アーバン・マエストロの指揮で都会の夜を彩る、スタイリッシュな音楽版『タリオ』。
浜辺美波と岡田将生のW主演で昨年10月より毎週金曜日(22時~/全7話)に放映されていた、正義感の強い元弁護士と怪しげな詐欺師がタッグを組み、被害者からの依頼で悪人に復讐するという痛快でポップな“復讐”エンターテインメント・ドラマ『タリオ 復讐代行の2人』。そのオープニング&エンディング主題歌や音楽を担当したのがクニモンド瀧口率いる流線形と一十三十一で、ドラマも終盤を迎えた11月に“流線形/一十三十一”名義の共作でアルバム『Talio』をリリース。ドラマのサウンドトラックとともに“シティポップ”(一十三十一いわく“シティポ”)をテーマにしたコンセプト・アルバムとして話題を集めていたが、その音楽版『タリオ』とでもいうべきステージをビルボードライブ東京で開催。流線形名義としては約8年ぶりのステージとなる。アルバム『Talio』に参加した堀込泰行、シンリズム、KASHIFをゲストに迎え、アーバン&ブリージンなムードのステージを展開した。
流線形バンドは、基本的には、左から鍵盤の平畑徹也、ベースの松木俊郎、クニモンド瀧口を置いて、ドラムの北山ゆう子、ギターの山之内敏夫、パーカッションの平野栄二という布陣で、時折曲によって、右前に一十三十一のライヴでもお馴染みのサックス&フルートのヤマカミヒトミと、トランペット&フリューゲンホルンの西岡ヒデローが加わる。そして、前列左から中央にかけて、一十三十一やゲストの堀込泰行、シンリズム、KASHIFがそれぞれの曲毎に位置する形だ。
前半はヴォーカルレスでドラマ『タリオ 復讐代行の2人』の劇伴を演奏。インストゥルメンタルが続いたが、AORやフュージョンというよりも、ファットなベースやシャッフルするドラムを効かせたジャズ・ファンク調を重心とした短めの尺の楽曲ゆえ、心地よく聴ける。願わくば、バックにスクリーンを配してドラマ『タリオ 復讐代行の2人』のティザー映像やピックアップシーンなどの映像が流れれば、『タリオ』の世界観を描出するのに最適だったが、そのあたりは権利関係などの絡みもあるか(単に浜辺美波が見たかっただけでは? と言われたらそれまで)。
個人的に劇伴を生バンドで聴くという経験はあまり記憶がなく(単曲では聴いたことがあっても、連続して聴くことは滅多になかったはず)、なかなかに新鮮で、ドラマ『タリオ 復讐代行の2人』もほぼリアルタイムで観ていたこともあり、ドラマ観賞中はそれほど意識しなかった劇伴が、より陰影をもった音として飛び込んできた。劇中では“アクセント”としてドラマをサポートしていたトラックを、改めて音やリズムに意識を傾けて聴いてみると、洒脱でクールなのはもちろん、ちょっとした遊び心のようなリズムもチラリと見え隠れしたりと、劇伴と侮るなかれといわんばかりのモダンな作風で、フロアに煌めきや享楽と哀愁をもらたしていた。
“パッパッパパパ~”というスキャットがキュートな「恋愛小説」からはヴォーカリストとして一十三十一がステージイン。(流線形と)一緒にやるのは2012年のビルボードライブぶりという一十三十一の代表曲の一つ「DIVE」を終えると、1stステージを観ていたDORIANに「MCの時、何もわからなかった」と言われたというKASHIFが登場(「(2ndステージは)ハッキリしゃべろうと思う」と言ったがやっぱり籠りがちだった…笑)。KASHIFが『Talio』で参加している4曲中2曲を演奏することに、一十三十一から「たった2曲でいいんですか」と繰り返し煽られるも「出来ることならずっといたいですけど」と素朴に返答するやり取りは、一十三十一のライヴでも見受けられる光景。サビのファルセットとグルーヴィなギターが印象的な「蜃・気・楼」に続いて披露した「真実のテーマ~City Light~」は、アルバム音源ではインストだが、この日のために歌詞ありのリリック・ヴァージョンというスペシャル仕様に。KASHIFのサマーブリージンなギターは、フロアに夏を一足早く呼び込んでくれるようでもあった。
