*** june typhoon tokyo ***

Brandon Coleman@Billboard Live TOKYO


 汗ほとばしるほど濃厚なグルーヴが横溢した、コズミックなファンクオデッセイ。 

 近年ではカマシ・ワシントン『ジ・エピック』への参加やフライング・ロータス、サンダーキャットらと共演を果たして注目される鍵盤奏者、ブランドン・コールマン。フライング・ロータス主宰のロサンゼルスのレーベル〈ブレインフィーダー〉からアルバム『レジスタンス』をリリースした彼が来日するとあって、その東京公演に馳せ参じた。会場はビルボードライブ東京。サーヴィスエリアにての観賞となったが、中央には一瞬、要塞あるいは城塞かとも感じさせるほど鍵盤が高く配されているのを目にすることに。これをコールマン一人が操るのか……とやや驚きを感じていると、左手にはヤマハ(YAMAHA)とノード(nord)のキーボード、右手奥にはモーグシンセらしき楽器が。総数で10台ほどの鍵盤が居並んでいて、そのうちセンターにはノードとヤマハのモティーフ(motif)、ホーナー(HOHNER)のクラヴィネット、(恐らく)リバレーション(MOOG Liberation)のショルダーキーボードなど5、6台が所狭しとセッティングされていた。サーヴィスエリアなら通常は最前テーブルは比較的早く埋まっていくのだが、センター最前列席はそれらの鍵盤“要塞”の直下ゆえ、コールマンの顔が見えづらいだろうと観客も察知したのだろう、次々席に着くもののその席はなかなか埋まらないという珍しい光景も垣間見えた。

 バンドの構成は中央のブランドン・コールマンとカーネル・ハレルがキーボード、右手奥にモーグシンセのジャエ・ディールと鍵盤3名に、中央奥にドラムのロバート・ミラー、右手前方でヴァイオリンを奏でる白のタイトなスカート姿の紅一点、イヴェット・ホルツヴァルトという布陣。
 巨漢を揺らして中二階から登場したコールマンだが、話し声はハスキーと言えば聞こえはいいが、だいぶかすれ気味でなかなか英語が聴き取りづらい(苦笑)。それでも身振り手振りを混ぜながらの話し姿はどこかチャーミングで憎めない風貌ゆえ、大きな身体とのギャップもあって、つい微笑んでしまう。



 オープナーは“トーキオー”の歌詞も出てくる「オール・アラウンド・ザ・ワールド」で、一つ一つ音を重ねていくような鍵盤使いとヴォコーダーによるエフェクトヴォイスでゆったりとコズミックな音世界の扉を開いていく。当初はなだらかに、しかしながら時折ヒップホップ的なトラックセンスも薄っすら見え隠れするリズムで展開していくが、次第に鍵盤裁きに熱を帯びてくると、一気にインプロヴィゼーション的な流れへ。あまりにも熱が入り過ぎてノードのシンセに体重をかけ過ぎて片側が浮いてしまう場面も。とにかくアグレッシヴというかエネルギッシュというか、モードに入ってしまうと奔放かつ大胆に鍵盤を叩いていく。ドラムとコンタクトしながら熱の入ったアンサンブルを繰り広げるのだが、時には残り二人の鍵盤が(「ああ、また世界に入っちゃったよ」「こりゃ当分終わらないなぁ」と思ったかどうかは分からないが)何度も首をすくめながら“ヤツのプレイにはお手上げだよ”といった表情を見せるほどで、その渾身の演奏はつい可笑しくて笑いがこぼれてしまうほど。

 続く「ア・レター・トゥ・マイ・バガーズ」の後半からはフリージャズ的なインプロヴィゼーションが多めに。そして“美しいレディたちはいるかい? そうそう君たちさ。次はそんな君たちへの曲だよ”と女性客を指さしながら始めた「セクシー」では、スペシャルゲストとしてマサ小浜が登場。ワウギターでファンク濃度が一気に上昇すると、ここでコールマンはショルダーキーボードでマサ小浜と丁々発止のセッションを展開。丁々発止といっても鍔迫り合いのような緊迫した尖ったムードではなく、あくまでもファンクの競い合い自慢合戦のような両者食い気味のキャッチボール。マサ小浜が腰を揺らせるグルーヴィなギター音を鳴らせば、そのギター音に寄せた鍵盤音で同じようにフレーズやコードを鳴らして押し返すというような、まさに80年代ファンク、ブラコンマナー全開の“クドい”リフレインの応酬で、いやがうえにもフロアのヴォルテージが高まっていく。次曲が満天の星がフロアに散りばめられるなかで美しい鍵盤が響くメロウで壮観なテイストだっただけに、「セクシー」との大いなるギャップを感じさせた。



