*** june typhoon tokyo ***

天野なつ ✕ WAY WAVE @下北沢CLUB251


 “三度目の正直”で叶ったコラボレーションで、ライヴへの歓喜と感謝を再認識。

 「コロナ禍が落ち着いたとしても、ライヴが出来ることは当たり前じゃないんだなと気づかされた」……1年前の緊急事態宣言下でライヴが次々と中止になり、気持ちが沈んでいた時に詞を書いた「願い」を紹介する際に、そう語った天野なつ。事実、小池杏奈と小池優奈による美人姉妹ユニット、WAY WAVEとのツーマンライヴは、コロナウィルスの影響もあって2度ほど延期され、昨年12月21日の公演(記事はこちら→「天野なつ@下北沢 CLUB251」)は当初のツーマンライヴから天野なつの単独にDJ arinco、さらにゲストに柏原収史を迎えてという変則的なものに急遽形を変えて行なわれた。その“再リヴェンジ”をようやく2021年の春に果たした、ということになる。

 しかしながら、感染防止対策の一環として、50名という観客数制限、着席スタイル&席間の距離を保つ、発声なしの拍手のみなど、万全のライヴ環境とはいえない状況が続くなかで、それでも観客を前にライヴが出来ることの喜びと感謝を、天野なつ、WAY WAVEともにそれぞれの個性で表現。天野なつは前回に初披露されたラメ入り黒地にゴールドの縁取りをあしらったへそ出しチューブトップ&ワンショルダーにショートパンツ、WAY WAVEがキラキラしたスペーシーなシルヴァーのワンピースミニと、互いに煌めきを全面に強調した派手めのコスチュームで登場したのは、このステージを待ちわびていたことへの期待と喜びも含めた派手やかさだったのかもしれない。

◇◇◇


 先日バースデーを迎えたというDJ arincoのオープニングDJを経て、先陣を切ったのはWAY WAVE。“SOUL & FUNK”をコンセプトとした美人姉妹デュオということもあり、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」を拝借したイントロダクションでステージイン。DJ arincoが先導するバックトラックとともに、ソウルフルでファンキー、時折ブルージィな薫りを漂わせる歌唱を披露しながら、テンポ良く進行していく。

 これまでWAY WAVEのステージは、昨年の1月と12月に開催したHALLCAが対バン相手となった定期ライヴ(2020/01/19→「HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2」、2020/12/13→「HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2」)で観賞していたが、その際にはセットリストに入らなかった楽曲も。モータウンや70年代ディスコをモチーフにしたような痛快なファンキー・ダンス・グルーヴ「Dance Party」や、スタジアムロック調のフィスト・アップなフレーズと高揚煽るホーンを組み込みながら土着的な匂いを微かに滲ませたアッパーなモータウン・ファンク「WAVY GIRL」はノリもよく、彼女らが掲げる“ソウル&ファンク”ラヴァーには特に響きそうなポテンシャルを秘めている。7インチや配信リリースも決定したとのことで、それだけ力を入れた楽曲ということなのだろう。

 ラストに披露した「Half Moon」もおそらく個人的には初めて観賞した楽曲だと思うが、こちらは“Fly High Fly High......”というフレーズとともにややチルなムードを帯びたリラクシンなソウル仕立て。作風に添って時に唸りも混ぜたファットなヴォーカルワークが多い彼女たちだが、そのなかでの一服の清涼剤的な立ち位置のミディアム・チューンといえようか。心地よく身体を揺らすのにはうってつけなテイストで、目くばせし合うリアルシスターズの歌うことの楽しさが伝わってくるようなパフォーマンスも印象的だった。
 また、「マジカル恋愛体質」は、薄っすらとORIGINAL LOVE「月の裏で会いましょう」のフックも脳裏を過ぎるグッドメロディに“マジカル恋愛体質”という風変わりなリリックを織り交ぜていて面白い。もちろんソウルな要素はあるが、しっかりとポップスとしても成立させるキャッチーな部分を蔑ろにしていないところに好感が持てる。

