
最近、YouTubeの動画などをゴソゴソと漁っているなかで“ワム!”の楽曲に辿り着き、改めてその良さに感嘆していたところ、ノーナ・リーヴスがワム!の全曲カヴァー作をリリースしているとの記事を目にした。それが、ノーナ・リーヴスが思春期や青春時代を共に過ごしてきた70年代から80年代後半までの洋楽ポップスのヒット曲をカヴァーするというコンピレーション・アルバム『"CHOICE" BY NONA REEVES』シリーズの第3弾となる本作だ。これまで、プリンス、マイケル・ジャクソン、ビーチ・ボーイズ、ビリー・ジョエル、カルチャー・クラブ、トッド・ラングレンらをカヴァーした2011年の『"CHOICE" BY NONA REEVES』、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、ヒューイ・ルイス、ペット・ショップ・ボーイズ、マドンナら80~90'sのヒットをカヴァーした2012年の『"CHOICE II" by NONA REEVES』と過去に2作を発表している。
ノーナ・リーヴス(NONA REEVES)は西寺郷太、奥田健介、小松シゲルによるバンドで、1995年に結成。コアなソウル・ミュージック・ファンにはバンド名を見て“ハッ”と思うかも知れないが、ノーナ・リーヴスの“ノーナ”はマーヴィン・ゲイの娘ノーナ・ゲイ、“リーヴス”はモータウンの女性シンガーのマーサ・リーヴスから拝借したということもあり、彼らのソウル・ミュージックへの愛着がバンド名からも窺える。
彼らの楽曲を本格的に聴き込んだことはあまりなく、「I LOVE YOUR SOUL」「パーティは何処に?」あたりを知っているくらい。ただ、フロントマンの西寺郷太はその広範な知識によるマイケル・ジャクソン・マニアとして各メディアでもよく発言を聞くし、彼のマイケル関連著書も読んでいる。また、奥田健介、小松シゲルとともに、多くの他アーティスト作品やバンド・メンバーとして名を連ねていることも。そういえば、m-flo、一十三十一、BONNIE PINKらのライヴでは彼らの姿を見ていた。西寺はNegiccoへ「愛のタワー・オブ・ラヴ」「ときめきのヘッドライナー」を提供/プロデュースしていたことでも知っていた。
さらに、個人的なことにはなるが、彼ら3人は全員早稲田大学卒業なのだが、誕生年(西寺が1973年、奥田が1974年、小松が1972年)から考えると、どうやら自分と同時期に“学友”だった可能性が高い。あくまで“可能性”というのは、双方現役ストレートで入学していたと仮定したら学生時代が重なるということ。実年齢のままだと後輩になるのだが、学年となると、少なくとも自分が3浪しているのでややこしい。(苦笑)
ということで、何やら好奇心が湧き始めたこともあって(動機が不純かもしれないが)、彼らのそのワム!全曲カヴァー・アルバム『“Choice III”by NONA REEVES』を聴いてみることにした。

まずは、ジャケット。木で作られた左手のオブジェがカセットテープを握っている。当時をリアルタイムで知っている人には懐かしいだろうが、このカセットテープはマクセル「UD-II」。そのCMにワム!自身が出演していたことからの“解かっている”アイテムだ。当時のアルバムはレコードをカセットテープへダビングするのが主流。46分のカセットテープへ収まる録音時間を考えての9曲収録というのも、彼らのこだわりの一つといえる。
次に、その選ばれた9曲だが、ワム!のデビュー・アルバム『ファンタスティック』(1983)、2ndアルバム『メイク・イット・ビッグ』(1984)からそれぞれ4曲ずつに、クリスマスの定番曲となった「ラスト・クリスマス」を1曲プラスしたという構成。「ラスト・クリスマス」はアルバムとしては3枚目のスタジオ作『エッジ・オブ・ヘヴン』(1986)に収録されているのだが、これは日米のみのリリースで本国・イギリスでは発表されていないこと、また、本国としてはベスト盤となる『ザ・ファイナル』(1986)がその代わりという位置づけになっていることもあり、彼らとしては本国で発表されたオリジナル2作を中心にセレクトしたかったのかもしれない。そこに、本作『Choice III』のリリース時期(2014年11月5日)ということも踏まえると、クリスマス・ソングは“条件”となる。
『ファンタスティック』からは「ワム・ラップ!」「クラブ・トロピカーナ」「ラヴ・マシーン」「バッド・ボーイズ」、『メイク・イット・ビッグ』からは「ライク・ア・ベイビー(消えゆく思い)」「フリーダム」「エヴリシング・シー・ウォンツ(恋のかけひき)」「イフ・ユー・ワー・ゼア」を選曲した訳だが、代表曲というところでは「ウェイク・ミー・アップ・ビフォー・ユー・ゴーゴー(ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ)」あたりが選外に。
