大妖怪展
土偶から妖怪ウォッチまで
2016年7月5日~8月28日
江戸東京博物館
混雑必至の展覧会。
会期最初の土曜日、15:30頃に訪問。
チケット売り場に行列ができている。入場待ち時間はゼロだが、展示室内は作品鑑賞のための列並びがあちらこちらにできている状況。
まだ会期初めだからそれほどのぎゅうぎゅう感はないが、会期が進むにつれ、大変なことになりそうである。
出品作品は凄い。
江戸時代の妖怪絵巻・図鑑、妖怪錦絵・版本、妖怪掛軸・屏風。幽霊画。中世の妖怪絵巻。地獄の異形たち。なぜか土偶と妖怪ウォッチ。
日本の妖怪美術史を語るには欠かせない重要作品が多数出品されている感。
ただ、一パートあたりの出品点数は限定される。また、特に絵巻や図鑑だが、展示替えや巻替えが多く、かつ、一回あたりの公開部分が少し。続きを観たい、他の場面も観たいという物足りなさ感は避けられないだろう。
本展の構成【訪問時の出品点数】
1章 江戸の妖怪大行進!
A.これが江戸の妖怪だ!【5点】
B.物語になった妖怪たち【5点】
C.妖怪大図鑑【6点】
D.幽霊画の世界【8点】
E.錦絵の妖怪【20点】
F.版本の妖怪【12点】
2章 中世にうごめく妖怪【9点】
3章 妖怪の源流 地獄・もののけ
A.地獄にうごめくものたち【8点】
B.縄文人の不安の造形化【4点】
4章 妖怪転生【妖怪ウォッチ】
以下、印象に残る作品。()内は展示期間。
1章A.これが江戸の妖怪だ!
No.1 葛飾北斎《天狗図》個人蔵(7/5〜7/31)
蜘蛛の巣の描写を見る。
No.8 伊藤若冲《付喪神図》福岡市博物館(7/5〜7/31)
楽しい作品だが、いろんな展覧会で何度もお目にかかっている。こんなに出張ばかりだと、福岡で展示されることはほとんどないに違いない。
1章B.物語になった妖怪たち
No.11 白隠慧鶴《法具変妖之図》京都・金臺寺(全期間、巻替え1回)
《百鬼夜行絵巻》真珠庵本に出てくる妖怪たちを、1万点以上制作したという禅画で知られるあの白隠(1686-1769)も着色で描いていた。白隠っぽい線描を楽しむ。
No.13 《稲生物怪録絵巻》1859-60、個人蔵(三次市教育委員会寄託)(全期間)
本展の二番目のお目当て。
7/31まで上巻・中巻、8/2から下巻が展示される。
備後三次藩(現在の広島県三次市)藩士の稲生武太夫が、1749年7月の1ヶ月間に体験したという怪異談。肝試しにより妖怪の怒りをかった平太郎の屋敷にさまざまな化け物が30日間連続出没するが、平太郎はこれをことごとく退けるというもの。
30日間にわたる攻防なのだから、30場面以上描かれているのだろうが、公開は上・中巻ともに数日分の場面にとどまる。
本展の絵巻公開は、ちょっとだけが基本なので、物足りなさを感じることが多い。
1章C.妖怪大図鑑
No.17 茨木元行《針聞書》九州国立博物館(全期間)
1568年、戦国時代に書かれた医学書。以下の4部構成(参照:九博サイト)。
1 針の基本的な打ち方、病気別の針の打ち方などを記した聞書
2 灸や針を体のどこに打つか示した図
3 体の中にいる虫の図とその治療法(針灸や漢方薬)
4 臓器や体内の解剖図
本展では第3部の虫の図(63図あるらしい)から、書籍なので止むを得ないが、1回に2図の公開。3回の巻替えにより計8図が公開される予定。
No.19 佐脇嵩之《百怪図巻》福岡市博物館(7/5〜7/31)
1737年作の全30図からなる妖怪絵巻。
2013-14年の横浜・山梨の「福岡市博物館所蔵 幽霊・妖怪画大全集」展で計16図を観て、その楽しい妖怪たちの魅力の虜となっている。
今回はたった2図の公開。2図だが初見の2図。展示期間中、1回巻替えが予定されているので、プラス2図の鑑賞が可能ではある。
今回
1 あか口
2 うし鬼
横浜
1 ぬれ女
2 くわっぱ
3 がごぜ
4 ぬらりひょん
5 火車
6 うぶめ
7 ぬっぺっぼう
8 わいら
9 おとろし
山梨
1 目ひとつぼう
2 ゆうれい
3 ふらり火
4 ゆき女
5 野狐
6 猫また
7 かみきり
参照:Wikipedia(百怪図巻)
No.22《怪奇談絵詞》福岡市博物館(7/5〜7/31)
土地(九州)のローカルな妖怪、時事ネタ(怪奇譚)から生まれた妖怪など、全32の妖怪が描かれているらしい。
江戸末期-明治時代作。
これも、横浜・山梨の「福岡市博物館所蔵 幽霊・妖怪画大全集」展で観ている。
総じて馴染みの薄い妖怪たちだが、風刺としての妖怪や、外国人を奇抜な姿の妖怪として描いているものも多く、楽しい。
本展では、2図のみの公開。巻替えも予定されていないので2図どまり。山梨で観た2図である。
1 虎にゃあにゃあ(強欲の僧を風刺)
2 蝦夷の狼
参照:福岡のばけもの(福岡市博物館)
参照:Wikipedia(怪奇談絵詞)
1章D.幽霊画の世界
No.34《幽霊図》個人蔵(全期間)
これは怖い。家には飾れない。うっすら描かれた女性の幽霊。髪の毛1本1本の縮れた状態まで細密に描きこんでいる。
2章 中世にうごめく妖怪
No.101 重文《土蜘蛛草子絵巻》東京国立博物館(7/5〜7/31)
2013年に東博の総合文化展でほぼフルオープンの本作品を初見、以降お気に入り作品。3年ぶり2回目の鑑賞は、同じようなフルオープン的な公開を期待していたが、なんと、最後の土蜘蛛退治の場面のみ。がっくりである。本展は概してそういうもの。
3章A.地獄にうごめくものたち
No.111 国宝《辟邪絵-神虫》奈良国立博物館(7/5〜7/31)
本展の一番のお目当て作品。
一見、人を襲って食う異形だが、実は中国で信仰された、疫鬼を懲らしめ退散させる善神の一人であるらしい。
全5幅あって《天刑星》《栴檀乾闥婆》《毘沙門天》の3幅は2014年東博の日本国宝展で観ている。残り《鍾馗》は、本展の大阪会場で出品される。
No.112 重文《沙門地獄草子断簡-沸屎地獄》奈良国立博物館(7/5〜7/24)
もとは全7段からなる一つの絵巻だったところ、例の益田鈍翁が例の切断を行い、今は諸家分蔵の状態。MIHO MUSEUM所蔵《解身地獄》と五島美術館所蔵《火象地獄》も両国に後日登場する(その2点は、2014年根津美術館の「名画を切り、名器を継ぐ」展に出品された作品のようだ)。
土偶の展示は余計だと思っていたのだが、そうでもない。妖怪うんぬんとは全く関係なく、4点の造形の魅力を楽しむ。妖怪コースディナーにおけるデザートという感じか。
妖怪ウォッチは、展示場所も出口の手前の狭いスペースだし、展示品も少ないし、私にとっては完全に余計。
展示替え・巻替えが多いので、後期も訪問したいが、懸念される混雑。7/29以降の金・土曜日はなんと21時まで開館するとのことなので、その時間帯が狙い目か。