
なんと魅力的な肖像画なのだろう。

フランシスコ・デ・ゴヤ(1746-1828)
《ラ・ロカ公爵ビセンテ・マリア・デ・ベラ・デ・アラゴン》
1795年頃、108.27×82.55cm
サンディエゴ美術館

こんなふうに丁寧に深く描かれると、私的には、ちょっと怖いな、と思いながら、じっと見つめる。
本作の制作は、1795年頃。
その頃のゴヤ。
1789年、43歳のとき、念願の宮廷画家となる。
1792年、46歳のとき、大病を発し、聴覚を完全に失う。病因は、かつては梅毒説が有力であったが、近年では脳卒中か顔料の鉛による中毒ではと推定されているらしい。
1794年、活動再開。1795年、宮廷画家でゴヤをさまざまに援助していた義兄のフランシスコ・バイェウが死去。義兄の後任として、王立美術アカデミーの絵画部長となる。
なお、首席宮廷画家となるのは、1799年、53歳のとき。スペイン独立戦争が始まるのは、1808年、62歳のときである。
ゴヤは、1780年代から人気の肖像画家であったが、1790年代半ば頃から1800年代初めにかけては、表現の深みが増し、すぐれた内面性を感じさせる肖像画を制作した時期とされる。
サンディエゴ作品は、その時期の初めのほうに位置する作品ではないかと思われる。
像主は、現在も続くラ・ロカ公爵家の初代当主。1731年生まれで、64歳頃の肖像。1795年に王立歴史アカデミーの会長に就任したとのことで、それを機とした肖像画なのだろうか。
公爵は、カルロス3世騎士団の青と白の懸章、および胸を飾るサンティアゴ騎士団と金羊毛騎士団の徽章といった、各騎士団への所属を示す装身具をつけた正装で椅子に腰かけている。
彼は読書を中断して鑑賞者の方に目を遣り、すこし開いた唇は訪問者に何かを語りかけるようです。
ゴヤは公爵を、威厳と風格のある、洗練された知識人として表しています。
(展示室の作品解説を少し修正)
国立西洋美術館の「西洋絵画、どこから見るか?」展。
オールドマスター絵画を中心とした、アメリカ・サンディエゴ美術館が所蔵する54点と国立西洋美術館が所蔵する39点が共演し、ルネサンスから印象派まで、600年にわたる西洋美術の歴史をたどろうとする展覧会。
そのうちサンディエゴの5点については、どういう経緯なのか、「追加出品作品」という扱いとされ、国立西洋美術館の常設展示室に展示される。

3点は国立西洋美術館の所蔵作品とコラボさせた展示だが、ゴヤおよびアングルの作品は、何故か、冒頭画像のとおり、国立西洋美術館の所蔵作品とは離れて、2点並べた展示となっている。

見合った国立西洋美術館の所蔵作品がなかったのだろうか。
将来、このゴヤと組み合わせできるような作品を国立西洋美術館が取得することを期待したい。