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中国資本が怒涛の高級ブランド買収、その結末は。誰もハッピーにはなっていなかった?

2019-11-12 13:27:26 | 産業・企業情報

 中国資本が怒涛の高級ブランド買収、その結末は

誰もハッピーにはなっていなかった?
 
2019.11.12(火)   姫田 小夏:ジャーナリスト
 
 気が付けば、中国資本になっていたというブランドは少なくない

 

 

 上海の人気百貨店を訪れて驚いた。名だたる高級ファッションブランドがこぞって中国企業に

買収されていたのだ。


 100年の歴史を持つ英国の老舗ブランド「Aquascutum(アクアスキュータム)」。日本でも一世を

風靡したイタリア生まれの「Roberta di Camerino(ロベルタ ディ カメリーノ)」。

売り場の担当者によれば、いずれも「すでに中国企業に買収されています」と言う。


 中国繊維大手の山東如意科技集団がアクアスキュータムを買収したのは2017年3月のこと。

同集団はその後、スイスのラグジュアリーブランド「BALLY(バリー)」も買収した。2010年に

日本のレナウンを買収して世間を騒がせた企業、と言えば思い出す読者も多いだろう。


「ランバン」も「フィラ」も

 気がつけば、フランスの「LANVIN(ランバン)」も2018年に買収されていた。買収したのは

復星国際有限公司だ。復星集団の基幹企業である復星国際は、ギリシャのジュエリーブランド

「Folli Follie(フォリフォリ)」やアメリカのファッションブランド「ST.JOHN(セント・ジョン)」、

イタリアの紳士服ブランド「Caruso(カルーゾ)」という3つのブランドにも触手を伸ばし、それぞれで

第2位の株主になっている。


 また、韓国資本のスポーツウェアブランド「FILA(フィラ)」の中国子会社は、現在、中国の

スポーツ用品大手である安踏集団(以下、アンタ)の傘下にある。

 FILAは元々1911年にイタリアで生まれたブランドだ。2003年にアメリカの投資ファンドに

所有権が移り、2007年に韓国のフィラ・コリアが4億ドルで本社を買収した。この年、中国の

百麗集団が3億7000万元で中国における運営権を手に入れたのだがひどい赤字に悩まされ、

2009年に3億3200万元でアンタに転売した。アンタの経営によって中国でFILAブランドの売上は

順調に伸び、2018年にはオリジナルブランド「ANTA」を超えてダントツの稼ぎ頭になった。

 この秋、上海では街の至るところで「FILA」のロゴを目にした。特に若者の間ではウエアのみならず

リュックやスニーカーもFILA製品があふれ、「ブレイク真っ只中」であることが伺われた。

 上海では「FILA」が大ブレイクしている

 

 

中国資本は「救世主」?

 アパレル業界に詳しい日本人の専門家は、中国資本が欧米の一流ブランドを買収する理由を

こう説明する。「中国市場では高級ファッションブランドの爆発的消費が今後も見込まれるというのが

最大の理由です」。

 加えて、そこには中国企業の「せっかちな性分」が見受けられるという。食うか食われるかの激甚

(げきじん)な競争の中、自分たちで時間とコストをかけてブランドを育てる時間はないというわけだ。

 

 こうして中国企業は高級ブランドを次々に手に入れたが、買収される側の欧米ブランドにとっても

抗えない事情がある。

 歴史と伝統ある老舗ブランドといえども、欧米市場でひいきの顧客は高齢化の一途をたどり、消費は

先細りしていく。一方、若者が飛びつくのはファストファッションや新興ブランドだ。


 中国資本による買収や資本参加は、中国市場での展開において外資企業が被るさまざまな障害や

ハンデが取り払われることを意味する。事業の継続を諦めかけていた経営陣にとって、中国資本による

買収提案は“渡りに船”どころか“救世主”にも等しい朗報だといっても過言ではないだろう。

 

出資先ブランドが粉飾決算

 このように双方がウィン・ウィンを見込めるからこそ買収や資本参加の合意に至るわけだが、

必ずしも目論見通りに事が運ぶとは限らない。


 1982年にギリシャで誕生したジュエリーブランドのフォリフォリが好例だ。

 フォリフォリは2009年のユーロ危機とギリシャ危機をきっかけに経営体力を失い、株式の一部を

2011年に復星国際が取得した(現在も第2位の株主として16.37%の株を保有している)。

フォリフォリにとって中国資本が注入されたことは、中国市場での出店が加速することを意味した。

実際に中国市場でフォリフォリの店舗数は「2011年には100店舗だったが、2013年には200店舗に

倍増した」(中国メディア)。

 ところが近年、米ヘッジファンドのQCMが投資家から依頼を受けて調査したところ、

「フォリフォリには粉飾決算の疑いがある」との審査結果が判明した。

 QCMの調査報告によれば、「2016年の財務報告書には、販売店が630店あるとされているが、

実際は289店しかない」(中国の「国際金融報」)というのだ。

国際会計事務所のPwCも「2017年の実際の売上高は、財務諸表に記載されている数字より10億ユーロも

少ない」(中国の「新京報」)としている。

 ギリシャ資本市場委員と検察当局は捜査に乗り出し、2018年にフォリフォリグループを詐欺と

マネーロンダリングで告訴、資産を凍結させた。フォリフォリは巨額の債務を抱えて極めて厳しい状況に

置かれている。

 中国の「服装新聞」は、「郭広昌(復星集団CEO)氏は、当初、株式取得の理由について

『このブランドは妻のお気に入りだから(出資した)』と笑って言っていたが、復星集団にとっては

初めて関わった国際ブランドであり、その重要性は言うまでもない」と報じている。郭氏としては

せっかく出資した高級ブランドだが、まさかこれほどずさんな経営が行われているとは思わなかった

だろう。

 

怒涛の買収は曲がり角に

 なんでもかんでも欲しがり、投資を拡大してきた中国企業は、大きな曲がり角を迎えている。

 アクアスキュータムを買収した山東如意も、数多くの企業買収を繰り返した挙句に巨額債務を抱え、

2019年10月、格付け機関ムーディーズにB3に格下げされた。


 一方、買収された側も心境は複雑だ。復星集団は老舗バカンス会社であるフランスの「Club Med

(クラブメッド)」も2012年に買収している。筆者は2019年2月、買収後の展開について

クラブメッド日本法人から話を聞いた。その際、広報担当者は「復星集団はサイレントインベスターに

徹し、関係も良好」と言いながら、復星集団の傘下にあることはあまり公にはしたくない様子だった。

 買収した側も、された側も決してハッピーになっているとは言い難い可能性がある。中国企業が

勢いにまかせて繰り広げた買収ラッシュは、この先どんな展開が待っているのだろうか。

 

姫田 小夏のプロフィール

ひめだ・こなつ/フリージャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。1997年から上海、1998年末に上海で日本語情報誌を創刊し、日本企業の対中ビジネス動向を発信。2008年夏、同誌編集長を退任後、語学留学を経て上海財経大学公共経済管理学院に入学、修士課程(MPA)を修了。2014年以降は東京を拠点に活動、インバウンドを重点的にウォッチ。著書に『中国で勝てる中小企業の人材戦略』(テン・ブックス)、『インバウンドの罠』(時事通信出版局)。共著に『バングラデシュ成長企業 バングラデシュ成長企業と経営者の素顔』(カナリヤコミュニケーションズ)。

 

 
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