熱いパッションがほとばしった、ネオソウルの雄と日本のフィメール・ソウル・シンガーの邂逅。
世代をつなぎ、ジャンルを超え、地域に橋を架ける都市型音楽フェス〈かわさきジャズ2017〉のラインナップに、Nao Yoshiokaが登場。しかも、今回はジル・スコットやミュージック・ソウルチャイルド、ヴィヴィアン・グリーン、ケイスらへの楽曲提供やジャジー・ジェフ作品への参加などでも知られる米・ニュージャージー出身のシンガー・ソングライター、エロ(Erro)ことエリック・ロバーソンがスペシャルゲストとして帯同するとのことで、ネオソウル/R&B好きとしては、なかなか来日が実現しないエリックの来日も兼ねた非常に興味深いものとなった。会場は川崎にあるミューザ川崎のシンフォニーホール。中央のステージを取り囲むような螺旋構造が特徴のホールで、ステージとの距離をあまり感じさせない臨場感と残響が程よく伝わる作りになっている良質のロケーションのなかで、フィラデルフィアから招いたバンドメンバーらを従えながら、ソウルフルなパフォーマンスを展開した。
イントロダクションを終えると、Nao Yoshiokaがステージイン。彼女の代表曲の一つ「Make the Change」からハイテンションでのパフォーマンス。それは彼女が偶然の出会いを機に日本での共演にまで漕ぎ着けたエリック・ロバーソンの存在が大きかったか。高鳴る胸の鼓動を抑えることなく、素直な感情を露わにしたような熱のこもったヴォーカルワークで、観客へも熱を与えていく。
ライヴはNaoとエリックが2、3曲ずつ交互に歌っていくスタイルを軸に、その合間に二人のデュエット・パートを挟み込むといった構成。よく前半と後半でセクションを分ける構成もあるなかで、今回交互に歌い合うスタイルにしたのは、観客に飽きさせないという以上に、共にソウルネスを懐に持つ者同士のデュエットを活かすための最善策といえるか。デュエットもスティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハサウェイ&ロバート・フラック、ダイアナ・ロスにメイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリーといったソウルクラシックスの定番曲にエリックとレイラ・ハサウェイによる「ディーリング」を加えた、味わい深さが感じられるセレクトに。優しく包み込むような陰のリードでエスコートするエリックとそのお膳立てに快く乗って感情をほとばしらせるNaoとのヴォーカル・コミュニケーションが、いっそうソウルネスを発露させる効果をもたらしているようで、それに感化された多くの観客がスタンディングで身体を揺らした終盤の展開も頷けるところだ。
それぞれのセクションにおいては、まずNaoのステージでは、彼女の自信漲る歌唱とともにその表現力に富んだパフォーマンスが耳目を惹いた。冒頭の「Make the Change」もそうだが、麗らかで伸びやかにコール&レスポンスも促す「Freedom & Sound」から一転、濃密な夜のラヴアフェアを紡ぐかのような艶やかさでフロアを一瞬にして恍惚の世界へといざなってみせた「Spark」など、ヴォーカルスキルばかりに頼らない心の機微の襞までをも捉えた表現者としての奥行きを感じさせていた。
終盤の「Rise」では、彼女が持つパワフルなヴォーカルが炸裂。静謐なムードのなかで内なる感情が次第に沸々とした情念へと渦を巻くように大きくなっていく圧巻のヴォーカルで、観客の心を揺るがしていく。
かたやエリックは、肌あたりが非常に優しいジェントルなスタイルが魅力。スウィートなテイストながらも過度に甘すぎない口解けで、包容力の高いヴォーカルワークで観客を魅了していく。変な力みがなく自然体で寄り添うスタイルながらも芯に心地良いグルーヴを携える絶妙のスタンスで、知らぬ間にこちらからのめり込ませていく手腕は見事としか言いようがない。
また、即興的というか遊び心にも長けていて、エリック最初のセクションの冒頭曲「ピクチャー・パーフェクト」では、その曲名や詞世界になぞらえて観客のスマホを手にすると、自身や観客席をバックにしてカメラ/動画モードで撮影しながら歌唱。また、最前列のカップル(夫妻)に名前を聞いた後(アキコとエイジ?だったか)、アドリブで彼らのためにメロウなラヴ・ソングをプレゼントするものの、“アキコ&エイジ”“アフター・ザ・ショウ、レッツ・メイク・ベイビー”“ナウ・ジャスト・ワン・トゥー・メイク・ベイビー・スリー”というようにR&Bマナーのラヴソング・リリック(要するにエロネタ)を韻を踏みながら披露。歌い終わった後も、その二人に「(メイク・ベイビーは)アフター・ショウにだぞ」「今じゃない、後でだ!」と語りかけて笑いを取るなど、エンターテイナーぶりを発揮していた。
本編ラストはダイアナ・ロスの「ザ・ボス」をデュエットで。ディスコ・フレイヴァのサウンドをバックにしたソウルフルなNaoとテンダーなエリックのハーモニーが、フロアにグッド・ヴァイブスを生み出していた。笑顔で歌いかける二人の表情やダンスステップを踏みながらステージアウトする姿からは、ステージでの充実ぶりと確かな手応えを感じていたはずだ。
アンコールはメイズの人気曲を。一般的に日本での知名度は高くないかもしれないが、ソウルやR&B愛好家には本場のフェスやカヴァーされることも少なくない馴染みの一曲。思わず笑顔がこぼれるようなハッピー・ヴァイブスをまぶしながら、川崎の夜を華麗にソウルフルに染め上げていった。
さらに、このショウを上質かつドラマティックなものに仕立てたバックバンドの貢献も忘れてはならないところ。あくまでもNaoとエリックの二人のヴォーカルやハーモニーを際立たせるスタンスを取りながら、しっかりとメリハリある陰影とリズムを刻んだサウンドメイクで、楽曲に振幅と奥行きを持たせながらフロアに一体感をもたらしていた。
