中国が攻略できない王国――スワジランド(エスワティニ王国)と台湾の関係を探る
スラジランド・ムババーネ(CNN) ノジフォ・ムパパネさん(15)が幼少期に初めてその寺を訪れたとき、
壁にはめ込まれた数百体の白い像はおもちゃの人形のように思えた。
ムパパネさんは「あれはブッダだと教えられ、『あら、それならこれが一番偉い存在なのね』と言ったの」と振り返る。
あれから9年。ムパパネさんは今、スラジランド南部にあるアミトフォ・ケアセンターで他の数百人の子どもと一緒に
仏教のマントラを日々暗唱している。
同センターの入居者は3~19歳の子どもたちで、孤児や貧困家庭の出身だ。カンフーや仏教、中国語などの
教育を受けて施設を旅立つ。
センターに通うスワジランドの子どもたち
アミトフォセンターは台湾の仏教僧により2011年に設立された。南アフリカとモザンビークにはさまれた
小国スワジランド王国と台湾を結ぶ数多い外交的・文化的なつながりの一端を担っている。
ムパパネさんは歯切れの良い標準中国語で、「台湾とスワジランドが友人になって本当に助かった。
今ではスワジランドの子どもたちは学校に通えている」と話す。
しかし50年前にさかのぼるこの関係は、アフリカを始めとする世界において一種の例外になりつつある。
さまざまな国が台湾と断交し、中国との外交関係を樹立しているためだ。
スワジランドはその中国も攻略できない国といえる。
「逃れた者」を承認する
中国と台湾が分離したのは1949年。国共内戦で中国共産党が勝利し、国民党勢力が台湾に逃れてきたのを
受けてのことだ。両岸は以来、別々の政府に統治されている。
中国は数十年にわたり、世界各地で台湾と断続的な外交戦を繰り広げてきた。中国と国交を樹立した国は全て、
台湾との国交は断っている。これはどちらか一方を迫る選択であり、北京の当局者は「一つの中国」原則と呼んでいる。
中国政府は様々な誘因や取引、融資、激しい外交圧力を使い、アフリカの国をひとつずつ攻略してきた。
中国は勝利を収めつつあるのだ。
中国は今年5月24日、自国と正式な国交を樹立するようブルキナファソを説得することに成功。
これによりスワジランド(正式な国名は「エスワティニ王国」)は、アフリカに残る台湾の最後の砦となった。
ただ、この状況がどれだけ続くのかには疑問が残る。
中国外務省の華春瑩報道官はCNNの取材に、「『一つの中国』原則に基づき中国と互恵的な関係を発展させる
国が増えている。我々はこれをもちろん歓迎し、スワジランドも中国とアフリカの友好関係に基づく大家族に
戻ることを望む」としている。
最後の大使
アフリカに残された最後の台湾大使、トーマス・チェン氏がこうした圧力を感じていたとしても、そんな様子
を外に出すことはまずない。
「毎晩1分で寝付いている。二国間関係に関してはそれほど安心している」(チェン氏)
チェン氏が座っているのはムババーネ中心部にある中華民国大使館のレセプションホール。中華民国は台湾の
正式名称として知られているが、この名前だけでも中国当局者の怒りを招くだろう。
チェン氏は米国で台湾の大使館機能を代理する機関で長く働いてきたが、そこは公式な大使館ではなかった。
「ここだけが自分を『閣下』と呼んでくれる場所だ」と茶目っ気を含む笑顔を見せながらチェン氏は語る。
トーマス・チェン台湾大使は「毎晩1分で寝付いている。二国間関係に関してはそれほど安心している」と語る
台湾はスワジランドとの関係を非常に真剣に受け止めている。
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は4月、この小さな王国を公式訪問。中国が「金銭外交」を行って
他国の忠誠心を変化させようとしていると不満を示した。
しかしスワジランドでは、台湾も自らの金銭を投じている。大使館を望む丘の上には新しい病院が建設中で、
農村部の電力普及は台湾関係団体が主導。スワジランドの学生は台湾で学ぶための奨学金を手にすることも多い。
