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東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

深田麻里亜著『ラファエロ』中公新書

2020年12月17日 | 書籍
神のごとき剽窃家
   今では、誰がラファエルロに目をとめるであろうか。
   かつて私がラファエルロを好きだと言ったとき、人々は私を、「満月と赤いばらとラファエルロの好きな」あまり上等ではない好みの人間、と決めてしまった。
   若い芸術家たちにとっては、ラファエルロは、アカデミーで数百年間の崇拝に耐えていればいただけ、いまでは、蝋人形のように血の気さえも気味わるい、想像力の死のように思われている。少なくともそれは、生命とは別のものをしか彼らの心に喚起しない。
 
   若桑みどり著『ラファエルロ』新潮美術文庫3(1975年初版)の画家解説の冒頭の抜粋。自らの不遇?を熱く語っている。
 
 
   若桑氏のラファエロ本から45年。
   2013年には国立西洋美術館にて「ラファエロ展」が開催された。
   東京美術のもっと知りたいシリーズ、新潮社のとんぼの本、新人物往来社の作品紹介本など、入門書もいくつか新たに刊行された。
   そして、没後500年記念年である2020年、ラファエロ入門書の決定版が登場する。
 
 
深田麻里亜著
『カラー版   ラファエロ  - ルネサンスの天才芸術家』
中公新書、2020年10月初版
 
 
   一読して、芸術家の魅力を十二分に教えてくれる素晴らしい入門書であると確信する。
 
   カラー版新書の制約があるだろうなか、厳選しただろう材料と巧みな構成と文章により、ラファエロの魅力が紹介される。
 
章だて
序章   ラファエロの生涯と画業
1章   聖母子画   躍進と様式の変化
2章   ヴァチカン宮殿の教皇居室の装飾、工房メンバー、自画像
3章   古代ローマとラファエロ
4章   肖像画、パトロン・友人・ライバル
5章   ラファエロの墓碑、制作途上で残された作品、ラファエロ以降の芸術家たち
終章   後世の批判と再評価
 

   基本的な情報が実にクリアに説明される。読んでいて引っかかることがない。基本事項が頭の中でドンドン整理されていく。こんなことは稀である。

   今までラファエロについて中途半端な知識でやり過ごしていた私にとっては、実にありがたい書籍。

 
   深田氏の著作には今後注目していきたい。


2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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ラファエロの本 (むろさん)
2020-12-19 23:50:42
深田麻里亜著中公新書ラファエロをご紹介いただきありがとうございます。早速近くの図書館で借りてきて読んでいるところです。ここ1年近くはなるべく電車にも乗らず、都心の大型書店の美術書売場にも行っていないので、最近どんな本が出ているのかほとんど把握していません。先日の細川祐子著ロンドン・ナショナルギャラリーもそうですが、貴ブログは最近の美術書発行の情報を知る貴重な機会となっております。今後もルネサンス・バロック関係の本でお勧めのものがありましたら、ご紹介をよろしくお願いします。

若桑先生の「赤いバラとラファエロが好きな人云々」の話、新潮美術文庫ではなかったと思うのですが、どこかで読んでこのフレーズは強烈な印象で頭に残っています。アカデミーの美術教育の手本といったイメージとかラファエル前派が乗り超える対象の象徴といった負のイメージと一緒になって、ラファエロにはどこか「進歩的知識人」が好きだと表明することを憚られるような先入観があったと思います。私はルネサンス美術の中では15世紀後半のボッティチェリを中心とするフィレンツェ派を好んで追求してきたこともあり、ラファエロについてはペルジーノやピントリッキオとの関連を重視していたために、ヴァチカンでの壁画や工房の主催者といった後半の時期の作品をあまり好んでいなくて、ペルジーノの影響が強い初期作品が好きです。そのためラファエロに対してはあまり負のイメージを持たないで見てきたと思っています。好きな作品は、2013年のラファエロ展に出たブレシャの天使像やベルガモの聖セバスティアヌス、その他モンドのキリスト磔刑とかヴァチカン絵画館の聖母戴冠などです。