ここで堀込泰行とシンリズムがステージイン。ドラマ『タリオ 復讐代行の2人』オープニング・テーマとなった「金曜日のヴィーナス」を歌う堀込は、TVドラマの主題歌はキャリア初ということで張り切り、「親にも電話した」とのこと。もちろんドラマにも注目して第1話を観たら、序章を経てオープニングの場面、イントロが流れて堀込の歌唱となるパートに差し掛かったところでサーっと曲がフェードアウトしてドラマに入ってしまい、その後も歌唱パートが流れることはなかった。自身の歌唱が流れるかどうかが気になり過ぎて、ドラマの内容が全然頭に入ってこない状態で観終えたそうだ。
「ほう(初回はこんな感じか)。じゃあ、今後かな」と第2話を観賞した堀込。オープニング主題歌のイントロが流れ「今日こそ来るだろう」と思ったら、また歌唱パートに入るところでフェードアウト。堀込は「あ、そういうことですか。それならそれで……」と第3話以降はドラマを観なくなってしまったとのこと。一十三十一が「それ、徐々に盛り上がっていって。(歌唱パートも)第5話くらいからすごかった、ね?」と告げてフォロー仕掛けたところ、クニモンド瀧口が「『タリオ 復讐代行の2人』のBlu-ray&DVDが来週(4月21日)出るので、それで確認してもらえると」と言った後に一十三十一が「奇しくも、堀込さんのアルバム(ソロ3rdアルバム『FRUITFUL』)もその日に出るんですよね」と合いの手。すると、堀込が「そうなんです。(『タリオ』の映像作品は)僕のアルバム・リリースにぶつけてきて……僕が(NHKに)何かしましたか? しましたっけ?」と自虐する始末。「そういう訳で、今日は思い切り歌いたいと思います」と力強く“宣言”して、観客から大きな拍手を浴びていた。
シンリズムは、結構ギリギリのタイミングで1ヵ月以内に仕上げてくれとオファーがあり、タイトなスケジュールに一瞬たじろぐも、以前から聴いていた流線形や一十三十一の作品ということでオファーを快諾。クニモンド瀧口は「僕たちが昔観ていた刑事ものとか探偵もののイメージでの依頼したのですが、見事に応えてくれた」と絶賛し、「お父さんの影響もあるのかな」と問うと、シンリズムは「若干それはありますね」とのこと。シンリズムは2015年にメジャー・デビューだから6年目となるのだが、メジャー・デビュー当時は高校2年という1997年生まれの23歳。シティポップは生まれる前で当然リアルタイムで知る由もないが、持ち前のサウンドアレンジのセンスが奏功したのだろう。ちなみに、シンリズムとは本名(新理澄)で、一番影響を受けたのがキリンジの堀込兄弟とのこと。その意味では『Talio』で出会うべくして出会ったとも言えそうだ。
そのドラマ『タリオ』のオープニング・テーマ「金曜日のヴィーナス」は、堀込の人懐っこいヴォーカルが跳ねながら、ほんのりレトロな歌謡ファンクの色香が漂う軽やかなポップ・チューン。ステージでのシンリズムのギターとの相性も良かった。
インスト曲「タリオのテーマ」、メンバー紹介を経て、クニモンド瀧口が「このくらいの(春の)時期になるとSNSなどで挙げてくれる人がいたりする、流線形の懐かしい曲を」とのフリから、再び一十三十一を呼び込んで、流線形の2006年のアルバム『TOKYO SNIPER』に謎の美大生“江口ニカ”として参加した「スプリング・レイン」へ。一十三十一は2008年に喉にポリープが見つかり一時歌手活動を休止していたことがあり、デビュー当初と現在の歌唱では若干異なっているのだが、「スプリング・レイン」を歌っている姿を見ると、以前の一十三十一のヴォーカルワークがフラッシュバックしてくるから不思議だ。これは完全に個人的な思い込みでしかないだろうが、それくらいに楽曲の世界観にマッチしているということを、このステージで再確認したのかもしれない。
本編ラストは、一十三十一の「早いもので、もう終わりです。いいんですか、それで」「みなさん、いいんですか、それで」という煽りにクニモンド瀧口も苦笑しながら、ドラマのエンディング・テーマ「悲しいくらいダイヤモンド」へ。一十三十一の進行形のエレガントなスウィート・ポップ然とした作風に、フュージョンライクなホーン・セクションやグルーヴィなリズムがスタイリッシュに映える痛快さは、このユニットでこそなし得るアティテュードだろう。
