メトロポリタン美術館展
西洋絵画の500年
2021年11月13日~2022年1月16日
大阪市立美術館
2021年11月〜22年5月にかけて大阪・東京で開催される「メトロポリタン美術館展」。一般客として、カラヴァッジョ《音楽家たち》の前に一番最初に立ったのは、私です。
会期初日の9:30の枠を予約、開館前の9時に到着、待ち列に並ぶと、前から30〜40人目くらい。開館後、チケットを示し、コインロッカーに荷物を預け、展示室に入場。途中横目でクリヴェッリを見て、想像以上に小さいなあと思いつつ、先に進む。
4番目の展示室にありました、カラヴァッジョ《音楽家たち》!!
その展示室の先客は1人で、フェルメール《信仰の寓意》の前に立っている。カラヴァッジョを眺めながら時折周りを見ると、フェルメールの前の客が3人に増えているが、他の作品の前には私を除き誰もいない。カラヴァッジョに2番目の客が来るまで約5分、独占状態で鑑賞する。
ちなみに、本展で人が集まる作品は、私の印象では、1位がフェルメール、2位がクラーナハ。ただ、クラーナハは展示室の角に展示されている分、より密集しているように見えただけかもしれない。今回の私の鑑賞は、第1章(15〜16世紀)と第2章の前半(概ね17世紀)=第1会場の展示作品に限定し、第2会場にある第2章の後半(概ね18世紀)と第3章(概ね19世紀)は1点を除いて、作品の存在を確認するにとどめる(じっくり見るのは東京会場での楽しみとする)こととしたので、本展の第1会場のなかで人が集まる作品というのが正確な言い方。
カラヴァッジョの次は、同じ展示室のラ・トゥール《女占い師》!!
その素晴らしさにびっくり。5人の登場人物たち、それぞれの表情、それぞれの豪華・鮮やかな衣装、それぞれの仕草。離れられない。作品も大きめで、人もまだ少ないことをいいことに眺め続ける。離れたくない。
本展の図録表紙はラ・トゥールであるが、大阪会場のメインビジュアルはカラヴァッジョ。本展のチラシや街で見かけるポスターも、美術館の入口にて迎え入れてくれるのも、電子チケットのもぎり後に渡される半券も、美術館内の撮影用大型パネルも、カラヴァッジョ。個人的には、カラヴァッジョがバロックを切り開いた大巨匠で、日本でも注目されてきていて、特に大阪では同じ天王寺で1年9ヶ月前に回顧展があったばかりでその画風が浸透してきているとはいえ、そして奇跡の来日とも言うべき貴重な作品であるとはいえ、その妖しげな少年たちの絵が相応しいかというと疑問。ラ・トゥールの方が楽しくて良さそうな気がする。ただ、ラ・トゥールの回顧展(東京のみ)から16年も経過したことを考えると、知名度の点からは劣る。本展のメインビジュアルに相応しい作品の選択は難しい。贅沢なことを言っているのは承知であるが、印象派に決め手を欠き、フェルメール(宗教主題)、レンブラント(初来日ではない)、クリヴェッリ(サイズが小さい)も少し足りない。となると、もう一つの候補としては、知名度は最下位レベルだが、芸術新潮2021年11月号の表紙を飾るマリー=ドニーズ・ヴィレールを推す。個人的には第2会場展示作品で唯一、東京会場まで待たず、じっくりと観た作品。サイズも大きく、想像よりもずっと魅力的で、明らかに第2会場の中で最も輝いている。
さて、4番目の展示室でカラヴァッジョとラ・トゥールに続き、フェルメール26番目の来日作品《信仰の寓意》やレンブラント、アンニバーレ・カラッチ、シャルダンなどを見て、いよいよ第1章のルネサンス時代、1番目の展示室に戻る。
クリヴェッリ《聖母子》!!