前述のマクセル「UD-II」のCMソング2曲「バッド・ボーイズ」「フリーダム」は必須として、「ウェイク・ミー・アップ・ビフォー・ユー・ゴーゴー」はワム!のシングルとしては唯一英米ともに1位の楽曲(それ以外では「ケアレス・ウィスパー」が英米1位だが、日本ではワム!名義も実際はジョージ・マイケルのソロ曲)でありながら外されたのは意外だが(曲調的に「フリーダム」と被るというのもあるのかもしれない)、おそらくソウル・ミュージック好きの彼らならではという意識が強かったことが、その原因となったのだろう。というのも、シングルでもない「ラヴ・マシーン」「イフ・ユー・ワー・ゼア」が選ばれているが、これらはともにカヴァーで、前者がミラクルズ、後者がアイズレー・ブラザーズがオリジナル。ソウル・ミュージック好きとしては、是非演奏してみたかった楽曲としてリストアップしたいところだ。
それ以外では、「ライク・ア・ベイビー(消えゆく思い)」のチョイスに意外性を高く感じた人も多かったのではないか。決してキャッチーなタイプの楽曲ではなく、バラードとしてもそれほどドラマティックな作風ではないが、オリジナルとは異なりヴォーカル・エフェクトを施して、原曲にはない味わいを披露している。彼らなりのポップネスを意識させた楽曲といえそうだ。
個人的には「ラスト・クリスマス」よりも「ヤング・ガンズ(ゴー・フォー・イット!)」や「アイム・ユア・マン」(「フリーダム」同様に英1位米3位)などを入れてもらいたかったが、リリース戦略的に「ラスト・クリスマス」は外せないだろうから(彼らの冬恒例のイヴェントで歌い続けてきたというのも大きな理由だろう)、9曲というカセットテープ・サイズ、ノーナ・リーヴスらしいカヴァー・アルバムという主旨を考えると、この選曲がベターなのだろう。
昨今、オリジナル盤よりもカヴァー・アルバムなどのコンピレーション作の方が売れる状況となって久しい。とはいえ、全てのカヴァー・アルバムが売れるという訳ではなく、しっかりとコンセプトがニーズに合ったものでないと、ヒットは難しい。
ワム!というテーマでの本作は、二つの大きなコンセプトをどのように消化できるかが勝負だと思っている。その一つは、本作を聴いてワム!への興味を持ってもらうこと。オリジナルを聴いてみたいという刺激になるかどうか。もう一つは、ノーナ・リーヴスが歌ったワム!(やカヴァー曲)も聴いてみたいと思わせることだ。オリジナルを聴くきっかけになるのは大切で、そこまでとなっても一定の意義があるのかもしれないが、それでノーナ・リーヴスのカヴァーが聴かれなくなってしまうのは寂しいし、商業的な成功へとは結びつかない。その意味では、“オリジナルもいいけど、ノーナのカヴァーもいい”というところへ落とし込めるかが重要となってくる。そのバランスの妙が難しいのだが。
冒頭を飾る「ワム・ラップ!」のハイトーン・ファルセットで“おっ、似てる”と感じさせる雰囲気があり、オリジナルをそっくりにカヴァーするのかと思いきや、続く「クラブ・トロピカーナ」では(元来トロピカルなアレンジだが)バカンスなモードを強調させるためにかAOR/フュージョン/スムース・ジャズ風の心地よいグルーヴを敷いてみたりと、ノーナらしさも。全編英語ということもあり、ヴォーカルは多少苦労したと推測されるが、そのあたりはむしろオリジナルの概念を飛び越えたはち切れたヴォーカル・ワークでも良かった気もする。とはいえ、ワム!入門編としてはいい出来であることは間違いない。あとは、当時を知らないビギナーに加えて、当時を知るファンへの斬新なアプローチをより深く掘り起こす要素のどちらも含まれる広範囲な作品となると、より価値も高まるのではないか。ノーナ・リーヴスが歌うカヴァー曲というよりも、ノーナ・リーヴスのオリジナルとして過去作をカヴァーしたくらいのスタンスで構わないのではないかと思う。
この作品でオリジナルのワム!とノーナ・リーヴスの双方の楽曲を愛する人が増えるようになると素晴らしい。自分も、再度ワム!を愉しみ、ノーナ・リーヴスの楽曲にも触れてみたく思う。

◇◇◇
NONA REEVES/"Choice III" by NONA REEVES」
01 Wham Rap! (*F)
02 Club Tropicana (*F)
03 Love Machine (*F)
04 Bad Boys (*F)
05 Like A Baby (*M)
06 Freedom (*M)
07 Everything She Wants (*M)
08 If You Were There (*M)
09 Last Christmas (*E)
※
*F=Album from『Fantastic』
*M=Album from『Make It Big』
*E=Album from『Music from the Edge of Heaven』
![]() | "CHOICE III" BY NONA REEVES |
NONA REEVES | |
BILLBOARD RECORDS / 株式会社阪神コンテンツリンク |
◇◇◇
Wham! - Bad Boys
Wham! - Club Tropicana
Wham! - Wham Rap! (Enjoy What You Do?)
Wham! - Young Guns (Go For It!)
この曲を演奏するなら、ノーナ・リーヴスのライヴに行ってもいいかな。
Wham! - The Edge of Heaven
事実上のラスト・シングル(フェアウェル・シングル)。英では「Where Did Your Heart Go?(哀愁のメキシコ)」との両A面でリリース。
挿入される“GOOD BYE”“THANK YOU”の文字が切ない。