 そして、何より安定した歌唱力をキープしているのが最大の魅力。そこへ実の姉妹だからこその阿吽の呼吸というか、無意識のうちにアジャストし合っているリゾナンスとシンクロ、共鳴と同時性が加わるのだから、デュオとしては当然、高い資質を有している。晴れやかな笑顔で朗々とハッピーなオーラを振り撒くように歌う姉・杏奈と、凛とした顔立ちから時にシャウトを織り交ぜたりしながらストレートに届けんばかりと歌う妹・優奈。それぞれが互いに目くばせしながら、絶妙のコーラスを含めて創り上げるハーモニーは、他のデュオにはなかなか真似出来ないオンリーワンなスタイルだ。

 重箱の隅をつつくとすれば、サビやフックなどのキメの部分はインパクトもあって痛快なのだが、それ以外のヴァースなどの部分でヴォーカルワークの弱さや声の陰影の薄さが感じられるところも散見されるところか。キメではしっかりとグルーヴに乗れているだけに、やや目立つ程度ではあるが。
 それと(これは以前から思っているが)単に昔ながらのフレーヴァ―をなぞらえるだけでなく、新しい要素(最先端でなければいけないということではないが)をそれとなく楽曲とヴォーカルワークにプラスしたりすると、より彼女たちの個性が立って、周囲の興味を惹きやすくなる気はする。正直なところ、知名度としては途上ゆえ、そういった戦略も必要なのかもしれない(特に日本のシーンでは、ソウルやファンク、R&Bなどのブラック・ミュージック・シーンはファン層をなかなか獲得出来ずにいる経緯があるので)。若くしてこれほど歌える(妹の優奈は次で22歳とのこと)デュオが世間に伝わらないのは、非常にもったいないことだ。

 とはいっても、これらは些細なこと。有望な若手デュオであることに相違はなく、今後の期待を抱かさせるリアル“ソウル&ファンク”シスターズだ。


◇◇◇


 福岡からの上京後というタイミングでコロナ禍へ突入。東京を拠点に、と決めながら思うような活動が出来ずに、地元・福岡でステージに立っていた天野なつ。久しぶりの東京でのライヴには、それ相応の意気込みもあったのだろう。

 そう感じられた一つが、松尾宗能が手掛けた新曲「Labyrinth Game」を用意してきたこと。観客への振り付けのレクチャーをしてから歌うのだが、現時点ではコール&レスポンスが出来ないなか、少しでも観客やファンとの共感を得たいという気持ちの表われだったのかもしれない。

 楽曲はクラップを誘発させるズチャズチャという2ビート系のリズムが先導するアッパーな曲調で、“恋に落ちたメロディ、聞こえたでしょ今”からのフックが印象的な恋のときめきを綴った快活なラヴ・ソング。パステルカラーが映えるような鍵盤の音色と元気印な天野なつのイメージをそのまま投影したかのようなチアフルなガーリーロック風のリズム隊でアグレッシヴに展開していき、“迷い込んだら抜け出せない、甘くて切ないラビリンスゲーム”のフレーズのラストでは高音からのファルセットも披露。グルーヴというよりもポジティヴなノリに重心を寄せたような作りは、なかなか思い通りの道筋を描けていない現状を打破したいという天野の気持ちを松尾が代弁したのかも、と思わせるようだった。

 そのほかでは、天野も出演した舞台『検温しましょ』のテーマソングとして柏原収史が手掛けた「Pandora」も(「私のために書いてくれた……」とつい言ってしまうくらい天野自身が気に入っている楽曲のようだ)セットリストに組み込んできたが、個人的には冒頭の「恋してbaby!」が印象深かった。

 というのも、この曲自体は既に幾度もステージで披露され、特に目新しい楽曲でもないのだが、以前披露したダンスをリアレンジしたのだろうか。「恋してbaby!」は(ダンスなど全く明るくない人間が言及するのもなんだが)、流れるような(どちらかといえばフワフワした感覚の)ポップなメロディラインゆえ、楽曲に沿ってキメを作るようなキレのある振りをつけるのがなかなか難しいリズムだと思うのだが、定型のダンスのフリを繰り返すのではなく、性急さも取り入れたものに。そのなかでの歌唱は非常に息が上がると思うが、そのあたりも大きな乱れはなかった。

