*** june typhoon tokyo ***

一十三十一@Billboard Live TOKYO


 秋風とともに運ぶ淡い恋の残り香とミステリアスな夜の宴。

 2015年10月にリリースされたアルバム『THE MEMORY HOTEL』を受けた形となった、“媚薬系”ヴォイスのシンガー・ソングライター、一十三十一恒例のビルボードライブ公演。その2ndショウ。個人的には、2014年3月、同年8月の公演以来の観賞となる。週明けの月曜というタイミングだったが、サービスエリアはすこぶる盛況で、全体では8~9割以上は集まったのではないか。

・2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO



 肩からガウン風に広がった淡い色のワンピースのフレアードレスを着こなした一十三十一を中央に、左からキーボードの中村圭作、ベース&キーボードの南條レオ、中央奥にドラムの小松シゲル、右奥にサックス&フルートのヤマカミヒトミ、そして右前にギターの奥田健介という馴染みの布陣に、途中でトークボックスのLUVROWが加わるというステージ。

 新作アルバム『THE MEMORY HOTEL』は、砂漠をさまよう白いドレスの女が描かれたジャケットよろしく、記憶喪失の女がホテルから出て砂漠へ迷い込むストーリーがコンセプト。THE MEMORY HOTELを舞台にしたミステリアスな物語という設定はアーバンとは少し異なるシチュエーションだが、ホテルの窓から見える景色はリゾート……ということで、いわゆるシャレた夏景色のような快晴なアーバン・リゾート感覚はないものの、少し陰がある哀切なメロディとともに歪んだ時空を旅するようなシティ・ポップ作に仕上がっている。

 そのアルバムの世界観を持ち込んだ今回のステージ。冒頭こそ『CITY DIVE』のリード曲「DIVE」で幕を開けたものの、次からは「ミステリーツアーへようこそ。ミステリーコンシェルジュの、ミステリーハンターの……一十三十一です」の挨拶のとおり、微かな危険な薫りと上品ながらも艶やかな色彩に満ちた大人のサウンドを提示。アルバム制作陣もそうだが、バンド・メンバーも気心知れた間柄ゆえ、変にかしこまった風は微塵もなく、角の取れたスムーズで洗練されたポップスを披露していく。

 また、楽曲の合間のMCの不思議なテンポもこれまでと同様の“一十三十一ワールド”が健在。メンバー紹介を兼ねて突然各メンバーに“オススメのミステリースポットは?”と尋ねて回る場面があったのだが、ドラムの小松シゲルの「今(一十三十一が)いるそこ(ステージ中央)がミステリースポット」という回答が全てを表わしていた。
 また、どうやら週末にクイズ番組『世界ふしぎ発見!』を見て感化されたようで、「実はミステリーハンターになりたかったんで、今日はその役目が出来て嬉しい」だの、本編最後の曲の前に「それではラストミステリーです」と客振りするなど(おそらく“世界ふしぎ発見!”とレスポンスしてもらいたかった模様)、普段と変わらぬマイペースな“ワールドっぷり”で愛嬌を振り撒いていた。



 セット・リストは新作アルバムがストーリー仕立てゆえ、原則アルバムの曲順通り演奏してその世界観を堅持。後半になると「サレンダラー」でスペシャル・ゲストのLUVROWがステージイン。この楽曲の経緯については、当初は一十三十一がLUVRAWに書き下ろしを頼んだものの、LUVROWのSoundcloudにあった曲が『THE MEMORY HOTEL』の中でも歪みを生みそうということで、LUVROWから譲り受けたという。それゆえアルバム全体に敷衍する哀感や黄昏モードとは異なる陽気なサウンドが特色だが、このステージでもパッと一幕トロピカルなリゾート感を演出。そのままLUVROWを残して「STARDUST TONIGHT」へ移行し、LUVROW作品を連投。煌びやかさを増すトークボックスと弾んだ一十三十一の歌声が、ラグジュアリーな空間を創り出していった。

 LUVROWがステージアウトした後は、『THE MEMORY HOTEL』の終盤に収められた「ロンリーウーマン」「Labyrinth~風の街で~」で本編は幕。寂しさを埋めようと愛を探しながらもどこか物悲しさを感じるようなもどかしさと不可思議に包まれたストーリーを、シャレた音遣いと耳に残りながらも決してしつこくない絶妙な甘さのヴォーカルでナヴィゲートしていく。日本の秋でありながら、どこか異国情緒も感じる音像を残していった。

 アンコール後は、これまたビルボードライブ恒例のカヴァー曲披露から。「ミステリアスではないけれど、極上のアーバン」という理由から、今井美樹の1989年発表の4thオリジナル・アルバム『MOCHA』から「Anytime Manytimes」を。本編のもの憂げなムードとは一転、ジャジィなグルーヴで展開するアーバン・ポップで六本木の夜にふさわしい煌びやかなムードを演出すると、ラストは再びLUVROWを呼び寄せてから「踊れるよね?」の一言でフロアのオーディエンスをパーティ・ダンサーへと誘った「恋は思いのまま」でフィニッシュ。バンド・メンバーたちはあくまでもストーリーを飾る脇役といった佇まいで職人的にサウンドを生み出すことに専念していたが、そこはしっかりと一十三十一のヴォーカル・ワークを活かすための音を鳴らしていたという点で、この秋の夜を彩るミステリーストーリーを完結させたといっていいだろう。かといって、決してBGMやオケという訳でなく、一十三十一を中心にした“アーバン(ミステリアス)アクト”として一体化、奏でるサウンドのさじ加減が素晴らしかった。

 ハイトーンが少し辛そうになるのはご愛敬。アンニュイとアーバンを行き来するステージは、背伸びを許して非日常に連れ出してくれる……そんな世界観に抱かれた一夜だった。
 


◇◇◇
 
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 DIVE
02 Overture(*)
03 The Memory Hotel(*)
04 その目は、Hypnotic(*)
05 ミステリートレイン(*)
06 忘・却・飛・行(*)
07 時を止めて恋が踊る
08 サレンダラー(Special Guest with LUVRAW)(*)
09 STARDUST TONIGHT(Special Guest with LUVRAW)
10 ロンリーウーマン(*)
11 Labyrinth~風の街で~(*)
≪ENCORE≫
12 Anytime Manytimes(Original by Miki Imai)
13 恋は思いのまま(Special Guest with LUVRAW)

(*)Song from album『THE MEMORY HOTEL』

<MEMBER>
一十三十一(vo)

奥田健介(g)
南條レオ(b,key)
小松シゲル(ds)
中村圭作(key)
ヤマカミヒトミ(sax,fl)

Special Guest: LUVRAW(Talk box)



◇◇◇














にほんブログ村 音楽ブログへにほんブログ村 音楽ブログ ライブ・コンサートへブログランキング・にほんブログ村へ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事