その見返りとして、台湾は何を得ているのだろうか。
チェン氏は「正式な承認が非常に重要だ。国際社会の場で主権国家であることを望むならば、承認が必要になる」と
指摘する。
首都ムババーネで建設中の新たな政府系病院は台湾が建設を担い、一部資金協力もしている
しかし、人口140万人ほどのスワジランドがどうやって14億人の中国の誘惑に耐えているのだろうか。
中国は台湾よりも資金潤沢なはずではないか。
その答えは大使館の執務室で電話を取るチェン氏の背後にあった。スワジランドの絶対君主、ムスワティ3世の
銀の額縁に入った写真だ。
「国王との謁見(えっけん)はいつでも申し込める。国王の都合の良いときにだが」
国王は良い立場
台湾のスワジランドの関係は、主に国王との関係だといえる。
暖かい冬の日。ムスワティ国王は医薬品保管施設の開設にあたり姿を見せる予定になっていた。
施設は台湾が建設して資金を出したものだ。
大半の行事と同様、国王は黒の高級車マイバッハに乗って到着した。
国民の3分の2近くが貧困ラインの下で暮らす国にあって、50万ドルの同車を巡っては大きな議論が持ち上がった。
このため国王は地元メディアに対し、車内にいる国王の姿の撮影を禁じている。
歌唱隊の賛歌が響くなか、国王がマイバッハから降りてくる。スワジの赤の伝統衣装の上には即座にそれと分かる
台湾の旗があった。
ムスワティ国王はこれまで17回にわたり台湾を公式訪問している。17回目となった6月上旬の訪問では、
台北を訪れた。
訪問のスタイルは国王一流のものだった。
キング・ムスワティ3世国際空港はスワジランド東部、首都から1時間ほどの農村地帯にある。滑走路は世界最大級の
個人専用機が発着できる長さだ。
ムスワティ国王は台湾の大手航空会社、中華航空からエアバスA340―400型機を購入し、ドイツのハンブルクで
改修した。
そして今回の台北訪問では、同機初の台北行き直行フライトに随行者およそ80人を乗せていったのである。
実利重視の政治
台湾政府からの援助や経済支援にもかかわらず、スワジランドの野党は、国王が台湾との関係を自らの利益のために
利用していると主張している。
人民統一民主運動(PUDEMO)の指導者は、「台湾とムスワティ国王との関係は非常に問題含みで、
自己利益優先でもあると思う」と語る。
スワジランドでは、PUDEMOなどの野党系民主派団体はテロ抑止法に基づき禁止されている。
「国王とその家族だけを利する根深い関係だ」と同指導者は指摘する。
ムババーネを望む丘の町では国王と台湾の取引などに対する不満が鬱積(うっせき)しているが、大半の人々は
国王を名指しで批判するのには及び腰だ。
サッカー選手の練習場の隣で菓子販売店を営む男性は、IT系の単位を取得したものの適した仕事を
見つけられないという。
「実態を知らない人から見ればスワジランドは美しい国だが、ここでは声を上げることができない。声を聞いて
もらえなければ無意味だ」と語る。
台湾では20年以上にわたり活発な民主主義が展開されてきた。絶対君主であるムスワティ国王を支援すること
関しては懸念もあるかもしれないが、それが外に漏れてくることはない。
友情は永遠に?
台湾大使は夜よく眠れるというが、それでも片目は開けておきたいかもしれない。
中国がここでも国交を樹立する可能性が、もはや突飛な考えとは言い切れない。
スワジランドのドラミニ首相代行は、中国外務省からの電話を拒むつもりはないと語る。中国による進出の
可能性についても、「すぐに台湾に背を向けることは難しいが、もしかしたら発展目的で検討するかもしれない」
との考えを示した。
国旗の近くには建国の父、孫文の写真が掲げられている
さらに「発展というのはダイナミックなものであり、スワジランドは(世界から)孤立して存在するわけではない」
とも述べた。
中国は最近、アフリカへの600億ドルの支援を表明した。中国にとっては勝ちたいグレート・ゲームだ。
ただ、ドラミニ氏は急いでこうも言い添えた。
「この件は国王次第だ」