東京でカラヴァッジョ 日記

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《取り持ち女》- フェルメールの最初の風俗画

2019年01月07日 | フェルメール
 
 
【9/30掲載、1/7更新】
 
   ドレスデン国立古典絵画館は、2点のフェルメール作品を所蔵する。
 
   うち1点《窓辺で手紙を読む女》は、過去2回来日している。1974年の「ドレスデン国立美術館所蔵ーヨーロッパ絵画名作展」と、2005年の「ドレスデン国立美術館展」である。

   もう1点の本作《取り持ち女》は、今回が初来日となる。


   作品状態など何らかの事情で門外不出の状況があったのか、貸出は少ないようだ。
   確認できた範囲では、わずか4回、1980年のベルリンでの展覧会、2001年のニューヨーク/ロンドンでの回顧展、2004年のアメリカでの展覧会、2010-11年のハーグ/ドレスデン/エディンバラでの展覧会のみ。1995-96年のワシントン/ハーグの歴史的回顧展には出品されていない。

   ちなみに、ドレスデンのもう1点《窓辺で手紙を読む女》も、1974-75年の日本、1984年の旧ソ連、2003年のスペイン、2005年の日本と、わずか4回。旧東ドイツだったことが大きいのだろう。
  
   本作をよく借りることができたものだ。本展の企画者である秦新二・成田睦子氏の著書『フェルメール最後の真実』によると、《窓辺で手紙を読む女》に狙いを定め、ギリギリまでドレスデンに通い出品交渉を行ってきたが、作品の修復が会期に間に合わないことが明らかになり、その代わりとして来日することになったという。
 
 

   ドレスデン国立美術館は、ザクセン王国のコレクションが基礎となっている。
   《取り持ち女》も、1741年に、ザクセン選帝侯アウグスト3世が、それまでドゥクス(現チェコ)のワレンシュタイン・コレクションにあった作品を入手したもの。1858年、フェルメールの「再発見者」トレ・ビュルガーによりフェルメール作とされる。1945年にソ連に持ち去られるが、1955年に返還。
 
 
 
   1656年の年記のある本作は、フェルメール24歳頃の作品。
 
   21歳で親方となったフェルメールは、当初、歴史画や宗教画などの物語画家を目指すが、その後風俗画家に転身する。
   その過渡期に描かれた作品が本作。現存作品では、《マリアとマルタの家のキリスト》《ディアナとニンフたち》に次いで3番目に古い作品となる。
 
   サイズが143×130cmと、フェルメールとしては大きい。現存作品では、158.5×141.5cmの《マリアとマルタの家のキリスト》に次いで2番目の大きさ。意外にも2点のサイズの差はそれほどでもない。
 
 
   描かれる4人の人物。
   帽子を斜めに被った赤い上着の男は、左手を女の胸に廻し、右手で女にコインを渡そうとする。
   女は、左手にワイングラスを持ち、右手を前に差し出して男のコインを受け取ろうとしている。
   男の背後から二人の様子を覗き込む「取り持ち女」。
   その3人のすぐ隣にいながらも別次元にいるかのような左端の男は、視線を観者のほうに向けている。フェルメールの自画像とする説もあるようだ。
 
   「娼家」の風景。もとは聖書に書かれたキリストによる譬え話「放蕩息子」にあるのだが、その宗教的側面が後退し、世俗的側面が押し出された風俗画。カラヴァッジェスキがよく取り上げた主題である(カラヴァッジョ自身はそんな主題の作品は残していない)。
 
 
   タピストリーなど色彩がどぎつい絵だなあ。というのが、3年ほど前に原寸大レプリカを見たときの印象。
 
 
   注目したいポイントは、
1)娼館の女主人の顔
 
2)客が握っているコイン&客の上着の袖飾り部分のハイライト
 
3)デルフト製の酒瓶&女が持つワイングラスのハイライト
 
4)左端の男はフェルメールの自画像?
 
5)展示場所。
   単純に小サイズの《赤い帽子の娘》のあとに展示するのか。もしそうであれば、《牛乳を注ぐ女》と隣り合わせとなり、とんでもない滞留を生むのではないか。
 
 
 
   ついに、実物を拝める日がやってくる。
 
   その近くに、物語画家を目指していた時代の《マリアとマルタの家のキリスト》もあるというのが嬉しい。我々はフェルメール最初期作品鑑賞のプロフェッショナルとなれる。
 
   いよいよ東京会場で、1月9日から《取り持ち女》が登場する。
   なお、大阪会場では通期展示となる。
 


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