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復調した日本マクドナルドと好調モスバーガーの決算を分析する

2016-11-18 13:05:36 | 食べ物・食の安全

復調した日本マクドナルドと好調モスバーガーの決算を分析する

2016.11.18 Nikkei BPnet

日本マクドナルドが発表した10月の既存店売上高は前年同月比23.4%増となり、鶏肉偽装問題が発覚する以前の水準まで戻したと報じられました。利益水準はまだ十分ではありませんが、売上高的には順調に回復していると言えます。

 マクドナルドは信頼回復のための努力を重ね、2016年に入ったあたりから少しずつ客足が戻り始めました。回復の理由の一つは、割安なセットと高価格商品をバランス良く展開したことです。復活販売したテキサスバーガーも大ヒットしました。もう一つの理由は7月22日にリリースされた人気スマホゲーム「ポケモンGO」の特需です。

 同じく大手ハンバーガーチェーンのモスバーガーを展開するモスフードサービスは、2015年5月に20~40円の値上げに踏み切りました。円安の影響による原材料費の高騰、そして物流費、人件費などのコスト増に対応するためです。しかしその一方で各メニューをグレードアップさせ、従業員の教育を徹底したサービス向上によって、逆に業績を伸ばしています。

 今回は、大手ハンバーガーチェーン2社の最新の決算を分析するとともに、ファストフード業界の動向を探ります。

明るい兆しが見え始めたマクドナルド

 2014年、日本マクドナルドでは賞味期限切れの鶏肉偽装問題や異物混入問題などが相次ぎました。その後、急速な“マクドナルド離れ”が進み、平成27年12月期決算(2015年1~12月)では過去最悪の営業赤字234億円、最終赤字349億円を計上。消費者の信頼を取り戻すまでには、かなりの時間と努力を要するだろうと言われていました。

 ただ、厳密に言うと、業績悪化の要因はこれだけではなく、元々緩やかに右肩下がりだったところに、「偽装」や「異物混入」という二つの大問題によって一気に落ち込んだという状況でした。

 同社は何とか客足を取り戻そうと、様々な戦略を練ってきました。ファミリー層や女性客を取り戻すために、野菜を多く取り入れたメニューを出したり、カフェメニューを提供する「マックカフェ」を展開したり、ビジネスパーソンや学生が店内でパソコンを使えるように電源やWi-Fi環境を用意した店舗を増やしたり、というものです。ただ、戦略に一貫性がなかったこともあり、なかなか消費者の信頼を取り戻すことはできませんでした。

 ところが2016年に入ってから、ようやく明るさが見え始めました。この間に何があったのでしょうか。早速、平成28年12月期第3四半期(2016年1~9月)の決算を見てみましょう。

鶏肉偽装問題発覚前の水準に戻りつつある

 この9カ月間の売上高は前年同期より20.1%増の1652億円、本業の儲けにあたる営業利益は、前年同期は207億円の赤字でしたが、この期は38億円の黒字に転じました。最終利益も、292億円の赤字から32億円の黒字まで回復しています。

冒頭でも述べたように、日本マクドナルドが発表した10月の既存店売上高は前年同月比23.4%増となり、鶏肉問題が発覚する以前の水準まで戻したと報じられました。売上高の数字だけ見ますと、順調に回復していると言えます。

 回復の理由は、いくつかあります。一つは、割安なセットと高価格商品をバランス良く展開したことです。これは一見、どの層をターゲットにするのか戦略がはっきりしないようにも感じますが、結果的に売り上げアップに繋がりました。


高低価格の組み合わせと「ポケモンGO」が奏功

 例えば、平日昼限定の低価格セット「バリューランチ」は、ハンバーガーとドリンクのセットで400円というお手頃価格です。その一方で、期間限定商品のテキサスバーガーは490円と、マクドナルドにしては高価格帯です。それでも人気メニューとして好調に売り上げました。ベーコンポテトパイなどのサイドメニューも客単価を押し上げる要素になりました。

