のための習作》
《《サーカスの客寄せ》のための習作》
ロートレック
《二人の女友達》
《メッサリーヌ》
前回来日したプライベート所有の作品のうち、特に来日して欲しかった作品
フランツ・マルク
《世界を前にする犬》
《仔馬を連れた雌馬》
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