*** june typhoon tokyo ***

天野なつ @渋谷La.mama

 ライヴ開催への感謝と歌手としての意気込みを示した、充実のステージ。  

 “会いたい会えない / 触れたい触れられない”……新型コロナウィルスの影響で活動の自粛を余儀なくされた時のもどかしさは、偶然にもこの「True Love」の一節にも重なるのかもしれない。昨年末に福岡から意を決して上京し、ソロとしてここからという矢先のコロナ禍。それでも今年6月に待望の初アルバム『Across The Great Divide』(弊ブログのレビューはこちら→「天野なつ『Across The Great Divide』」)をリリースし、さらには同作のアナログレコード(元来アナログを意識して制作したという)のリリースにも漕ぎつけたポップ・シンガー、天野なつ。決して順調とはいえないなかで、アナログ盤リリースという節目に開催された渋谷La.mamaでの〈1stアルバム『Across The Great Divide』アナログ盤発売記念ライブ〉に急遽、駆け付けた。

 広瀬愛菜とフロントアクトの一色萌との“対バン”スタイルで、天野のステージも単独と比べるとややこじんまりとした尺となったが、東京では初となる22歳の女性ダンサー2名(前を開けた黒ジャケットに白インナー姿の銀髪の“萌”と、タイトな黒のパンツスタイルの上下にポニーテール姿の“すー”)を従え、配信でも展開したりと、熱度を40分にギュッと詰め込んだステージに。天野は『Across The Great Divide』で見せている緑の上下パンツスタイルではあったが、インナーはエレガントなブラウスではなく、スパンコールを施した黒いチューブトップというやや“攻めた”衣装にも、このライヴへの意気込みが窺えた。


 その熱度はさまざまなところで“誘発”された。ダンサーとともにステージインするやいなや披露されたオープナー「midnight」では、ターン多めのダンスということもあったか、早々に天野の両耳のイヤリングが飛んでしまう。それでも、キレのある動きと笑顔とともにジョイフルなムードを醸し出すダンサーとのフレッシュなパフォーマンスを完遂し、天野の代名詞な快活なポップネスを提示していく。
 一旦ダンサーが退き、「Secret703」に続き披露した「恋してBaby!」では、途中でオケが途切れてしまうというハプニング。それでも即座にフロアから起こったクラップのサポートもあって、偶発的ではあったが「恋してBaby!」“ア・カペラ”ヴァージョンというなかなかレアなパフォーマンスが成立。天野も「めっちゃ歌いやすかった」「みなさんリズム感いいですね」としっかりフォローして、“アクシデント”ではなく“サプライズ”へと昇華させる機転も。

 7曲というそれほど多くない楽曲構成のなかで、トピックとなったのは柏原収史が手掛けた「願い」「憂い」と激しいダンスで魅了した「True Love」だろうか。特に「憂い」と「True Love」は、オーセンティックなポップ・シンガーとして活動してきた天野に新たな彩色を施す楽曲で、それぞれ楽曲の色は異なるも、爽やかで明るいポップネスだけではない、天野の艶の部分を引き出しているところが美味。「憂い」では、フックにて打ち寄せる波のごとくハイトーンを畳み掛け、さらにその上へと突き抜けるようなファルセットも連なるなど、一つバランスを崩すと楽曲の訴求性を欠いてしまうような難曲だが、哀愁のなかにはち切れそうな情感を宿す作風をしっかりと捉えて、観客の耳や胸の内をグッと掴んでいた。

 ダンサーを再び迎えての「True Love」では、イントロからの最初のフックではダンスを控えて歌唱のみに専念し、次のヴァースで一気に激しいダンスへと突入するという“焦らし”の演出を。この“タメ”により、「願い」「憂い」で築いたセンチメンタルなムードからの一変をスムーズに呼び込むことに奏功すると同時に、観客のさらなる“前のめり”を誘発。MCでのトークで見せる朗らかさとのギャップも手伝って、天野と歌手としての懐の広さやこれからの可能性の一端を改めて感じたアクトとなった。


 ラストは、引き続きダンサーを従えて、クラップとともにファンとの触れ合いを声を出さない“コール&レスポンス”で体現する「Open My Eyes」を。天野の本来のイメージする屈託のない王道のポップスから生み出すハッピーなヴァイブスでフロア一面を包み込み、爽やかでジョイフルな風をもたらしながらエンディング。制限がありながらも観客の前でライヴが出来る有難さに感謝しながら、充実感溢れる笑顔をほころばせてステージは終わりを告げた。

 楽曲の数がそれほどある訳ではないので、長尺のライヴとなると曲構成にも苦心しそうな懸念があることも考えると、現時点ではこのステージほどの尺が有効なのかもしれない。だが、今後楽曲が増えていくことで、ステージにおいてのヴァリエーションも豊富になるはずだ。楽曲の世界観をステージの上で表現することが容易ではない楽曲も多いが、その課題を丹念にクリアしていけば、さらなる高みも見えてくるに違いない。まだライヴの場数も少なく、『Across The Great Divide』の世界をすべてパフォーマンスし切れたとまではいえないだろうが、着実に歩みを進めて、天野なつしかなし得ない新境地のポップスを提示していってもらえたら。ファンやリスナーは「アナログで聴いてこそ」の仕上がりと自負する『Across The Great Divide』を、CD、アナログで聴き比べたりして、その世界を存分に堪能しながら、次なるトピックを待ちたいところだ。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 midnight (with Dancer)
02 Secret703
03 恋してBaby!
04 願い
05 憂い
06 True Love (with Dancer)
07 Open My Eyes (with Dancer)

<MEMBER>
天野なつ(vo)

萌chan(dancer)
すーchan(dancer)




◇◇◇


■ 天野なつ / Across The Great Divide(2020/11/3)
NRSP-1287(LP/2020 レコードの日 限定盤)〈なりすレコード〉

[Side A]
01 Midnight
02 Koishite Baby!
03 Curry Rice
04 Utakata No Hibi
05 Positive Life

[Side B]
01 Kimagure Na Call
02 Secret703
03 True Love
04 Open My Eyes
05 Restart

◇◇◇

【「天野なつ」に関する記事】
2020/01/08 〈まんぼうmeeting〉vol.5 @下北沢BAR?CCO
2020/07/13 天野なつ『Across The Great Divide』
2020/08/07 天野なつ @タワーレコード錦糸町パルコ【インストアライヴ】
2020/08/20 天野なつ @下北沢 CLUB251
2020/11/03 天野なつ @HMV record shop 新宿ALTA【インストアライヴ】
2020/11/07 天野なつ @渋谷La.mama(本記事)

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