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東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

古賀春江《海》 ー2021年4月のMOMATコレクション展(東京国立近代美術館)

2021年05月17日 | 東京国立近代美術館常設展
   2021年4月のMOMATコレクション展の5室『「猟奇」と「尖端」の時代』は、「あやしい絵」展の関連特集展示。
 
  『「猟奇」と「尖端」の時代』という名称は、1931年に新潮社から刊行された『現代猟奇尖端図鑑』より採ったようだ。
 
『現代猟奇尖端図鑑』
新潮社、1931年4月刊
 
   1階で開催の「あやしい絵」展の中心となるのは大正時代のデカダンスな傾向ですが、それに続く昭和初期にも、関東大震災から復興して近代化の進む東京を中心に「エロ・グロ・ナンセンス」とよばれる独特な都市文化が花開きました。カフェ文化、モダンガール、モダンボーイ、次々と紹介される海外の珍しい風俗……。1931年に刊行された『現代猟奇尖端図鑑』(新潮社)は、そうした傾向を幅広く紹介した一冊ですが、その中で美術における「尖端」としてモンタージュの技法が紹介されています。写真の一部を切り抜き、大胆に組み合わせて斬新なイメージを生み出す技法です。
 
 
 
   古賀春江は、このモンタージュの手法を油絵に応用していました。古賀の制作プロセスを探っていくと、当時のさまざまな印刷物を引用しながら画面を構成していたことがわかります。
 
古賀春江
《海》
1929年、130×162.5cm
東京国立近代美術館
 
   古賀の代表作《海》も、さまざまな印刷物からの引用から構成されている。
 
 
 
【水着の女性】
   『原色写真新刊西洋美人スタイル第9集』(青海堂刊)の絵葉書8枚セットのうちの1枚にもとづく。
(東京国立近代美術館Twitterより)
 
   ドイツのグラフ雑誌(1920年発行)に掲載された白黒写真をもとに着色して描いたもの。
   写真のモデルは、米の映画女優グロリア・スワンソン(1899〜1983)。
 
【左側の工場】
   『科学知識』7巻12号(1927年12月)の中の記事「銑の鋼」の挿図写真にもとづく。
 
【潜水艦、海の上に浮かぶ帆船と浮き】
   『科学画報』10巻5号(1928年5月)の挿図にもとづく。
 
【空を飛ぶ飛行船】
   ドイツの大型飛行船ツェッペリン伯号(1929年8月19日に日本に飛来)。
 
(東京国立近代美術館Twitterより)
 
 
   1931年に第一書房から刊行された『古賀春江畫集』は、古賀生前に発行された唯一の画集。1924〜31年制作の31点が掲載されているという。
   古賀は、画家自身の解題を、詩のスタイルで記した。
 
 
透明なる鋭い水色。藍。紫。 
見透される現實。陸地は海の中にある。 
辷る物體。海水。潜水艦。帆前船。 
北緯五十度。  
 
海水衣の女。物の凡てを海の魚族に縛ぐもの。 
萌える新しい匂ひの海藻。  
 
獨逸最新式潜水艦の鋼鐵製室の中で、 
艦長は鳩のやうな鳥を愛したかもしれない。 
聽音器に突きあたる直線的な音。
 
モーターは廻る。廻る。
起重機の風の中の顔。 
魚等は彼等の進路を圖る  ー  彼等は空虚の距離を充塡するだらう  ー
 
雙眼鏡を取り給へ。地球はぐるつと廻つて全景を見透される。 


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