*** june typhoon tokyo ***

『DANCE, SOUL LIGHTS』

■ SWEET SOUL SELECT ARTISTS『DANCE, SOUL LIGHTS』

Dancesoullights

 先日、SWEET SOUL RECORDSが贈るコンピ『SOUL OVER THE RACE VOL.2』のレヴューをアップしましたが、新たなシリーズとなるアルバムを聴く機会があったので、こちらもレヴューしてみることに。

 この“SWEET SOUL RECORDS”はなかなか掘り出し物が多くて(というか、自分のストライクゾーンとなるアーティストをよく紹介していたりするので)、最近お気に入りだったり。テリ・トビン『ラヴ・インフィニティ』(Teri Tobin『Love Infinity』)やシャーマ・ラーズ『チョコレート・コーテッド・ドリームス』(SHIRMA ROUSE『CHOCOLATE COATED DREAMS』)とかね。じゃあ、それらのレヴューも書けよ、と言われると何も言えないけども……。

 最近は(というか相当前から)、あまりに溢れ過ぎる安易な時流のエレクトロR&Bモノに辟易してきたこともあって、かなりソウル寄りに嗜好が傾いてしまっているので、こういった心地良くてグルーヴ出来る楽曲がツボだったりします。はい。

 という訳で、レヴューをどうぞ。
 

◇◇◇
 

 漲る躍動を体感せよ。

 良質なソウル/R&Bコンピを輩出するレーベル“SWEET SOUL RECORDS”が新たに『SOUL LIGHTS』シリーズを立ち上げ、フロアキラー・チューンをセレクトしたコンピをリリースする。DJ HIROKINGがオーガナイズするパーティを契機に、まだまだ日本ではアンダーグラウンドな域を拭えないダンスフロアに息づく“ソウル”を発信していこうという企画だ。
 とはいえ、コンセプト自体は取り立てて斬新なものではない。これまでにも同様な取り組みはなされ、アルバムもリリースされてきた。それでもレーベルが「シーンを変える!」とまで言い切るのは何故なのか。

 第一に、優れた楽曲がセレクトされているということ。これが最たる理由だろう。ひとえに名曲と括られている楽曲は文字通り腐るほどあるが、果たして真の名曲はどれくらいあるのか。といったところで、それを論ずることはほとんど不毛に近い。穿った見方をすれば、名曲はシンガーや演者によって名曲足りえたり、そうでなくなったりもする常に有機的なものともいえる。
 つまり、ここでセレクトされているのは一般名詞としての“名曲”なのではなく、名曲を名曲ならしめている優れた楽曲=“グッド・ミュージック”ということに他ならない。時代を超えて歌い、語り継がれてきた愛されるべき楽曲たちだ。しかも、その楽曲に宿るソウルを咀嚼出来るシンガーとミュージシャンらの手によるスパイスによって心と身体を芳醇な空間へといざなうことの出来る、グッド・ミュージックなのだ。

 ジャネイ「ヘイ・ミスター・D.J.」、クリスティーナ・アギレラ「エイント・ノー・アザー・マン」、ダン・ハートマン「リライト・マイ・ファイア」、ボズ・スキャッグス「ジョジョ」、ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」のヴォーカル・ナンバーにマイルス・デイヴィス「フリーダム・ジャズ・ダンス」を加えた全6曲が今回のセレクトとなる。これらをプロデュースしたのは『SOUL OVER THE RACE VOL.2』を手掛けた中村亮、レコーディング・ミックスには世界的にその手腕を評価されるエンジニア、ニラジ・カジャンチといった布陣で、しっかりと楽曲の下地を敷き、幹を根付かせていく。インストの「フリーダム・ジャズ・ダンス」の決して押し付けることない、しかしながら、心をソワソワとさせる演奏を聴けば、その表現力の高さが理解出来るだろう。

 ところで、人によっては一つ問うてみたいことがあるかもしれない。何故カヴァーなのか、と。原曲が素晴らしいのであれば、オリジナルに越したことはないではないか、と。
 それは、ある意味正しい。オリジナルの輝きは何物にも変えがたい輝きを持っている。だが、ある意味では、オリジナルが絶対だという訳ではない。

 世界中それぞれの地域には、それぞれの文化や生活があり、そこに宿した音楽もまた、地域色が異なる。特にブラック・ミュージックなどはその歴史的背景から多くの影響を受けていることは否めない。土着的、宗教的な生活様式のなかから生み出された音楽やそれをルーツとして派生した音楽を、そのような文化的背景が希薄な土地に住む人々がそのまま受け入れようとしても、なかなか難しい。それを伝えようとするならなおさらのことだ。
 だが、シンプルに考えてみて欲しい。楽曲の背景となる全ての要素を共感出来なくとも、その楽曲が生まれたのは全て同じ人間の感情によるものだ。喜怒哀楽は万国共通。楽曲の芯まで研ぎ澄ませて行けば、その楽曲に宿っている人間の感情や想いは共有出来るものではないだろうか。それらが人々の心に響いたとき、それを魂=“ソウル”と呼ぶのではないか、と。
 
