投錨備忘録 - 暇つぶしに借りた本のメモを残すブログ

暴走する正義 - 筒井康隆、星新一、他(ちくま文庫)

 
2016年2月10日 第1刷発行

筒井康隆  公共伏魔殿 1967年6月 SFマガジン
星新一   処刑 1952年2月 宝石
小松左京  戦争はなかった 1968年8月 文藝
水木しげる こどもの国 1965年6-8月 ガロ
安部公房  闖入者 1951年11月 新潮
式貴士   カンタン刑 1979年9月 奇想天外
半村良   錯覚屋繁盛記 1974年8月 小説club臨時増刊
山野浩一  革命狂詩曲 1973年12月 SFマガジン
光瀬龍   市二二二〇年 1969年5月 SFマガジン

中学、高校の頃に読んだ作家の作品が詰まっている。今更という気もしたが読んでみると流石流石。内容が色あせない。とても新鮮で力強い。


「戦争はなかった」は1968年の作品。ある時を境に自分しか太平洋戦争の記憶が無くなる話。妻も友人も世間の人も太平洋戦争の記憶がない。あらゆる記録から太平洋戦争がなかったことになっているのに自分だけはその記憶がある。なぜ天皇制が変わったのか、軍隊が無くなり貴族制が排され農地解放が成され新幹線が走っているのか全く説明がつかないまま自分の記憶にある敗戦後の現代日本が成り立っているという話。この作品は太平洋戦争のことを忘れてしまい現在の繁栄にうつつをぬかす現代人への皮肉、警笛と解説される。でも私は別のことを考えてしまう。太平洋戦争の敗戦がなかったら日本はいったいどういう現代を迎えていたのだろうか。小松左京は果たして作家になっていたのか、先日他界した松本零士は漫画家として大成していたのか、水木しげるの作風はどうなっていたのか。戦争文学なるものは現れなかったろうし、斜に構えている今のリベラリストたちの存在そのものが別のものに、別の者に置き換わっていただろうと思うのだ。

「闖入者」は1951年の作品。ある日、見知らぬ家族が笑顔でアパートのドアを叩く。ドアを開けたら最後、部屋も生活もすべてがその家族に乗っ取られる。自分の部屋、自分の儲けた金、自分の生活、これらは自分のものだと説明もいらない自明のものだと思うのだが、そんな主張は民主主義の多数決のもと、自分より強い暴力のもと、自分より強い説得力のもとではなんの効力もないという話。民事不介入の警察があてにならないのは周知の事実だが、同僚も恋人も隣人も味方になってくれない。闖入者一味の手に落ちた。主人公は闖入者に巣くわれた人は自分だけではないことを知る。この作品がこの本の中で一番怖かった。ヒュー・ウォルポールの「銀の仮面」を思い出した。

「カンタン刑は薬で脳を操作し夢の中で懲役刑を科すというもの。実際の時間は短時間でも夢の中でははっきりと数年間の時を過ごす。目を覚ますと数年過ごした自覚がある。そして別の悪夢にまた落とされる。それを何度も繰り返す。1998年にTVで放送された「世にも不思議な物語」の「懲役30日」が似ているが「カンタン刑」は1977年の作品。

「公共伏魔殿」は1967年の作品。公共伏魔殿とはNHKのこと。NHKは1950年の設立。1965年ころから現在のNHK放送センターがある東京都渋谷区に本拠地を移す。どうもこの辺りから悪目立ちし始めたようで、筒井康隆も気に障ったのだと思う。この作品ではNHKは政治家も操る悪の権化、NHKで名を挙げた俳優やタレントは他の局には出演させず、人気が無くなったら地下施設に閉じ込め飼殺す組織として描かれている。

(2023年2月 西宮図書館)
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