
■ CICADA『BED ROOM』
“セミ”と名乗る5人組は“短命”に終わった90年代後半の“ジャパニーズR&Bブーム”を皮肉った外面草食系?
やや穿った見方をすれば、そんなことを想起させるのが、東京・渋谷を根城にする5人組の1stアルバム『BED ROOM』だ。
冒頭曲「ふたつひとつ」の何ともいえない憂いや気だるさとR&B~ネオソウル然としたコード感からは、松尾潔やMAESTRO-T(豊島吉宏)、ディー・インフルエンス(D'influence)らがプロデュースした嶋野百恵が浮かび、リード曲「Naughty Boy」や「君の街へ」などのミニマルなドラミングが映えるジャジィなポップス群からはACOやcharaあたりの意匠にも思えなくもない。
そういった点で“黒さ”が窺えるサウンドではあるが、それだけではないのが彼らの特色。音圧という意味では、重厚さを排除したエレクトロニカやジャズなどの要素を前面に押し出したラウンジ/カフェ路線の曲風が中心だが、決して軽薄ということはない。沈静なムードのなかでポエトリーリーディング風の呟きをアクセントにした「フリーウェイ」はズシーンと響く鍵盤が重みを与えるし、アル・クーパー「ジョリー」のオルガン・パートに近しい感じが印象的な颯爽とした「colorful」ではリズミカルなビートをジャズ的な解釈でやや崩したりして、単なるキャッチーなポップに寄せてはいない。
90年代後半の“和製R&Bブーム”当時の楽曲と絶対的に異なるのは、おそらくエリカ・バドゥあたりのネオソウルやUAらのオーガニックなテイストをベースにしながらも、オルタナティヴなハウスやエレクトロニカなどの音響系のミニマル・ミュージックを通過してきている点だろう。ジェイムス・ブレイクやサンダーキャット、フライング・ロータス、ラーイ、ジェシー・ボイキンス3世あたりまでのサウンドを吸収する感覚に長けているといえば、少しは解ってもらえるだろうか。
さらには、ロバート・グラスパー、クリス・デイヴといったジャズとブラックを橋渡しする音を鳴らしているアーティストたちの影響も感じさせる。音数は多くないが、決して安易なポップスにはなびかない。そんな音創りが、多くの“黒”を背景としたと言われる邦楽シーンのバンドとは一線を画していると言える。
キャッチーからは遠ざかりながらも惹き込ませる魅力は、ひとえに城戸あき子のヴォーカルの存在が大きい。それこそACO、charaあたりとも比較されそうだが、ナイーヴな肌あたりのスウィートな声ながらもしっかりと芯を感じさせる、ジワジワと耳奥や脳裏に爪痕を残していく“時間差系”のモードなヴォーカルは、単なる都会的なエレガント・ポップスに終わらせない強烈なフェロモンを分泌している。
本作のなかではエモーショナルな熱量を見せる「door」で終える『BED ROOM』。その名の通り、緩やかな時と黄昏を演出するナイト・ミュージックに寄り添ってはいるが、それだけでとどまらない、ポップスの新たな可能性を大いに秘めた一枚といえるだろう。今後はどのような振り幅で音を鳴らすのか、次作への期待も膨らむ佳作といえよう。

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『BED ROOM』(2015/02/04)
01 ふたつひとつ
02 Naughty Boy
03 君の街へ
04 夜明けの街
05 フリーウェイ
06 月明かりの部屋で
07 Colorful
08 雨模様
09 あなたの影
10 熱帯魚
11 door
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CICADA(シケイダ) - Naughty Boy
CICADA(シケイダ) - door


