通貨暴落に苦しむイラン 海外脱出は「夢」に
消費の落ち込みがさらに景気を冷やす悪循環に
2018 年 9 月 16 日 02:32 JST THE WALL STREET JOURNAL
【テヘラン】経済混乱に見舞われているイランでは、通貨リアル急落により、多くの市民が休暇や出張、
留学などを目的とする海外渡航を断念せざるを得ない状況に追い込まれており、消費の落ち込みがさらに景気を
冷やす悪循環に陥っている。
リアルは1月以降、対ドルでおよそ75%下落し、今月には1ドル=約14万リアルの安値に沈んだ。
そのため、航空燃料などを含むドル建ての財・サービス価格は大幅に値上がりしており、多くの中間層にとって、
旅行費用は手の届かない水準に跳ね上がっている。
2人の娘を持つフルーザンさん(46)は、通貨暴落により、10代の娘をカナダの大学に留学させる計画をあきらめた。
そのため、娘は急きょ、質の悪い国内大学への入学を目指さざるを得なくなった。
「予算が決まっているので、ドル建ての値上がりペースにはついていけない」。フルーザンさんは、不満を
漏らしていることを知られたくないとして、苗字は明かさない約束で取材に応じた。
イラン指導部にとって、こうした問題はさらなる頭痛の種だ。通貨急落に加え、2桁の失業率やインフレ高進で、
イランの経済危機は深まっている。フィッチ・ソリューションズ・マクロ・リサーチは、イランの国内総生産
(GDP)は来年、4%以上のマイナスに陥ると予想する。
イラン経済は、トランプ米政権がイラン核合意からの離脱を宣言した5月以降、悪化の一途をたどっている。
米国は先月、対イラン制裁を復活させており、11月にはイラン産石油や同国の金融機関との取引を制限する
追加制裁も発動する構えだ。
イランでは昨年12月、政府の経済運営に不満を抱える市民による大規模なデモが発生しており、
経済問題の深刻化は、ハッサン・ロウハニ大統領にとって大きな政治的リスクだ。
世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、旅行・観光は今年、イランで150万人以上の雇用を支え、
間接的な要因も含めればGDPの7.3%を稼ぎ出す見通しだった。だが、旅行代理店は予約の取り消しに見舞われ、
多数のスタッフ削減を余儀なくされているようだ。
制裁による痛みが広がる中、エールフランス、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)、エーゲ航空、KLMなど
欧米の大手航空会社はここ数週間に、テヘラン便の停止を発表。イランの航空会社も運行便を削減しており、
国営のイラン航空は9日、ドバイ、独ハンブルク、スウェーデンのヨーテボリに向かう便を減らすと発表した。
こうした動向により、とりわけ影響を受けているのが、欧米諸国に対する敵対感が薄いコスモポリタン市民だ。
テヘランの旅行代理店でマネジャーを務めるバヒッド・アリネジャド氏は、海外で医療サービスを受ける
「医療ツーリズム」はほぼ全滅状況だと語る。イランの中・高所得者の間では珍しくなく、アリネジャド氏の
代理店では毎週10人のペースで予約があったが、過去3カ月は全くなくなったという。
イランは海外旅行に関するデータを公表していないが、旅行先として人気の高いトルコでは、
6月にイラン人観光客が前年同月比30%落ち込んだ。隣国ジョージアを訪れるイラン人観光客も7月、
前年比およそ10%減った。
イラン人の多くは、ソーシャル・メディア上で不満を爆発させている。シャヒン・サマドプアさんは、閑散とした
機内の様子を録画した動画を投稿し、広く共有された。サマドプアさんは「300席の機体に乗客はたった20人だ」と
語りながら、テヘラン―タブリーズ間を結ぶ1時間の国内便チケットの高さを嘆いた。「飛行機での移動にも手が
出なくなっている。状況は日に日に悪くなる一方だ」