 3曲ほどで40分。曲後半はほぼ即興でのセッション・スタイルなので、歌の割合が少ないこと。ロバート・グラスパーのファンク版とでもいうか、やはり元来はジャズ畑に寄っている人なのだろう。タイプは異なるが、音源では普通に歌っているのにライヴではアドリブやジャムセッションばりに暴れまくるフランク・マッコムとも似たスタイルともいえようか。曲の終わりはコールマン自身がキューを出していたが、決めごとは最小限にしてあとはその場の(彼自身の)判断でメンバーに指示を出すというのは、スティーヴィー・ワンダーやジェイムス・ブラウンにも重なる。ただ、その即興があまりにも熱を帯びてしまい、両端のキーボードやヴァイオリンが手持ち無沙汰に見えることも。

 音源ではエンダンビをフィーチャーした「サンデー」はヴァイオリンのイヴェット・ホルツヴァルトとのアンサンブルを軸に披露。ヴァイオリンは(おそらく)エフェクトを効かせていて、引くだけでなく弓の根元で押し出すようなファットな音をボトム代わりに重ねる手法で、音の奥行きを構築していた。モーグシンセとの相性も良く、それほど目立ちはしなかったが、コズミックなファンキー宇宙絵巻たるサウンドを顕在化させるのになかなか貢献していたのではないか。

 本編終了、メンバー退場後も拍手が止まないなか、一旦は明転し「本日の公演は終了しました」とのアナウンスが流れるも、着替えたコールマンが観客席を小躍りで走り抜けながら登場。急遽のアンコールが実現し、「ジャイアント・フィーリングス」で幕。70分で6、7曲は決して多い方ではないと思うが、暴れ馬のように奔走しながらもツボは外さず、大いに汗を搔かせるファンキーなグルーヴネスを弾き飛ばしていったステージは充実感に満ちていた。



 ヴォコーダーを駆使するゆえ、ザップ&ロジャーをモチーフにした印象もあったが、ジャズを基盤にファンク、ディスコ、ソウル、フュージョンあたりを包括する自在な音楽性からは、ハービー・ハンコックやアース・ウィンド&ファイアのほか、パーラメントやファンカデリックなどジョージ・クリントンのPファンク路線も存分に目に浮かんだ。その中でも特にスティーヴィー・ワンダーの影響が見て取れたが、そういう意味でもスティーヴィーとも共演を重ねたマサ小浜のギターとの相性が絶妙だったのは言わずもがなか。演奏はなかなかストイックにエレクトロなファンクを鳴らしながら、パフォーマンスはダイナミックかつエネルギッシュに。そしてユーモラスや茶目っ気ぶりもプラスと、グイグイ迫る興奮のステージとなった。

 音源とはだいぶ異なるフリーキーなファンクネスが横溢していたが、しっかりと近未来的なグルーヴネスを下敷きにした音を鳴らしていたため、彼らが鳴らすサウンドスケープに雑味はあまり感じられなかった。そのあたりは、デイム・ファンク、フライング・ロータスやサンダーキャットといった現行西海岸のサウンドを吸収し、レトロフューチャーなファンクにあまり寄りかからず、フュージョンにも触れたシンセをレイヤーとして重ね、コズミックとサイケデリックを溶かした音鳴りとして活かしたというところか。

 個人的にはアルバム『レジスタンス』の先行シングルで最後(アンコール)に披露した「ジャイアント・フィーリングス」に続くキラーチューンで、タキシード作品あたりとも近しいと思しきブギー曲「リヴ・フォー・トゥデイ」やアーバン・ブラックな「アディクション」あたりがセットリストから外れたのは少しばかり残念ではあったが、思った以上にその音とパフォーマンスを愉しませてもらった。
 “プロフェッサー・ブギー”の次なる野望はいかなるものか。エレクトロ・ファンクを極めていくのか、それとも新世代LAシーンならではのヒップホップ的アプローチを強めた音に昇華していくのか。コンテンポラリーなブギー・サウンドの進化や動向にも目を向けつつ、早いうちでの再来日を願うばかりだ。


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<SET LIST>
01 All Around The World
02 A Letter To My Buggers
03 Sexy
04 There's No Turning Back
05 Sundae
06 Walk Free
≪ENCORE≫
07 Giant Feelings

<MEMBER>
Brandon Coleman(key)
Carnell Harrell(key)
Jae Deal(moog syn)
Robert Miller(ds)
Yvette Holzwarth(vn)

Special guest: Masa Kohama(g)


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