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渡米前のラスト・ライヴは、万感迫るなかでの圧巻の140分。
単身ニューヨークでの修業を経て帰国後は日本のソウル・シンガーとして3枚のアルバムをリリースするほか、ブライアン・オーウェンズやシャーマ・ローズ、さらにはエリック・ロバーソンと共演するなどワールドワイドな姿勢でソウル・ミュージックに接してきた大阪出身のNao Yoshiokaが、2018年4月よりアメリカを拠点として本格的な活動を行なうことを発表。それに際し、大阪と東京で渡米直前のライヴ〈NAO YOSHIOKA LIVE 2018 “DEPARTURE”〉を開催。日本からアメリカへと文字通り“旅立ち”となるライヴ・タイトルを掲げた3月28日の渋谷WWWでの公演に足を運んだ。この日はソールドアウトという盛況ぶりで、日本から世界へ羽ばたく彼女の姿を目に焼き付けようと多くのファンが所狭しと埋めたフロアは、彼女の登場を今や遅しと心待ちにした声や熱気に包まれていた。
鮮やかな青のチューブトップ/ベアトップにシースルーのブラウスにエスニックな色彩の幾何学模様風の柄のパンツというセクシーな出で立ちで登場した彼女。屈託ない笑顔を見せながらセンターに立つと、イントロダクションの後はまず記念すべき1stアルバムのタイトル・チューン「The Light」から“旅立ち”のステージは幕を開けた。続く「Beautiful Imperfections」の出だしではやや音が取れずにいて、このステージに賭ける緊張などが相まって、ややバランスを崩したかと思いかけたが、PAに指示を出したやおら直ぐに軌道修正。麗しくもしなやかな彼女ならではのヴォーカルワークで、フロアのオーディエンスの身体を揺らしていく。
前半は「Spend My Life」「Rock Steady」などソウルやブルージィなテイストに寄せた1st『The Light』、2nd『RISING』の2枚のアルバムからの楽曲を中心に展開。中盤には「I Need You」やオーディエンスとのコール&レスポンスでハートウォームな空間を創り上げた「Joy」などミディアムからスローのバラードでの“聴かせる”ステージへ。旧き良きオールディーズの懐かしくも温もり伝わるムードのソウル・ミュージックを、表情豊かで悲喜こもごも溢れた表情と声色とともに、噛み締めるように、しかしながら、ジョイフルに、胸の内にある感情を戸惑うことなく曝け出していく。
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圧巻だったのは「Rise」からの流れ。2ndアルバム『RISING』のラストを飾るメランコリックながらも希望の光も感じるミディアムだが、自身の感情に素直に寄り添うように、それでいて眼前のオーディエンスの胸に響かせていく熱唱で、次第にフロアに静謐を生み出していく。もの悲しくも感じる旋律ながら、どこか“生”への渇望を体現したようなこの楽曲の終わりに近づくと、より彼女の一挙手一投足へ目が注がれ、天を突くようなシャウトでフィニッシュ。思わず息を呑むとともに、フロアの声ならぬ声の波がステージへ押し寄せた……そんな瞬間だったのではないだろうか。
感心したのがその後に展開。自分は嗜好的に歌い上げるバラード以上にグルーヴィな曲風を好む性質ゆえ、オーセンティックなバラードの連続はやや食傷気味に思えてしまうのだが、そんな自分の心を見透かしたかのように、圧巻のバラードを終え、インスト・トラック「Journey」をインタールード的に用いた後、ネオソウルへ寄せた3rdアルバム『The Truth』収録の「Spark」へ。R&Bメイクラヴァー風の官能的なムードが覆うヴァースからファンキーな歌唱を合図に転調していく肉欲的な楽曲が脳裏に深く刻まれると、フィリーやソフィスティケイトなネオソウルマナーの「Freedom and Sound」へ。胸のうちの襞にあるさまざまな感情をそれぞれ異なる表情を持つサウンドに絶妙な距離感で乗せて吐露していくさまは、シンガーNao Yoshiokaの成長であり、真骨頂だ。
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思えば、海外から帰国してまもなくの頃の彼女は、確かに日本という枠組みだけでは測れないポテンシャルを有していたが、ライヴではどこか自身に打ち勝とう、いいパフォーマンスをしてやろうというある種の気負いがあるのではと感じていた。もちろん、それが大きくパフォーマンスの質を削ぐということはなかったが、ステージ上での歌唱の巧拙を強く気にしているような節があった。それについてはさまざまなステージを積み重ねることで成長し、歌うことの愉しさを追求しようと思えた、ありのままの自分を観てもらいたいという言葉にも現れていた。同時に負けず嫌いだからということも。当初はその負けず嫌いがステージでの気負いに繋がっていたのかもしれないが、これからはそれがアメリカでの成功への強い意志への源になるのだろう。
「Love Is the Answer」「Awake」など歌い慣れた楽曲を次々と披露し、バンドとコーラス隊とが生み出すグルーヴの波に上機嫌で乗りこなしていると、フロアのヴォルテージも沸々と上昇。互いを知り得た精鋭バンド&コーラス隊との息は揺らぐことがなく、時にNao Yoshiokaの歌唱を押し上げる風のごとく、時に歌唱を支える両手のように一体化。特にキーボードのジャンバがソロパートで、オーディエンスへのサーヴィスのみならず、彼女の緊張を解きほぐすようなお茶目な演奏を披露したり、彼女の気迫の歌唱に“あいつすげーな”とも読み取れるようなあんぐりと口を開けたまま演奏する姿に、良好以上の関係性の一端を感じた。終盤には各メンバーがNao Yoshiokaとの馴れ初めや想いなどを話す時間があり、そのエピソードなどからもメンバーが彼女の才能に惚れ、期待し、それに応えたいという固い絆の一端が垣間見えた。