当初はどちらかというと(なかなか来日しないこともあって)エリック・ロバーソンにやや重きを置いて観賞しようと思っていたが、予想以上に二人のフィーリングの良さを感じたステージ。一回のみならず、第2弾、第3弾を望みたい、あるいは、一時期オシドリ夫婦と呼ばれたシャンテ・ムーアとケニー・ラティモアとのコラボレーションよろしく連名アルバムを出してもいいのではと思うほど(シャンテとケニーはその後離婚してしまったが…苦笑)。一夜限りではもったいない、魅惑的な時間となった。再演を期待したい。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
≪Nao Yoshioka Section≫
01 Make the Change
02 Awake
≪Eric Roberson Section≫
03 Picture Perfect
04 Couldn't Hear Me
05 Keep On
≪Nao & Eric Duet Section≫
06 All I Do(Original by Stevie Wonder)
07 Where Is The Love(Original by Donny Hathaway & Roberta Flack)
≪Nao Yoshioka Section≫
08 Joy
09 Freedom & Sound
10 Spark
≪Eric Roberson Section≫
11 Borrow You
12 Dreams Don't Have Deadlines
13 Change For Me
≪Nao & Eric Duet Section≫
14 Dealing(Original by Eric Roberson feat. Lalah Hathaway)
≪Nao Yoshioka Section≫
15 Rise
16 Stay
≪Nao & Eric Duet Section≫
17 The Boss(Original by Diana Ross)
≪ENCORE≫
18 Before I Let Go(Original by Maze feat. Frankie Beverly)
<MEMBER>
Nao Yoshioka(vo)
Eric Roberson(vo)
D Maurice Macklin(back vo)
Mizuki Kamata(back vo)
Aaron Hardin(key)
Dai Miyazaki(g)
James Bratten(b)
Brandon Maclin(ds)
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オープニングアクトはピアニストの持山翔子とベースの小山尚希によるユニット、m.s.t.(エムエスティー)によるステージ。ユニット名の“m.s.t.”は“Make the Scenery Tune”の略で、日常の小さな出来事をテーマにした叙景的なオリジナル曲やジャズ・スタンダードや映画音楽のカヴァーを演奏することをコンセプトに活動を展開している。
この日は工藤明をドラムに加えたトリオと銘苅麻野率いるめかるストリングスカルテットを加えての2編成を組み込んで、約1時間の演奏。ドビュッシーのパスピエをオリジナルアレンジで奏でた「Passepied」をはじめ、「Plug in」「願い」「羅針儀」などミニ・アルバム『緑と風』収録曲を中心に展開。クラシックやジャズを下地にしたピアノ・トリオといった佇まいながら、そのどちらにも偏らず、瑞々しいポップ・インスト的アプローチとピアノ・ジャズ/フュージョンを横断するようなアレンジは、確かにユニーク。持山が西野カナ、GLAY、倉木麻衣らのアレンジを手掛け、ももいろクローバーZはじめ“アイマス”などアニメ関連、℃-ute、アイドリング!!!といったアイドルのライヴサポートも務めていることもあって、ポップス的なアウトプットも厭わないところが、楽曲の自由度を高めているのかもしれない。
また、「羅針儀」や「朝靄」などはベースの小山が手掛けたオリジナル曲は、ベーシストらしいというか、ボトムを効かせた軽快なグルーヴが持ち味。このあたりはブラック・ミュージック嗜好との共感が窺えそうなテイストといえそうだ。
持山のオリジナルである夕焼けの情景をモチーフにした「Orange」は、故郷・静岡の茶畑に注ぐ夕日をイメージして作曲したとのこと。彼女は静岡県磐田市出身ゆえ、頭の中で「ということは、ジュビロサポーターかも」と過ぎったのはここだけの話だが、オレンジ色に照らされたステージで、懐古的でどこか安らぎがある鍵盤ハーモニカを駆使しながら郷愁を醸し出すステージは印象的だった。同じく持山によるバラード「願い」は、微笑ましくエンディングを迎える映画のラストシーンのBGMのような穏やかさやピュアネスを携えていた。
アンコールは持山の作曲による「夢」を。タンゴというかラテン調のリズムを組み込んだようなクラシカルな展開もあり、タイトルに相応しい希望が感じられる作風だったように思う。
後ほど僅かながら音源の一部を聴いたが、それら音源とはまた異なったアレンジでのステージだった。CDではピアノが前面に出た透明感溢れる音を強調しているが、ステージでは清爽な音鳴りだけでなく、しっかりと通底するグルーヴを感じられた。
それにしても、トリオはルックスも含め、スタイリッシュなヴィジュアルが目を引いた。特に持山は“別嬪さん”。「天は二物を……」とはよく言うが、普通に二物を与えてしまっている気がする(笑)。鍵盤ハーモニカとピアノを共に演奏する姿はセクシーだった。
◇◇◇
<SET LIST>
Pianium
Passepied(from“Suite bergamasque”by Claude Debussy)
Orange
Plug in
朝靄
願い
Another Day of Sun(from Original Motion Picture Soundtrack“La La Land”)
羅針儀
≪ENCORE≫
夢
<MEMBER>
m.s.t. are:
持山翔子(p)
小山尚希(b)
工藤明(ds)
めかるストリングスカルテット(str.)
銘苅麻野(vn)
雨宮麻未子(vn)
河村泉(va)
(vc)
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