国立西洋美術館が所蔵する旧松方コレクションの古典絵画で、ずっと気になっていて、実見を希望している作品。
17世紀ナポリ派
《キリスト像》
117×71cm、旧松方コレクション
国立西洋美術館、2010年度購入

1989年の神戸市立博物館「松方コレクション展:いま甦る夢の美術館」に、カラヴァッジョ作として出品されていたためである。
当時は、個人蔵であった本作品。
まさか誰もカラヴァッジョ作と信じていたわけではあるまいが、平成初期の展覧会会場、どんな作品解説が付されていたのだろうか?
国立西洋美術館の作品検索ページには、来歴として、最初に「Egtemunt [?] [label on the reverse]」と記載されているが、「Egtemunt」とは何だろう?
1989年の神戸市立博物館「松方コレクション展:いま甦る夢の美術館」には、カラヴァッジョ以外にも、次のように、西洋美術の巨匠の作とする作品が出品されていた。
ベラスケス
《裸婦(ダナエ)》
油彩・キャンバス、98.0×123cm
個人蔵
ラファエロ
《壁画下絵》
ペン、グワッシュ・紙、42.0×68.7cm
個人蔵
ティツィアーノ
《頭部習作》
油彩・板、23×19.7cm
個人蔵
ベラスケス作品は、その後、2010年度に国立西洋美術館が購入。
マルカントニオ・バッセッティ(1588-1630)
《ダナエ》
1620-30年頃、98×123cm
国立西洋美術館

画像は、常設展展示時に撮影(現在は展示されていない)。
ラファエロ作品およびティツィアーノ作品は、引き続き個人蔵である模様。
ただし、現在は、ラファエロ作、ティツィアーノ作とはされていない。
ラファエロ作品は、ラファエロがヴァティカン宮殿に描いた壁画「ヘリオドロスの追放」を写したもので、「作者不詳」とされる。
ご丁寧にも額縁に「1477-TITIAN-1576」の表記があるティツィアーノ作品は、「かつてティツィアーノに帰属」とされる。
松方が、どういう経緯を経て、これら作品を購入することに至ったのか、気になるところである。
現存画家の作品は日本の芸術家たちのお手本になるというだけではなく、確実な作品を直接買える点も魅力があったようだ。
「私は芸術家たちと個人的に会って直接彼らの作品を買うのが好きです。購入にあたって記録上の証拠が残るので、作品の真正性に何ら疑義が生じることもありません」。
松方が画商が並べた絵をステッキで指して作品をまとめ買いをしたという逸話とも相まって、松方にはコレクターとしての眼はなかったという印象をもたれがちだが、真贋の問題に対して決して松方も無頓着ではなかったのだ。
一方、松方コレクションには多数の優れた近代美術作品がある一方で、オールドマスターの真贋にはすでに当時の日本ですら疑問符が付けられていたことも事実である。
だが、この分野における助言者に恵まれなかったという側面もあったし、今日の目で見れば首をかしげざるを得ない作品でも、多くは当時の有名画廊で堂々と「レンプラント」や「クラナハ」として売られていたものであった。
オールドマスターの真贋の見極めが難しいことは今でもそう変わらない。
陣岡めぐみ著『松方コレクション 百年の流転』(2016年「松方コレクション展」図録)より引用