また、前述のジャンバがNao Yoshiokaの世話役を買って出ている男がいると、レーベル〈SWEET SOUL RECORDS〉代表の山内直己への大きな貢献について言及すると、Nao Yoshiokaも客席後方にいた山内にマイクを受け渡す。“こうやってNaoはいつも丸投げするんですよ”と笑いを取った後、山内は“いいモノを広めていかないことは罪”と語り、“Naoのアメリカでの反応は本当に凄いんです”とも。そこにはいい音楽を創り出す才能に出逢えている以上、それを多くの人に知らしめなければいけないという強い信念とともに、Nao Yoshiokaならそれを必ずや達成出来るはずだという確信を得ているからこその言葉があった。この彼女の才能を存分に発揮させられるような環境と彼女の音楽を支えるクルーたちとのチームワークが、Nao Yoshiokaの音楽を世界へ羽ばたかせるに値するソウル・ミュージックを築いてきたといえよう。
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ただ、天邪鬼な自分はそれと同時に、日本の音楽シーンはつくづくR&Bやソウル・ミュージックをすんなりと受け入れる土壌にはなり得ていないのだなという思いも。ニューヨークから帰国後にキャリアを積んできた彼女だが、この日はソールドアウトだったとはいえ、大きなところでは赤坂BLITZでの単独公演はまだ空席があったし、アルバム・セールスも日本の音楽シーンの中でという位置づけから見れば、ビッグヒットを為した訳でもない。アメリカでは昨年に実売、ストリーミング、配信を含む音楽消費のうち、R&B/ヒップホップがロックを上回る割合を占めて、最も人気のあるジャンルになり、グラミーでもR&B/ヒップホップ・アーティストが多くを受賞する潮流のなか、日本ではなかなかスポットライトが当たらないそのジレンマから抜け出すため、アメリカで勝負する意向を決めたのでは……などと邪推をしてしまった。
そんな思いも微かに過ぎったが、演奏がスタートすれば、そんな邪推はいとも簡単に忘れさせてくれた。再びオーディエンスとのコール&レスポンスとともにフロアのパッションのギアを高めた「Forget about It」を経て、本編ラストは「Dreams」。『RISING』収録された動と静の対照的なナンバーを連ねて、自身の飛躍を誓った彼女。“夢”というシンプルだが難しい高みへの飽くなきチャレンジと決意を、力強くも寄り添うように歌い上げていく。
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アンコールはやはり渡米前のラスト・ソングとして相応しい彼女のデビュー曲「Make the Change」。自分を変えたい、歌で生きていきたいという強い願いを込めたこの曲を、今度は日本人ソウル・シンガーとして新たな道を作るための挑戦をしようというタイミングで披露。同じ“Change”でも意味合いは大きく異なるメッセージをこの曲に託して、新たな空の向こうへの“旅立ち”のセレモニーはエンディングを迎えた。本人はもちろん、バンドメンバーには充実と歓喜の表情が溢れ、オーディエンスには万感が去来。海の向こうでの成功を期待、確信する拍手や声援を送る人が多いなか、しばらくの間は日本での姿が見られなくなる感傷、いわば“Naoロス”に既に浸りつつある人も。
ただ一つ言えるのは、演者もオーディエンスも今のNao Yoshiokaをしっかりと表現出来たこのステージが次への力になるという確信と、それを見届けられた貴重な時間を体感したことへの歓喜が、ステージのフィナーレの空間を埋めていたという事実だ。
数年後に振り返った時、“2018年はまさに〈Make the Change〉元年だったよね”と語れる日が近々訪れる……Nao Yoshiokaの“DEPARTURE”が新たなスタートへの“TAKE OFF”に移った今、そんな想いを胸に秘めた人も多いはず。早くも彼女の“凱旋”に胸を膨らませながら、今は傍にある彼女の楽曲に存分に浸る……しばらくはそんな日が続きそうだ。
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◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 The Light *(L)
02 Beautiful Imperfections *(T)
03 Spend My Life *(L)
04 Rock Steady *(R)
05 Love Is the Answer *(R)
06 Turning *(R)
07 Joy *(R)
08 I Need You *(R)
09 Rise *(R)
10 Journey(Intro) *(T)
11 Spark *(T)
12 The Truth *(T)
13 Freedom and Sound *(T)
14 And The Melody Still Lingers On(A Night in Tunisia)(Original by Chaka Khan)
15 Forget about It *(R)
16 Nobody *(R)
17 Awake *(R)
18 Dreams *(R)
≪ENCORE≫
19 Make the Change *(L)
*(L): song from album“The Light”
*(R): song from album“Rising”
*(T): song from album“The Truth”
<MEMBER>
Nao Yoshioka(vo)
Hiroyuki Matsuda(MC/b)
Fuyu(ds)
Tak Tanaka(g)
Takegorou Kobayashi(key)
Jamba(key)
Mizuki Kamata(cho)
Yuho Yoshioka(cho)
Tosh(MP)
◇◇◇
【Nao Yoshiokaのライヴに関する記事】
・2013/10/11 Nao Yoshioka@LOOP
・2013/12/06 Nao Yoshioka@代官山LOOP
・2016/11/20 Nao Yoshioka@タワーレコード新宿【インストアライヴ】
・2016/11/24 Nao Yoshioka@赤坂BLITZ
・2017/11/18 Nao Yoshioka with Eric Roberson@ミューザ川崎
・2018/03/27 Nao Yoshioka@渋谷WWW(本記事)
【SWEET SOUL RECORDSのCDレビュー】
・2012/01/31 『SOUL OVER THE RACE VOL.2』
・2012/04/10 『DANCE, SOUL LIGHTS』
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