地元・福岡での研鑽を経て、初作アナログ盤を引っ提げての東京“歌い始め”。
今年の6月に待望の初フル・アルバム『Across The Great Divide』(弊ブログのレビューはこちら→「天野なつ『Across The Great Divide』」)をリリースし、8月には東京と地元・福岡でバースデーライヴを盛況に終えたポップ・シンガーの天野なつ。初アルバムが好評ということもあってか、11月3日の「レコードの日」に同作のアナログ盤(LP)もリリースされた。そして、レコードの日を記念し、レーベルの〈なりすレコード〉が「なりすレコード プチインストア祭 2DAYS」と題して11月3日と4日にHMV record shop 新宿ALTA店にて5組のアーティストがインストア・イヴェントを開催。そのうち3日18時から行なわれる天野なつのステージに足を運んだ。
8月の東京でのバースデーライヴ(その時の模様はこちら→「天野なつ @下北沢 CLUB251」)以降は、福岡での同公演と舞台公演などで福岡に滞在していたようで、東京では久しぶりのステージとなった。やはりコロナ禍の制限によって密を避けての限られた席数での着席スタイル、ステージとフロアとの距離をとり、透明なビニール幕で遮断するなど、ライヴ観賞として満足な状態とはならないが、この状況下でも直に歌を体感出来るということだけでも有難いところだ。
東京は久しぶりということで、約30分のミニステージながらも、当初は期待と緊張が入り交じったような表情をチラリと垣間見せる瞬間もあったが、舞台帰りということもあるのか、そこは度胸とステージをエンジョイするという心持ちで、声を出せない観客を煽りながら、フロアの熱度を高めていく。
全体で4曲とかなり楽曲数は少なかったが、それでも、本来ならファルセット・コーラス風のフレーズをコール&レスポンスするところを、声出しがNGゆえ口に手を添えての“疑似コール”や手拍子で盛り上げた「恋してBaby!」を挨拶代わりに、個人的に天野なつ随一の“沁み曲”と捉えているマーヴィン・ゲイ歌謡「Secret703」、本作『Across The Great Divide』のキー曲といえる「true love」、振り付けのコール&レスポンスでフロアにハピネスとラヴリーなヴァイブスを生む「Open My Eyes」と、なかなか充実を凝縮したセレクト。
特に個人的推し曲でもある「true love」は、“なつ”というファーストネームよろしく健康的で天真爛漫な印象が強い彼女が、感情の襞を震わせるような歌唱を露わにしたり、艶やかな表情とハイトーンのファルセットで情感に訴えたりと、女性ならではのしなやかさが窺える新境地の楽曲ゆえ、単なるポップ・シンガーという器にとどまらない才知が見え隠れ。8月のバースデーライヴでは即興に近い形でダンサーを配して踊りも披露し、パッション溢れるアグレッシヴなダンスで、その瞬間ごとにドキッとさせられる面持ちでファンを刺激していたが、この日は(本人も踊りたそうな顔色を窺わせていたようにも見えたが)レギュレーション的に残念ながら封印となった。
しかしながら、11月7日に渋谷La.mamaで行なわれる〈なりすレコード Presents 天野なつ 1stアルバム「Across The Great Divide」アナログ盤発売記念ライヴ〉では、ダンサーをバックに付けてダンスを披露するとのこと。どのようなタイミングでこの「true love」が披露されるのかという楽曲構成も含めて、その痛快なパフォーマンスに期待したいところだ。同ライヴは「なりすレコード プチインストア祭 2DAYS」にも登場した広瀬愛菜、一色萌との対バン形式とのことだが、天野は40分の尺があるそうで、「true love」を含めた『Across The Great Divide』楽曲のステージパフォーマンスの進行形が体感出来そうだ。
さて、このアナログ盤『Across The Great Divide』だが、何といっても目を惹くのは、ジャケットにドーンと配されたバストアップのフォト。ちょうどステージ横の棚に、奇しくも同じくレコードの日にアナログ化された広末涼子の1stアルバム『ARIGATO!』(「MajiでKoiする5秒前」「大スキ!」など収録)が飾られていたのだが、それに感化されたような“顔面押し”ジャケだ(『ARIGATO!』での広末の方がアップ度は高いが)。
それに加え、レコード全盛期のデザインを意識した裏ジャケにもこだわりが。故意なのかは分からないが、表と多少楽曲表記が異なったりという、レコード“あるある”も再現されるほか、4点のフォトカットを添えて全体的にモノトーンで統一するなど、レコードフリークがニヤリとするような“ツボ”があちらこちらに。“New Rockin' boogie from Hakata!”というキャッチフレーズが入っているのも、(生粋の東京人の自分には分からないだろうと言われそうだが)“博多から一発ブチかましてやるぜ!”という気概も感じられ、“大きな分岐点”を意味する『Across The Great Divide』というタイトルに負けない想いが詰まっているようだ。
実はこの裏ジャケには、外から勝手にイメージする福岡の芯の強い気質が散りばめられてるのかも……などと邪推しながら、ターンテーブルに乗せて針を落とすと、また違った聴き方が出来るのかもしれない。
個人的には表ジャケのロゴ“Across The Great Divide”を縦読みするとATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト=A Tribe Called Quest)に“空目”するのがなかなかポイントなのだが(たぶん、おそらく、まあ意識してないとは思うが)、それはいいとして、天野本人も「このアルバムは是非レコードで聴いて欲しいと思っています!」と自信の発言をしていたゆえ、あらためてアナログでこの『Across The Great Divide』を聴き、その音色や余韻の違いなどを味わいたいと考えている。
◇◇◇
<SET LIST>
01 恋してBaby!
02 Secret703
03 True love
04 Open My Eyes
<MEMBER>
天野なつ(vo)
◇◇◇
■ 天野なつ / Across The Great Divide(2020/11/3)
NRSP-1287(LP/2020 レコードの日 限定盤)〈なりすレコード〉
[Side A]
01 Midnight
02 Koishite Baby!
03 Curry Rice
04 Utakata No Hibi
05 Positive Life
[Side B]
01 Kimagure Na Call
02 Secret703
03 True Love
04 Open My Eyes
05 Restart
◇◇◇
【「天野なつ」に関する記事】
2020/01/08 〈まんぼうmeeting〉vol.5 @下北沢BAR?CCO
2020/07/13 天野なつ『Across The Great Divide』
2020/08/07 天野なつ @タワーレコード錦糸町パルコ【インストアライヴ】
2020/08/20 天野なつ @下北沢 CLUB251
2020/11/03 天野なつ @HMV record shop 新宿ALTA【インストアライヴ】(本記事)
◇◇◇