メインディッシュの「悲しいくらいダイヤモンド」が終わり、後はデザートかと思われたアンコールだが、メインディッシュクラスのものが待っていた。インスト曲「魚座の最後の日」を終えて、一十三十一、堀込泰行、シンリズムを呼び込むと、クニモンド瀧口が「みなさん大好きなこの曲を、せっかくなので」というフリから流れてきたのは、キリンジの名曲「エイリアンズ」。後方のカーテンが開き、ミッドタウン周辺の夜景をバックにした絵面のなか、堀込、一十三十一、シンリズムがヴォーカル&コーラスを執るというサプライズに、グッと惹き込まれるように聴き入る観客の姿があちらこちらに。アーバンと甘酸っぱさが融解した最適解の一つともいえる「エイリアンズ」が、流線形バンドという手慣れで彩られた、極上の瞬間となった。
ラストは『Talio』から「嘘つき手品」でエンディング。ドラマとは一種のパラレルワールドとなる、流線形と一十三十一がW主演、堀込泰行、シンリズム、KASHIFをゲストに迎えた音楽版『タリオ』は、フロアに鳴り響く万雷の拍手とともにクランクアップ。清爽な夜風が肌を撫でるような煌めきを残したステージは、5月1日に追加公演が行なわれる。
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<SET LIST>
01 予告編 (*T)
02 モンキービジネス (*T)
03 哀愁のタリオ (*T)
04 復讐と冷静の間で (*T)
05 シボレー67 (*T)
06 チープスリル (*T)
07 真夜中の訪問者 (*T)
08 恋愛小説(一十三十一)(*T)
09 DIVE(一十三十一)
10 蜃・気・楼(一十三十一、KASHIF)(*T)
11 真実のテーマ~City Light~(lyrics ver.)(一十三十一、KASHIF)(*T)
12 金曜日のヴィーナス(堀込泰行、シンリズム)(*T)
13 タリオのテーマ(シンリズム)(*T)
14 (Introduction Instrumental to “Spring Rain”)
15 スプリング・レイン(一十三十一、シンリズム)
16 悲しいくらいダイヤモンド(一十三十一、シンリズム)(*T)
≪ENCORE≫
17 魚座の最後の日(*T)
18 エイリアンズ(堀込泰行、一十三十一、シンリズム)(Original by KIRINJI)
19 嘘つき手品(堀込泰行、一十三十一、シンリズム)(*T)
※(*T)= song from album『Talio』
<MEMBER>
流線形 are:
クニモンド瀧口(DJ, key, perc)
山之内敏夫(g)
松木俊郎(b)
平畑徹也(Rhodes p, org)
北山ゆう子(ds)
平野栄二(perc)
西岡ヒデロー(tp, f.hr)
ヤマカミヒトミ(as, fl)
一十三十一(vo)
Special Guest with:
堀込泰行(vo)
シンリズム(g, cho)
KASHIF(g)
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【一十三十一のライヴ観賞記事】
・2014/03/24 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2014/08/31 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2015/10/26 一十三十一@Billboard Live TOKYO
・2016/09/18 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2017/08/31 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2018/03/02 一十三十一@billboard Live TOKYO
・2019/07/12 一十三十一 @EBiS 303
・2020/02/21 一十三十一 @Billboard Live TOKYO
・2020/11/08 一十三十一 @Billboard Live TOKYO
・2021/04/16 流線形/一十三十一 @Billboard Live TOKYO(本記事)
【クニモンド瀧口に関する記事】
・2015/01/25 Mixed Up@代官山LOOP