 ライヴ本編では「恋してbaby!」のほか、静止したフォーメーションから一気に情熱的なモードへと抑揚激しく展開する「true love」、新曲の「Labyrinth Game」にてダンサーを伴って披露。ダンサーは流動的に入れ替わったりしているが、ステージの回数を増すごとに天野自身の楽曲イメージを上手く伝えられていることもあるのか、ダンサーを付け始めた当初より、表現力もアップ。パッション、クール、そして女性らしいキュートな部分を場面ごとに表現し、自身を含めた3名で楽曲の世界観を構築していこうという気概も感じられた。のちのWAY WAVEとのコラボレーションの際、「(前に会った時から結構時間が経っているけど)前の時と方向性というか、雰囲気が変わった」「バックダンサーつけたり、カッコいい。クールになってる」と言われたのは、表現力の向上が演者側からも見て取れるということの証左かも。天野が「都会っぽくなった?」と聞き返したことに「え、そんな(意味じゃ)……」と慌てるWAY WAVEとの絡みは微笑ましかった。

 そのMCの流れで、天野とWAY WAVEの優奈が同じ誕生日ということに言及し、優奈が「次で22です!」と答えた直後にフロアに笑いが。「へぇ~(汗)。私の方がちょっとお姉さんかな」という“いろいろ意識し始めるお年頃”な天野の姿を見届けてから、WAY WAVE、ダンサーとともに天野が「是非一緒にやってみたかった」という「Open My Eyes」でラスト。「Labyrinth Game」では「フリが難しいと思うので、何となくでもいいからやってみてください」と観客の“スキル”に不安げだったが、演奏後に観客が問題なくフリが出来たことに安堵したか、振り付けのレクチャーも適当にして、パフォーマンスへ突入。フロアからの振りのレスポンスに破顔しながら、楽しさと無事に終えた安堵の表情をみせたエンディングとなった。

 今後は東京でも精力的にライヴを行なっていくということで、既に5月7日(金)に 仮谷せいらとのツーマンライヴが決定。一方、WAY WAVEは5月16日(日)に定期開催しているイヴェント〈部員集会〉でAmamiyaMaakoをゲストに迎えて、奇しくもHALLCA、仮谷せいら、AmamiyaMaakoによるユニット“はるかりまあこ”の面々がそれぞれのライヴに出演。はるかりまあこやHALLCAファンには嬉しいコラボレーションになりそうだ。


◇◇◇

<SET LIST>
≪WAY WAVE≫
00 INTRODUCTION(including phrase of “Dance To The Music” by Sly & The Family Stone)
01 あいたいのあいたいのとんでいけ
02 マジカル恋愛体質
03 Dance Party
04 Hello New Wave
05 WAVY GIRL
06 Looking For Woman
07 Half Moon

<MEMBER>
WAY WAVE are:
Anna Koike / 小池杏奈(vo)
Yuna Koike / 小池優奈(vo)

DJ arinco(DJ)


≪天野なつ≫
00 INTRODUCTION
01 恋してbaby!(with Dancers)
02 願い
03 Pandora(Original by トキヲイキル)
04 true love(with Dancers)
05 Labyrinth Game(New Song)(with Dancers)
06 Open My Eyes(collaboration with WAY WAVE)(with Dancers)

<MEMBER>
天野なつ(vo)

Su-chan(dancer)
Tamane-chan(dancer)

◇◇◇










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【「天野なつ」に関する記事】
2020/01/08 〈まんぼうmeeting〉vol.5 @下北沢BAR?CCO
2020/07/13 天野なつ『Across The Great Divide』
2020/08/07 天野なつ @タワーレコード錦糸町パルコ【インストアライヴ】
2020/08/20 天野なつ @下北沢 CLUB251
2020/11/03 天野なつ @HMV record shop 新宿ALTA【インストアライヴ】
2020/11/07 天野なつ @渋谷La.mama
2020/12/21 天野なつ @下北沢 CLUB251
2021/04/09 天野なつ ✕ WAY WAVE @下北沢CLUB251(本記事)

【「WAY WAVE」に関する記事】
2020/01/19 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2020/12/13 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2021/04/09 天野なつ ✕ WAY WAVE @下北沢CLUB251(本記事)



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