杉本博司 本歌取り 東下り
2023年9月16日~11月12日
渋谷区立松濤美術館
私的には、本展で一番楽しんだ作品かもしれない。
《法師物語絵巻》
室町時代(15世紀)
小田原文化財団蔵
【会場内解説より】
本作は近年発見された室町時代の絵巻で、江戸時代には尾張徳川家の蔵品であったことが判明している。
和尚と小法師を主人公とする9つの説話が描かれ、どれも和尚が揶揄される内容である。
通常の絵巻とは異なり、詞書がなく、絵と画中詞のみで構成されている。
やまと絵のしなやかな線描と、料紙の地色を活かした控えめで淡い彩色が特徴である。
本絵巻は、サントリー美術館において、2012年の「お伽草子」展および2017年の「絵巻マニア列伝」展で見たことがある。
そのときは個人蔵と表記されていたが、最近所蔵者が変わったのだろうか。
小法師に対し、いつも偉そうに振る舞う和尚。
和尚のいつもの偉そうな言葉を逆手にとって、和尚を言い負かす小法師。
おもしろい。
本展では、なんと!絵巻の9場面すべてが一挙公開!
かつ、撮影可能!
以下、特におもしろく見た場面3選。
【第4場面】指合図
炊く米の量をいつも小法師に指で細かく指示し、最小限にしか与えないようにしているドケチな和尚。
ある日、指示しているときに転んでしまい、両手両足の指を開いてしまう。
それを見た小法師は、大量に米を炊く。
棚には、てんこ盛りの白いご飯が17膳!
しかも小法師は、まだご飯を盛っている。最終的には20膳を超えそう。
【第5場面】馬の落し物
「道に落ちているものは拾うな、踏みつけろ」と馬に乗る和尚から言われたお付きの小法師。
落馬した和尚を、小法師は遠慮なく踏みつける。
【第7場面】死に薬
和尚の香の粉(麦こがし)を欲しがった小法師は、これは死に薬だと言いくるめられる。
和尚が留守中のある日、小法師は、香の粉をすべて舐めてしまう。そのうえで、和尚が大切にしている鉢を割り、和尚に対し、「償いに薬を飲んだのに死ねない」と泣いてみせる。
杉本は、この「死に薬」を狂言演目「附子(ぶす)」の本歌と捉える。
本展の関連事業として、11月9日に渋谷区文化総合センターにて、本作を本歌とする「杉本狂言」を上演するとのこと(既に完売とのこと)。