なぜフランスばかり過激派に狙われるのか
2016 年 7 月 18 日 07:36 JST THE WALL STREET JOURNAL
南仏ニースでトラックが群衆に突入した事件は80人を超える犠牲者が出た。
同事件を含めるとフランスでは過去4年間で240人以上がテロで死亡している。
この恐ろしい数字はフランスがジハーディスト(聖戦主義者)にとって西側最大のターゲットと化したことを示している。
仏政府関係者や西側専門家によると、フランスがアフリカとシリア空爆で重要な軍事的役割を担っていることで、
欧州の中で特に同国が過激派組織「イスラム 国」(IS)などの主要ターゲットになっている。
植民地支配という過去も、国内イスラム社会の辺縁で国家に対する憎しみを増長させた。
テロの専門家や政府関係者は、国内のイスラムコミュニティーが必ずしも十分にフランス社会に統合されておらず、
疎外された若い男たちがイスラム過激派によって戦闘員に利用されたと指摘する。
イスラムコミュニティーは帰還した外国人戦闘員が避難できる場所でもある。
フランス検察は15日、ニース事件の実行犯を31歳のチュニジア人、モアメド・ラウエジュ・ブレル容疑者だと発表した。
同容疑者はテロネットワークのメンバーとしては把握されていなかったが、
ドメスティックバイオレンスや暴行で警察の捜査対象となっていた。
ISは以前から米国に匹敵する攻撃対象としてフランスを挙げていた。
しかも、シリアで訓練を受けた外国人戦闘員にとってフランスは米国よりはるかに入り込みやすい。
ISの機関紙ダビク上では、西側の全ての人間を攻撃するよう呼びかけながらも、
「悪意に満ちた汚らわしいフランス人」を特別な憎しみの対象として定期的に取り上げていた。
オランド大統領はフランスが自由の象徴ゆえに攻撃されたとの認識を示している。
しかし一部の政府関係者は、フランスがイラクとシリアでISを攻撃している主要国の1つであり、アフリカでも積極的に軍事展開している
点を指摘する。
あるフランス軍高官は同国が「多くの戦線に展開している」としたうえで、
「相手にしてみればわれわれは大いなる敵であり、彼らは何度もそう言っている。フランスだけでなくベルギーや米国もいるが、われわ
れは(相手にとって)最大の敵の1つ」と述べた。
シリアとアルジェリア
テロの専門家はフランスが対IS空爆に積極的に関与する前から国内でテロが起きていたことに注目している。
英国なども米国と共にシリア空爆に参加しているが、フランスほどテロの標的にされてはいない。
戦略国際問題研究所(ワシントン)のアンソニー・コーデスマン氏は
「われわれは歴史がいまなお重要であること忘れがちだ」と指摘する。
「フランスは現代シ リアを形作った国であり、長い間、アサド政権だけでなくISのような組織も排除しようとしてきた国として受け止めら
れている」と述べた。
歴史家は問題の根が数十年前の、元植民地であるアルジェリアとの暴力的な関係にあるとみる。
アルジェリアの民族解放勢力は独立を求めてフランスと戦い、1962年の戦争終結までに多くの命が失われた。
その後、1990年代初頭になるとフランスはさまざまなイスラム系組織と内戦状態にあったアルジェリア政府をひそかに支援し始めた。
内戦では数十万人が死亡した。
テロ分析センター(パリ)のジャン=シャルル・ブリザール所長によると、フランス国内のアルジェリア人コミュニティーでイスラム教徒へ
の同情が募り始め、これがフランスで暮らすイスラム教徒の片隅に残っていた聖戦主義者の理念と結びついた。
多くの場合、こうした人々の怒りは国家としてのフランスに向けられた。
ブリザール氏は「ジハードのイデオロギーがフランス社会の一角に根付いているということだ」とし、
「こうした現象を根絶やしにするのは困難だろう」と述べた。
英国やドイツとの決定的違い
英国やドイツといった欧州の大国は国内のイスラムコミュニティーとの間に、フランスほど厄介な経緯を抱えてはいない。
ドイツはそもそも植民地大国ではな かったし、少し前までは、国内で暮らすイスラム移民の大半がトルコ人だった。
英国のイスラム教徒はほとんどが南アジア出身で、英国はその南アジアで植民支 配を平和的に手放した。
新アメリカ安全保障センター(ワシントン)の上級研究員ジュリアン・スミス氏は、フランスが「何十年にもわたって統合という課題を抱え
てきた」と指摘。「それが過激化の影響を受けやすい人々を生み出した」と述べた。
もちろん欧州でテロの被害に遭っているのはフランスだけではない。
ベルギーでも繰り返しテロが発生しており、今年3月22日の連続テロでは32人が死亡した。
一部のベルギー政府関係者は、連続テロの実行犯が当初はフランスでテロを起こすつもりだったが、警察の捜査が迫ったため標的
を変更したとみている。
イスラム過激派がフランスを狙い、その延長でベルギーも狙われたとみる向きもある。
フランスは米国やベルギーと比べてはるかに世俗化した社会だ。
フランスがヒジャブ(髪を覆うスカーフ)などイスラム教の象徴を禁止しようとするのはそのためで、
他の欧州諸国には見られないあつれきをイスラム教徒との間で抱える結果を招いた。
欧州の国境開放政策もフランスを狙うISの工作員によって悪用されている。
昨年11月のパリ同時テロを画策したネットワークは、ドイツやハンガリーからの移民に紛れた過激派をベルギーに連れて行きテロを計
画させた。
英国は以前から厳格な国境管理を行っている。
欧州大陸から地理的に離れているうえ、査証(パスポート)なしで入国できるシェンゲン圏に参加していないから だ。
反テロ対策当局者によると、攻撃を計画する目的で英国に出入りする人間を探知するのはそれほど難しいことではない。
ロンドン大学キングス・カレッジの過激化・政治暴力研究国際センターのピーター・ニューマン所長によると、
ISと共に戦うことを目的にシリアへ渡る人の数は欧州の中でフランスが最も多い。
ニューマン氏は「フランスには強い疎外感を抱えるイスラム教徒が数多く存在しており、それがこのような現象を生み出した」と語っ
た。
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