思いのほか小さいサイズだが、保存状態が極めて良好のようで、画面も実に濃厚。上部のリンゴとキュウリ、吊り下げられた藤色の布、それに通された赤い紐から、下部の黄色の絹布や画家の署名のある折り目付き紙片まで、画面に描かれたどの一部分を見ても、メロメロになる(ただし、聖母の衣装の柄を除く)。図版では分からない素晴らしさ。最高である。
ダヴィデ・ギルランダイオの若い女性像《セルヴァッジャ・サッセッティ》も実に好ましい。目頭がえらく目立つのが気になるが、その表情も髪型も赤い珊瑚のネックレスも緑の衣装も好ましい。ダヴィデ・ギルランダイオは画家三兄弟の次男。美術史上有名なのは長男のドメニコで、ダヴィデは兄の工房運営を支える裏方的な存在であった感。
ディーリック・バウツ《聖母子》も、本展最小クラスのサイズだが、素晴らしい。いかにもバウツ風(と言うことができるほどバウツのことは知らないけど)な聖母の顔が好ましいし、なによりイエスが可愛いすぎる。また、聖母もイエスもその手がちょっとゴツいのが面白い。
1番目の展示室では、今回は上記の3点に特に魅了されすぎてしまったが、他の6点(ヘラルト・ダーフィット、フラ・アンジェリコ、ジョヴァンニ・ディ・パウロ・ディ・グラツィア、ラファエロ、ペトルス・クリストゥス、フィリッポ・リッピ)もいずれも非常に興味深い作品であり、それぞれ時間を費やして観ている。東京会場にて改めて向き合いたい。
2番目の展示室。クラーナハ《パリスの審判》の三女神のそれぞれ側面・正面・背面(特に背面)から描かれたエロティックな姿態や、ピエロ・ディ・コジモ《狩の場面》の原始時代の光景という珍しい主題、などに時間を費やす。エル・グレコもこの展示室の一番いい位置にいる。
3番目の展示室。ルーベンス、ベラスケスなどがあるが、今回は存在を確認する程度。4・1・2番目の展示室で集中力の全てを使ってしまっている。
第2会場。前述のとおりマリー=ドニーズ・ヴィレール《マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ》を観る。前述のとおり第2会場で一番輝いている。
以上、出品作の半分弱を繰り返し堪能する。西洋美術(近代以前の美術)に飢えていたのだろうか、かなり酔ってしまった。会場内での行動が異様であったかも。
最後に日時指定予約券について。
私は訪問日の4日前に手配したが、前日の夜でも全ての時間帯が入手可能な状況であった。東京ならあり得ない。週末の都合の良い時間帯はかなり早い時期から動かないと入手できない。じゃあ、会場に詰め込めるだけ詰め込んでいるかというと、そうでもない。この美術館のキャパは大きめとは思うが、このご時世における標準的あるいは少なめの混み具合。首都圏と関西の人口差に要因を求めてよいのだろうか。
次は3ヶ月後、国立新美術館で。再会が楽しみ。

朝9時(開館前)、逆光の大阪市立美術館。
まだ係員はおらず、入場待ち列がきちんと形成されていない状態。
この後、係員により、階段の右端に予約済みの人を、左端に当日券の人を並べる。ただし、案内表示は特に見当たらず、全て口頭案内のように見える。

撮影用大型パネルはカラヴァッジョ!
本展開催中、2階でのコレクション展は実施されない。適正な動線確保のためにはやむを得ない措置だろう。これにより、展示室、ミュージアムショップやコインロッカーなど内部の行き来は自由である。
ちなみにミュージアムショップは狭めで、窓口が4つしかなくて長い列ができている。窓口を増やす、図録専用窓口を設ける、場所を拡大するなどの対策がないと、早晩機能不全となる。

退館時の大阪市立美術館。次の入場枠の開始時刻の5分前なのだが、そんなに人がいない。
すべての出品作の画像を1ファイルで見ることができる。
やはりラトゥールが際立ってるように感じ、名前知らなかった中では主さん同様マリー=ドニーズ・ヴィレールが一番キました!