 そのような魂=“ソウル”を吸収し楽曲に新しい息吹を与えることが出来るシンガーたちにより歌われていること、これが第二の理由だろう。
 先日、m-floが『SQUARE ONE』というアルバムを発表した。“loves”というフィーチャリング・コンセプトのもとでヒット曲を連ねた彼らが次に企てたのは、「ヴォーカリストを一切発表しない」というものだった。これは「名前に左右されずにまずは聴いてみて欲しい」という想いからのアイディアだという。また、かつて楽曲以上にゴシップばかり注視されていたジョージ・マイケルは、アルバムに『リッスン・ウィズアウト・プレジューディス』(『LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL.1』)と冠したこともあった。先入観や偏見をなくして歌声や音に純粋に耳を傾けて欲しい……音楽があるべき原点を突いたこのテーマは、玉石混交とした今の音楽シーンに最も必要とされ、最も回帰すべきことなのではないだろうか。

 その意を具現化するために選ばれたのが、澤田かおり、Lyn、高橋あず美、鎌田みずき、ヨシダヒロシといった精鋭シンガーたち。澤田かおりは『SOUL OVER THE RACE VOL.2』で「Don't You Care」などジャズ・マナーもこなせる実力派として同アルバムのレヴューで紹介した。今作では女性デュオのジャネイの代表曲「Hey Mr.D.J.」を担当した。ジャネイ自身がジャズ・ヴォーカルの下地があり、ディスコ・ヒット「リング・マイ・ベル」へゲスト参加したという経歴の持ち主だが、澤田のジャズへの適応力や前述『SOUL OVER THE RACE VOL.2』で披露した「I Wouldn't Change a Thing」でのファンキーなナンバーとの相性からみて、その心地よさは充分に保証出来る。落ち着きがありながらも、実にクレヴァーという印象を与えるグッド・シンガーだ。

 太く分厚いファンキー・ヴォイスを轟かせるLynは、クリスティーナ・アギレラのダンサー「エイント・ノー・アザー・マン」を披露。オリジナルも好曲だが、Lynが繰り出す生命力溢れる歌は、下腹に鳴り響くホーンにも負けない濃厚なソウル/ファンクを堪能させてくれる。少々鼻にかかったような非常にインパクトが強いヴォーカルが最大の魅力だ。
 
 ディスコ・クラシックともいえる「リライト・マイ・ファイア」を歌うのは高橋あずみ。長野県松本市出身で、DREAMS COME TRUEやYUKIのバック・ヴォーカルとしても活躍している。どちらかというとアーバンな雰囲気もちらつく原曲よりも高橋のヴォーカル・スタイルをより活かしたような野性味溢れるアレンジで、血湧き肉躍らせる“肉食系”好カヴァーとなった。

 高橋とは対照的に、スウィートなファルセットでアーバンな夜を演出するのにふさわしいジャジィなAORテイストと洒落込んだのはヨシダヒロシ。元来はDJ/トラックメイカーとして活動していた彼だが、久保田利伸ファンには覚えがあるかもしれない。2010年の“Timeless Fly”ツアーで日本人男性として初となるコーラスメンバーに抜擢され、「こんな日本人っぽくない、エキゾティックな顔をしているのに、名前は純日本的な“ヨシダヒロシ”」と久保田にいじられていた彼だ。パワフルに張り上げるタイプではないが、ジワジワと浸透させるいわゆる“引き”が出来るシンガーで、ボズ・スキャッグス「ジョジョ」を披露したここでも、その楽曲との親和性や融和性は素晴らしい。クリエイターや演奏者に好かれるシンガーではないだろうか。

 トリを飾るのは、鎌田みずき。SWEET SOUL RECORDSに欠かせない存在となっているシンガーだ。もはやクラブ・アンセムの一つといってもいいサイーダ・ギャレットを迎えてのザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」だが、小粋で上品なジャジィなムードを殺がない大人な歌唱でまとめている。展開力がありノリがいい楽曲だけに一気に煽りたいところだが、そこはミュージシャンやシンガーも心得ている風で、過不足ないホーンを強調するに留めた、非常にモダンで洒脱な楽曲に仕上がっている。

 これらのシンガーたちが楽曲に宿る魂=“ソウル”を吸い上げ、クリエイターやミュージシャンたちが敷いたサウンドへ命をもたらす。それは、実に日本人の嗅覚や味覚にあった、新たなるソウルの芽吹きでもある。カヴァーした楽曲のムードやテンポ、シンガーたちの声色によって、楽曲たちの表情は千差万別だ。だが、全ての楽曲に根ざしているものは、“グッド・ミュージック”という共通言語。そこに満ち溢れている心身を揺らすグルーヴを、是非とも耳で、皮膚で、五感で体感してもらいたい。きっと、日本ならではの“ソウル・ミュージック”に出会える端緒となり得るはずだ。


◇◇◇

≪Tracks≫

SWEET SOUL SELECT ARTISTS / DANCE, SOUL LIGHTS

01 Hey Mr.D.J.(Kaori Sawada)(ZHANE)
02 Ain't No Other Man(Lyn)(Christina Aguilera)
03 Relight My Fire(Azumi Takahashi)(Dan Hartman)
04 Freedom Jazz Dance(Instrumental)(Miles Davis)
05 JoJo(Hiroshi Yoshida)(Boz Scaggs)
06 You Are The Universe(Mizuki Kamata)(The Brand New Heavies)


◇◇◇

 
 

  
 
 
 

にほんブログ村 音楽ブログ R&B・ソウルへ
にほんブログ村 音楽ブログへ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「CDレヴュー」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事