*** june typhoon tokyo ***

Nao Yoshioka@BLUE NOTE TOKYO

 


 歌える喜びや感謝を熱唱に変えて届けた、解放を叫ぶ渾身のステージ。

 “恐怖に自分の人生をコントロールされない”というメッセージを込めた「Liberation」への想いを改めて問いながら、コロナ禍におけるライフスタイルの変化を余儀なくされる状況においても“自身を見失わない”ことと自らの感情を“解放”するということをテーマに掲げた、Nao Yoshiokaのブルーノート東京公演〈Live at Blue Note Tokyo -Liberate 2020-〉。座席数を減らしてソーシャルディスタンスを維持するなどの制限が引き続きあるなか、ほぼ満席という盛況のもと、“魂(=ソウル)のシャウト”が響き渡った。

 Nao Yoshiokaのライヴを観賞したのは、渡米前に開催された2018年3月末の渋谷WWW公演(記事はこちら→「Nao Yoshioka@渋谷WWW」)以来。昨夏には『Undeniable』リリースツアーとしてブルーノート東京で凱旋公演を行なっているが、残念ながらタイミングが合わず観賞出来なかったので、ニューヨークを拠点に本格的に活動をスタートさせてからは初めての観賞となる。

 コロナ禍において日常が日常でなくなってしまったなか、ライヴが出来ることへの感謝とともにスペシャルなライヴをしたいという気持ちから、バックバンドもメンバーを増員させたスペシャルな編成に。ミュージックディレクターの鍵盤奏者・宮川純をはじめ、ギターの井上銘、ベースのザック・クロクサル、ドラムの菅野知明という辣腕が集うほか、Nao Yoshiokaとしては初のストリングス・セクションを配置。ステージ上に所狭しと精鋭が並び、スケール感を増幅させてのアクトとなった。


 白系のトレンチコートにパンツスタイルといういで立ちに赤髪が映える。自身の座席がちょうどサイドからのライトが直に当たる位置だったゆえ、眩しい白色のライトに照らされたNao Yoshiokaは、目を惹く赤髪とシルエット風のボディが浮かび上がるように目に飛び込んできて、なかなか神秘的な光景にも感じた。

 この公演のテーマソングといってもいい「Liberation」で幕を開けるが、心底ステージに立てることに喜びを感じていたのだろう。10ヵ月ステージに立てなかった近況もあり、歌えることの喜びをのっけから爆発させるかのごとく、フロアを煽っていく。もちろんコール&レスポンスなどは制限されており、観客は反応出来ないのだが、観客の鼓動を高ぶらせ、パッションを湧き立たせることに妥協はなし。おそらく感嘆の声で叫びたい観客も少なくなかっただろうが、曲中は自身の身体を揺らせることと最大限のクラップによる“声なき歓声”で反応していく。

 「それぞれの信じる道や正義を持つことを否定せず、リスペクトしあいながら生きることを心から願いたいと思う」というメッセージを込めての「Celebrate」では、オルガン風のキーボードの温かい音色と天を衝くようなヴォーカルとが共鳴し、“Liberation(=解放)”とのテーマとも共振するタイトルともいえる「Freedom & Sound」では、ネオソウルマナーのスムーズなグルーヴに井上の“生”を感じるギターソロが程よいアクセントに。Nao Yoshiokaはそのグルーヴやサウンドに背中を押され、包まれたかのように心地よく歌を披露していく。


 「ここからは少しスローダウンして、クリスマス・ソングを」との言葉で始まった「Love Me」は、やはり歌えるという感情の連鎖を止められなかったのだろう。ソウル・ブルース調に歌を奏でているうちに、はち切れんばかりの情感が全身から滲み出始め、そこへ宮川による体躯を揺らす人間味溢れた鍵盤が後押し。寸前まであったネオソウルな雰囲気が一変し、“ソウル”なステージへ。Nao Yoshiokaの「感じちゃうんですよね」の言葉に、その全てが現れていた。

 続いて、フィラデルフィアのストリングス・アレンジメントの巨匠ラリー・ゴールドとの仕事を体験して、ストリングスの素晴らしさに気づき、ストリングス・セクションとのライヴを是非とも届けたいとの想いから「One Day I'll Fly Away」へ。「本来はブレイクラヴソングだけれど、何だかこの時代に合っているような気がして」として構成に組み込んだそうだが、哀しいことがあっても、いつか飛び立てるはずという希望をしたためた楽曲に相応しい、優しくも芯のあるヴォーカルを披露。そのムードは「Where I Am Supposed to Be」にも引き継がれ、切なくも温かいホープフルなストリングスとともに安らぎとヒューマニティ溢れる空気を纏わせていた。また、今回のステージで最もR&B濃度が高い楽曲のひとつ「Up and Away」は、個人的にかなり美味。それほど抑揚もないミディアムR&Bだが、ビター&スウィートな佇まいのなかで次第に熱を高めていく構成は、息を呑むごとくの魅力に溢れていた。

 「このままじゃ終わりません!」の掛け声からスタートした「Loyalty」からはギアを上げ、Nao Yoshiokaの楽曲のなかでも特に肉感的な声色豊かな「I Love When」を経て、ステージに立てて歌える喜びと感謝を伝えるとともに、全ての悔しさや鬱憤を晴らすべく、公演タイトルになぞらえて“解放”してと煽っての「Forget about It」でクライマックスへ。元来、興奮を一気に発破させる定番曲だが、バンド・サウンドも極上の“うねり”を生み出す快哉の演奏で応え、真摯にソウルを捉えながらもポジティヴなムードで観客を感化したパフォーマンスとなった。