さて、この機会に古い本がメインとなりますが、お勧めのラファエロの本をいくつかご紹介しておきます。ラファエロ展の前後に出た入門書も何冊か買いましたが、役に立った本はそれよりも前に出た本です。まず第一に挙げるのは、RIZZOLI集英社版世界美術全集のラファエロ(解説摩寿意善朗1975)です。私は西洋美術の理解にはまず対象とする作家の全作品を把握することが第一と考えています。そして工房作や異論のある作、昔その作家の作品とされていたものが、研究の進展により認められなくなったものなど、なるべく多くの関連作品が載っていることが重要と思っています。できれば本格的なカタログレゾネが手に入ればいいのですが、絶版だったり高価だったり、あるいはイタリア語版しかなかったりと、素人にはカタログレゾネの入手は敷居が高いので、簡易版であるRIZZOLI画集を使うことになります(本格的なカタログレゾネを持っているのはボッティチェリ、フィリッポ・リッピ、ペルジーノ、ルカ・シニョレリ他数人だけで、今一番欲しいのは伊語版ですが、フィリッピーノ・リッピです)。過去数十年にわたり、集英社の日本語版を含め、RIZZOLIのこのシリーズは伊語版、英語版などイタリア・ルネサンス関係を中心に20数冊を集めてきました。今でも現地へ行った時やネットで買えれば買うようにしています。なお、このシリーズは1975年頃の発行であり、古いものなのでカラヴァッジョのように研究の進展が速いものの場合は今ではあまり役にたちませんが、ウッチェロやクリヴェッリ、シモーネ・マルティーニ、ペルジーノなどは今でも重宝しています。また、カラヴァッジョでは伊語・仏語版(伊RIZZOLI、仏Flammarion)と英語版(英Penguin、米ABRAMS)では著者も内容も違う別の本です(使用している図版は同じだがカタログ部分の真筆度評価や年代判定も異なる)。

その次にお勧めするラファエロの本は、集英社世界美術全集のラファエロ(解説嘉門安雄1978)です。私が持っているのは大型版ではなくヴァンタンの愛蔵普及版の方。大型版はボッティチェリだけで、他は全てヴァンタンの方で済ませています。この本を気に入っているのは解説中の聖母子の画家の項目で、聖母子の絵45点について年代順に列記して×△などの印をつけ、真筆の度合いの判定をしていることです。この一覧表と上記RIZZOLIの本のカタログ部分を併用するとラファエロの聖母子画全体が把握できます。

その他では評論社カラー版世界の巨匠ラファエロ(1980年。原書はイタリアのArnoldo Mondadori出版1975)。ラファエロの生涯や後世への影響など、今回出た深田麻里亜著中公新書と同じような内容の本です。また、朝日グラフ別冊美術特集西洋編12ラファエロ(1990年)は大判でカラー印刷の画質が綺麗です。美術出版社世界の巨匠シリーズ ラファエロ(若桑みどり訳1976年、原書はJames H.Beck著ABRAMS社1976)の著者J.Beckは先日コメントで書いたジャクマール・アンドレのウッチェロ作聖ゲオルギウスと1465年の記録に関する論文を書いた人です。

私が取り上げたものは全て古い本ばかりで、深田麻里亜著中公新書の本の参考文献欄に載っているのはRIZZOLI集英社版世界美術全集だけです。ラファエロについては最新情報まで含めて追い求めているわけではないので、これは仕方ないことと思いますが、RIZZOLIの本だけは今でも高く評価されていることがお分かりいただけると思います。

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Unknown ()
2020-12-21 18:04:54
むろさん様
コメントありがとうございます。

ラファエロ本のご紹介ありがとうございます。RIZZOLI版の世界美術全集が高く評価されているらしいことを認識しました。今後、イタリア・ルネサンスの特定画家について関心が高まった際には、図書館などで参照したいと思います。

ラファエロだと、私は初期〜フィレンツェ時代の作品が好みです。2013年のラファエロ展だと「大公の聖母」「無口な女」「聖セバスティアヌス」あたりですが、最初期の祭壇画断片(ナポリ、ブレーシャ)も印象に強く残っています。しかし(私の乏しい鑑賞体験の範囲ですが)心底驚いた作品と言えば、ローマ時代のルーヴルの「バルダーサーレ・カスティリオーネの肖像」です。
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