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東日本大震災で被害を受けた万祝、万祝を描いた美術 - 【その2】「万祝博覧会 海をまとう」(千葉県立中央博物館)

2024年08月23日 | 展覧会(その他)
万祝博覧会 海をまとう
2024年7月27日〜9月29日
千葉県立中央博物館
 
 
 「万祝」。「まいわい」と読む。
 大漁などの祝儀として、網元から船子や親類縁者に配られる、漁師の祝い着。
 
 江戸時代後期の房総半島で発祥し、青森から静岡まで東日本の太平洋沿岸一帯に広まった「万祝(まいわい)」。
(宮城・岩手南部では「カンバン」、岩手北部・青森では「大漁バンテン」と呼ぶ。)
 
 本展は、青森から静岡まで各地域に残る「万祝」が一堂に介する初めての展示とのことで、「万祝」約40点が集結するほか、関係資料をあわせ計約80点により、万祝文化をみる。
 
 記事その1では、万祝のなかで、大漁をもたらした魚介の図柄に注目した。
 本記事では、魚介の図柄以外で特に関心を持って見た展示品を記載する。
 
 
第1章「大漁の祝い」より2選
 
展示風景
 
《地曳網絵馬》
1843年
千葉・いすみ市、玉前神社(千葉県立中央博物館寄託)
 浜には地曳網を引き上げるふんどし姿の男たち、タモ網を持った女たちが描かれる。
 イワシの大漁祝いとして神社に奉納されたものと思われる。
 
絵葉書2点
 
《絵葉書 鍬ヶ崎舞妓と大漁踊り(宮古町)》
昭和10年ころ 個人蔵
 私的に関心を持ったのは、宮古市浄土ヶ浜で大漁踊りを踊る5人の女性たちではなく、貼付された切手と押印された風景印(風景入通信日付印)。
 切手は、一銭五厘の田沢切手。
 風景印には、「山田線鐵道全通記念」とあり、10年11月17日の日付で、岩手・山田とある。
 
 一銭五厘は当時の葉書の郵便料金。田沢切手は大正2年から昭和12年まで発行。公募デザインを採用した日本で最初の切手で、図案作成者にちなみ田沢切手と呼ばれている。発行開始直後の精巧な偽造事件を受けて、すかしや着色した木綿の繊維くずを入れる用紙の偽造防止策を施したことから、一見同じでも、マニアが注目する(価値が異なってくる)ほど多彩な異種があるらしい。
 
 山田線は、盛岡から釜石までを結んだ鉄道路線。大正12年から盛岡から順次延伸開業し、昭和14年に釜石まで全通。昭和10年11月17日は、宮古から陸中山田まで延伸開業した日である。
 東日本大震災で大きな被害を受け、盛岡・宮古間は半月ほどで再開するが、宮古・釜石間は8年を要して三陸鉄道に経営移管したうえでの再開となった。
 
 
 
東日本大震災で被害を受けた万祝
 
《カンバン》
年代不明、岩手・陸前高田市博物館
 
 東日本大震災は、万祝が分布する東日本の太平洋治岸地域に大きな被害をもたらした。
 個人宅などに保管されていた万祝も被害を受け、数多くが失われたと考えられているという。
 
 岩手・陸前高田市博物館は、津波の直撃を受け、収蔵庫のあった2階まで水没し、他の収蔵資料とともに万祝も被災。レスキューされるまでの約2ヵ月間は衣装ケースの中で海水とヘドロ・油が混じった「黒い水」に浸かっていた。
 資料の劣化は深刻であったが、その後の脱塩などの安定化処理と保存修復により、展示可能な博物館資料としての姿を取り戻したという。
 本展では、独立したケースのなかに照明を落として展示されている。前後期で同博物館所蔵の同じく被災した別の万祝との展示替えがあるのかもしれない。
 
 
 
万祝を描いた美術
 
 明治37年(1904)に版画家・山本鼎が制作した「漁夫」を先駆けとして、房総を訪れた芸術家たちは万祝を着た漁師や海女をモチーフとする作品を制作する。
 本展では、小杉未醒とポール・ジャクレーが展示される。
 
小杉未醒
《蒼海之勇者》
1922年、千葉・銚子市 越川コレクション蔵
 
ポール・ジャクレー
《奇跡の大漁 - 伊豆 日本 -》
1939年、沼津市歴史民俗資料館
 
 まさか本展でジャクレーによるオリエンタリズム新版画にお目にかかるとは想定外。
 本展では2点だが、万祝を描いた美術作品は多数存在するのだろうか。
 
 
 
 初めての万祝鑑賞。
 拙記事では触れていないが、紺屋の仕事や、漁業文化から離れて久しい万祝の新たな地平なども紹介され、民俗・美術・その他多様な観点から楽しめる展覧会。
 
 
 
 
 
 以下余談。
 
 初めての千葉県立中央博物館訪問。
 JR千葉駅からバスに乗るが、誤って「郷土博物館・千葉県文化会館」で下車する。
 誤っていることに気づかず、「郷土博物館」を探す。
 
 まさかこの城?
 
 この城だ、千葉市立郷土博物館(←気付かない)。
 入場無料で入館(←無料に違和感があったが、まだ気づかない)。
 1階を回って2階に上がる(←展覧会の会場案内がない。さすがにここで気づく)。
 すぐ退去してもよかったが、最上階の5階が展望室とのことなので、エレベーターで行く。
 
 千葉の地理は分からないが、案内板を見て、
 
千葉市美術館方面
 
と千葉港方面
を撮影する。
 
 退館し、徒歩で千葉県立中央博物館に向かう。
 千葉駅から4つめの停留所が「郷土博物館・千葉県立文化会館」、そこから3つめの停留所が「中央博物館」。バスで進んだのは半分と少し。
 さらに「中央博物館」停留所から千葉県立中央博物館の正面入口までは結構な距離。公称では徒歩7分。
 
 似ても似つかぬ建物。
 炎天下、体力が奪われる。
 まさか同じ路線に博物館が2つあるとは。


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