 アンコールは、Nao Yoshiokaというアーティストのテーマ・ソングともいえる「Make the Change」。「One Day I'll Fly Away」を歌う前に「〈変化〉はいつも私達をいい場所に連れて行ってくれる。いい出来事を連れてきてくれる。そう思っています」と語っていたが、彼女にとっては“変化”は自身を高めてくれるグッド・メディスン=良薬なのだろう。もちろん痛みが伴うこともあるが、希望へと導いてくれるこの変化こそが自らに喜びをもたらせると信じている……そんな想いをしたためながら表情豊かに歌唱する姿が印象的だった。

 ラストは「〈あれ、何で帰らないんだろうこの人達〉って思ってる?」「(アンコール)1曲じゃないよ!」というフリから、フランク・シナトラらの歌唱で著名なNao Yoshiokaが好きなクリスマス・ソングに関口将史がストリングス・アレンジメントを加えた「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」へ。温かなエレピの音色、冬の季節に相応しいハートウォームと麗しさを兼ね備えたストリングスやギターなどがカラフルな彩りを施しながら、フロアを和やかな安らぎで包み込む演出に。クリスマスらしい微笑ましくジョイフルなムードでステージは幕を下ろした。

 渡米後以来のステージ観賞となったが、ひとつ感じたのは、誤解を恐れずに言えば“カッコよさ”に拘らなくなったところが、成長という意味では非常にプラスになったのではないか、ということ。身体の小さい東洋人がアメリカの舞台で生き抜くことは並大抵のことではなく、自身をどのように演出すればリスナーを響かせられるかということにも苦心してきたとは思う。しかしながら、そこへ注力し過ぎるのではなく、あくまでも自らの魂に宿った感情をありのままで届けるということに寄り添った結果、さまざまな経験とともに備わった訴求力がステージの上でストレートに漲るようになった……と思えたのだが、果たしてどうだろうか。


 彼女が好むソウルはややブルース的な要素も見受けられるが、R&Bやネオソウル寄りという個人的な嗜好からすると楽曲によっては泥臭さある表現にやや抵抗を感じることが以前にはあった(その意味では3rdアルバム『The Truth』はなかでも愛聴盤となった)。だが、今回のステージではそういった抵抗感は消え、身体を揺るがせ没頭させたのは、カッコよさを意識せずに自らに宿る感情の熱を衒いなく放っている姿に、共鳴するグルーヴを感じたからだろう。英語詞ではあるが、詞世界の情景が目に浮かぶような物語性を醸し出すヴォーカル(ストーリーテリングな歌唱とでも言えばいいか)が、実に情感に富むパフォーマンスに繋がったといえる。
 また、ミュージック・ディレクターの宮川やストリングス・リーダーの関口らバンドによるアレンジメントによって、ヴィンテージなソウルに落とし込むのではなく、しっかりと現代的なUS R&Bマナーを下敷きにさせていたのも奏功。個人的にも好みのサウンドメイクに。ソウルフルではない、ソウル(=魂)がこだました空間を眼前にした……そんな思いが終演後に満ちたのだった。
 
 ただ、最後に一つ惜しかったと思うのは、コーラスが同期であったこと。こればかりはさまざまな制限もあって致し方ないところだとは思うが、これまではコーラス隊が配されていたこともあって、このステージにコーラスがいたら……という思いが募ってきたのも正直なところ。それは、コロナ禍が明け、フロアに制限なくなった時までの楽しみの一つにしておくとして、この夜の“解放”に促された余韻にしばらくは浸っているのが正解といえそうだ。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Liberation
02 The Light
03 Celebrate
04 Freedom & Sound
05 Love Me
06 One Day I'll Fly Away
07 Where I Am Supposed to Be
08 Up and Away
09 Loyalty
10 I Love When
11 Forget about It
≪ENCORE≫
12 Make the Change
13 Have Yourself a Merry Little Christmas(Original by song from musical “Meet Me in St. Louis” / well known as Frank Sinatra's song)

<MEMBER>
Nao Yoshioka(vo)

宮川純(p,key / Music Director)
井上銘(g)
ザック・クロクサル(b)/ Zak Croxall
菅野知明(ds)
大嶋世菜(vn)
田島華乃(vn)
松本有理(va)
関口将史(vc)


◇◇◇

【Nao Yoshiokaのライヴに関する記事】
・2013/10/11 Nao Yoshioka@LOOP
・2013/12/06 Nao Yoshioka@代官山LOOP
・2016/11/20 Nao Yoshioka@タワーレコード新宿【インストアライヴ】
・2016/11/24 Nao Yoshioka@赤坂BLITZ
・2017/11/18 Nao Yoshioka with Eric Roberson@ミューザ川崎
・2018/03/27 Nao Yoshioka@渋谷WWW
・2020/12/18 Nao Yoshioka@BLUE NOTE TOKYO(本記事)

【SWEET SOUL RECORDSのCDレビュー】
・2012/01/31 『SOUL OVER THE RACE VOL.2』
・2012/04/10 『DANCE, SOUL LIGHTS』

◇◇◇










ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事