カラヴァッジョは自分も一番好きなんですが、この絵はちょっと質的に惹かれませんでした。。
10:30からの部でしたが、コロナ禍以前よりやや少ない程度で、時間指定の割に多いなと感じました。危惧された通り、ショップはレジで30分待ち以上でした(゜_゜)しかも窓口は3人に減っており、何考えてるのか。。
午後に館長の講演に参加しました。曰く、以下の感じでした
・自分が1点もらえるなら、レンブラント
・格としても質としてもレンブラント>>フェルメールなんだよ!(日本の人気はともかく)
・METから来たクーリエは2W隔離された。正直来れないんではと思ってた
・こんな展覧会が生きている内によくできたなー
・指定の展示順から考えて変えたのをクーリエに伝えたら、素晴らしいと褒められた(ドヤ)
GWに帰省時に東京でまた見るつもりですが、大阪にもう一度行っておくか悩みます。。
次回はクリヴェッリのハエを見逃さないようにしたいです。
コメントありがとうございます。
ラ・トゥール、素晴らしいですよね。カラヴァッジョは確かにおっしゃるとおりかも。マリー=ドニーズ・ヴィレールは想像以上に魅力的でした。今は、ほぼスルーした後半を見たくてうずうずしています。東京巡回が楽しみです。
館長講演のご紹介、ありがとうございます。
「自分が1点もらえるなら、レンブラント」は、高階秀爾氏『名画を見る眼』(岩波新書)の影響もあるのでしょうか。そのような想像は楽しいですね。《フローラ》大好きですが、私は「クリヴェッリ」にしておきます。
METからクーリエが来日したとのこと。オーストラリアにも行ったのでしょうね。他展覧会で否応なしに「バーチャル・クーリエ」となった話を読んだことがあります。これほど古くて貴重な作品たちは、(日本で?)2W隔離であっても「リアル・クーリエ」を前提とするのでしょうか、でも(日本で?)2Wも隔離されてどう業務をこなすのか気になるところです。
ラトゥールは主題、明暗表現、老婆の描き方など相当カラヴァッジョの影響がありそうですが、彼がカラヴァッジョを見た場所やルートが特定できてないとのこと、ちょっと不思議ですね。
クリヴェッリも確かに素晴らしいですね。LNG展の絵同様、手が魔女っぽい?のにニヤリとしてしまいました。
ルネサンスについては三大巨匠以外の知識が極端に少ないので、こういうのが来てくれると有り難いです。
高階氏の本のことは全く存じませんでした、読んでみます。レンブラントについてはたぶん、イチ鑑賞者視点と館長視点の両方の感想なのでしょうね。
クーリエの件は、自分はその存在も知らなかった程度のレベルですので、単純にちょっとした裏話として楽しめました。同じ人なのかはわかりませんが、オーストラリアにも行ったのでしょう。
コメントありがとうございます。
ラ・トゥール作品のあるバロックの展示室は濃密でしたね。
ラ・トゥールこそ出口近くとやや離れたところにありますが、カラヴァッジョがあって、その対面の壁にフェルメールがあって、その右隣にレンブラントがある。フェルメールとレンブラントが隣り合わせなんて、私が行った展覧会のなかでは記憶にありません。両者を対決させようとしているのでしょうか、作品間の距離をある程度保っているとはいえ、人が密集しそう。私的には、カラッチとシャルダンもあるし、たいへんでした。
国立新美術館ではどんな展示になるのか楽しみです。
真っ先にカラヴァッジョ作品に向かわれたとのことで、さすがのカラヴァッジョ愛でとても素敵です。
私は20日から昨日にかけて3度訪問しました。
土日は相応の混雑でしたが、昨日の午後は空いており快適な鑑賞でした。
また、閉館前は第一展示室はほぼ貸切状態となり、クリヴェッリもクラーナハもカラヴァッジョもフェルメールもラ・トゥールも独占状態という大変贅沢な時間を2度も堪能させていただき最高でした。
バウツの聖母子は図版ではあまり魅力的だとは思わなかったのですが、実見すると、肌の質感などとても素晴らしく驚嘆しました。
クリヴェッリ、ラ・トゥールも本当に素晴らしい。
時間が許せば何時間でも観ていられるくらいです。
やはり自分の目で本物を観るというのが何より大事なのだと改めて感じます。
他にもクリストゥス、レンブラント、シャルダン、ブーシェ、ヴァトー、マリー=ドニーズ・ヴィレールなど素晴らしい作品の数々に息を呑むばかりで、濃密な素晴らしい鑑賞体験でした。
これだけのレベルの作品が集まるというのは本当に凄いことですね。
無事に開催に至り本当に良かったです。
今後ともK様のブログを楽しみにしております。
コメントありがとうございます。
3度のご訪問とは凄いです。閉館前の時間帯に第一展示室を独占状態で鑑賞、理想的ですね。
素敵なご感想ありがとうございます。全く同じ想いです。本展関係者に感謝です。
私は、ブーシェとヴァトーはスルーしてしまっているので、東京会場でしっかりと観ます。といいますか、もう一度大阪に行きたくなりました。
引き続きよろしくお願いいたします。