 二つめは、7月22日にリリースされた人気スマホゲーム「ポケモンGO」の特需もありました。マクドナルドはポケモンGOと連携し、全店舗約2900店がイベントスポットになっていたのです。その結果、7月の既存店売上高は前年同月比26.6%増、8月は15.9%増という大幅な伸びを見せました。

 しかし、ポケモン特需もテキサスバーガーも一時的な影響ですから、「実力」という意味ではまだまだ問題発覚前の水準まで回復していないと言えます。

 ただ、自己資本比率は61.9%と依然として高い水準を維持しており、中長期的な財務安定性という意味では全く問題ありません。売上高営業利益率が2.3%程度で、まだまだ満足できる水準ではありません。さらなる改善の余地はかなりあると思われます。

 

右肩上がりのモスバーガー

 次に、同じくハンバーガーチェーン大手のモスバーガーを展開するモスフードサービスの最新の決算を見てみましょう。こちらは、マクドナルドと違い、第2四半期まで(4月~9月)の6カ月間の数字です。

売上高は前年同期より3.2%増の357億円。営業利益は68.3%増の28億円。最終利益も、83.7%増の18億円となっており、大幅な伸びが見られます。売上高営業利益率は7.8%です。

 先にも触れましたが、モスバーガーは2015年5月に20~40円の値上げを行いました。原材料費、人件費、物流費といったあらゆる費用が上昇していたからです。

 その一方で、客足が減るのを防ぐために、同社はいくつかの対策を講じました。一つは、各メニューをグレードアップさせることです。例えば、産地直送の野菜を採用したり、ハンバーガーのパティ(牛肉)の量を増やしたりしました。二つめは、従業員の教育を徹底したことです。商品の作り方から接遇まで、改めて研修を実施しました。私もたまにモスバーガーで食事をしますが、確かにサービスレベルが上がったと感じました。

 また持ち帰り客が店舗で待たずに済むように、新たにスマートフォンからの注文も始めました。持ち帰りの客単価は1800円と、店全体の1000円を大きく上回るため、これも売り上げ増に貢献したのです。

 このように顧客満足度の向上を目指すために、基礎的な部分を強化したことが功を奏しました。結局、値上げしても業績は下がらないどころか、伸びたのです。

外食業界はまだら模様

 今回分析した2社の業績は改善していますが、ファストフード全体を見ますとまだら模様です。

 日本フードサービス協会のデータによりますと、9月の売上高は前年同月比4.5%増、客数は2.1%増、客単価は2.3%増となっています。ただし、各社によって業績にバラツキがあり、全ての企業が総じて伸びているわけではありません。

 ファストフードのような比較的低価格帯を扱う企業の業績は、メニューやサービスなどの微妙な差で差がついてしまうからです。

 例えば、安価な商品ですと、お客は「このお店のこの商品じゃなければダメだ」とはあまり考えません。「ハンバーガーでも牛丼でもうどんでもいいか」というふうに思うことも多いのです。

 ですから、同じような立地に同じような価格帯のお店があれば、お客はそのときの気分でお店を選ぶようになり、お客が感じるちょっとした差(得した感)で売上げ、利益が大きく変わってしまうのです。


個人消費が落ち込む中で外食産業は堅調に推移

 もう一つ、私が気になるのは、日本国内でデフレ圧力が強まってきているということです。

消費者物価指数を見ますと、前年比マイナス0.5%の水準が続いています。私は、すでにデフレに陥っていると考えています。外食産業の収益も、全体としては横ばいが続いているとは言え、厳しい状況には変わりありません。

 その中でも、今回分析したモスバーガーは値上げに成功している好例でしょう。お客は敏感ですから、少しでも費用対効果がいいところに行ってしまいます。真新しいメニューなどの商品開発も重要ですが、モスバーガーのように、商品のクオリティや接遇を向上させることも、それを感じる顧客層も多いことから、戦略としては有効なものだったのではないかと思います。

 消費が低迷する中で、マクドナルドは引き続き回復基調に乗り、利益率を向上していけるのか。また、モスバーガーもこのまま業績を伸ばしていけるのか。今後の両社の動向にも注目しています。