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中国のウイグル族迫害、傍観するイスラム世界 。中国の投資と支援の引き揚げを恐れ、イスラム諸国政府は非難をためらう

2019-02-25 12:31:06 | 民族・人種問題・宗教・人権問題(差別・迫害)

 中国のウイグル族迫害、傍観するイスラム世界

中国の投資と支援の引き揚げを恐れ、イスラム諸国政府は非難をためらう

 2019 年 2 月 22 日 12:09 JST  By Yaroslav Trofimov――筆者のヤロスラフ・トロフィモフはWSJ中東担当コラムニスト

 

 党を愛し、国を愛せ」と記した看板を掲げたモスクの前を歩く女性(2017年、新疆ウイグル自治区カシュガル)

 

 

 中国西部の新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族と漢民族の間に多数の死者を出す

暴動が起きた2009年、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は遠回しな言い方はしなかった。

同大統領は「中国で起きた事件は、要するに大虐殺だ」と述べ、トルコの産業相は中国製品のボイコットを

国民に呼び掛けた。

 

 

 チュルク語系のウイグル語を話すウイグル族の苦境は現在、さらに深刻化している。

中国政府は新疆ウイグル自治区のイスラム文化を一掃し、中国人と同化させることを目指している。

国連の報告者によると、最大100万人ものウイグル族やその他のイスラム教徒がネットワーク化された

「過激思想対策のためのセンター」に収容されており、さらに200万人が強制的に「政治・文化的再教育

キャンプ」に送られているという。

 


 しかしエルドアン氏は、中国政府が2017年に開始した新疆ウイグル自治区の弾圧に対して、自ら声を

上げてはいない。他のイスラム諸国の指導者もほぼ一様に口をつぐんでいる。これは、パレスチナ人に

対するイスラエルの扱いや、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの危機的状況について、

イスラム諸国が一貫して非難を続けているのと対照的だ。

 


 新疆ウイグル自治区での組織的な迫害について、トルコ政府は今月に入ってようやく

「人道的に恥ずべき行為」との反応を示した。この例外的な非難のコメントは、外務省報道官の声明と

いう形をとっており、エルドアン氏がしばしば行う、イスラム教の大義に関する世界に向けた感情に

訴える発言のような重みはなかった。

 

トルコ、中国に「重い人権蹂躙に対する我々の抗議に注意を払うべき」。/ 日本ウイグル連盟会長 トゥール・ムハメット氏の訴え


 こうした変化の説明は容易だ。「一帯一路」構想による大規模な投資戦略と、拡大し続ける

軍事・技術面の影響力を背景に、中国がイスラム世界、そして全世界においても、あまりにも中心的

役割を果たすようになったため、ウイグル族の大義は重視されなくなったのだ。

米国の外交政策が予測不可能な現状において、イスラム諸国が保険として中国に接近している状況では、

こうした傾向は特に強まらざるを得ない。

 

中国当局が「職業訓練センター」と呼ぶ施設。壁の外側を労働者が通る(2018年9月、新疆ウイグル自治区)


 

 「中国は、その経済力と政治力を使って、イスラム世界を黙らせることに成功した」と、

通称「東トルキスタン民族会議(National Assembly of East Turkestan)」のトップでウイグル族

支援のキャンペーンを展開するセイット・トゥムトゥルク氏は苦言を呈する。

東トルキスタンとは、ウイグル族のナショナリストらが新疆ウイグル自治区のことを呼ぶ際の名前だ。

 


 中国の人権問題を検討するため国連が11月に開いた会合では、批判の声は主に欧米の民主主義諸国

から示され、サウジアラビア、パキスタン、バングラデシュなどのイスラム諸国は中国政府を褒めたたえた。

パキスタンのイムラン・カーン首相は、1月にテレビインタビューでウイグル族の扱いや収容キャンプ

について質問された際、自国の国境のすぐ先にある新疆ウイグル自治区について「正確な状況」を把握

していないという決まり文句を繰り返した。

 


 「中国の近隣諸国は、中国からあまりにも多くの資金を得ている」。

新疆ウイグル自治区カシュガル市出身で、2016年にトルコに逃れた不動産仲介業者のヤセン・ズノン氏は

そう話す。同氏によると、同氏の兄弟姉妹5人はいずれも同氏が逃亡して以来、その罰として投獄されて

いるという。「自分たちのために声を上げることはあきらめている。われわれがサウジアラビアや

パキスタンに行けば、捕まえられ、中国に送り返されるだろう」

 


 トルコが今月抗議を行ったきっかけとなったのは、ある楽曲を理由に収監されていた有名民謡歌手

アブドゥレヒム・ヘイット氏が新疆の収容施設で死亡したという報道だった。中国はこれを受けて

同氏が生存していることを示す動画を公開し、安全上の理由からトルコ訪問に「慎重」になるよう

中国人観光客に警告した。これは事実上の経済的報復措置だ。

 


 中国当局は、一連の暴動やテロ攻撃を受けて新疆の地域社会を再構築する取り組みの一環として、

イスラム教の信仰を公に示すことを禁じてきた。男性があごひげを生やす、女性がヘッドスカーフを

着用する、レストランや食料品店がイスラム教の戒律に則った食品の使用を示すハラル対応の表示を

出すなどについてだ。同地区で今も運営されている少数のイスラム教礼拝堂への出入りは厳しく

制限されており、祈りの時間には外にこん棒を持った警備員の集団が待機している。

同地区の道路や都市には、生体認証を活用した警察の検問所のネットワークが張りめぐらされており、

海外に住むウイグル人はおおむね、地区内に住む家族と連絡が取れない状態にある。

 


 中国当局は新疆地区の収容所が「職業訓練的」なもので、地元住民に近代的な職業スキルと中国語を

教える場所だとしている。

当局はまた、面積で中国最大の行政区である同地区の厳格な治安規制について、過去にイスラムの

分離主義者による攻撃があったために必要だと指摘している。ウイグルのイスラム主義者の中には、

中国を離れてシリアやアフガニスタンに行き、イスラム国(IS)やアルカイダといった過激派組織に

加わった者もいる。

 

市場に入るため、検問所前で列を作る人々。テレビスクリーンには習近平国家主席の顔が映る(2017年、新疆ウイグル自治区ホータン)



 中国の元外交官で、中国人民大学の教授を務める王義桅氏は、中国には新疆で現在のアプローチを

追求する以外の選択肢はないと述べる。「短期間の痛みは、長期間の利益につながる」

 

 現代中国の問題を研究する清華大学国情研究院の胡鞍鋼・院長は、中国がいかに同地域を扱うべきかの

例として、米国やブラジルの「人種のるつぼ」モデルを取り上げている。同氏の論文は、中国政府が

新たな新疆政策を打ち出す一助になった。同氏は「国全体の継続的な融合を私は強く主張している。

米国では、アジア系、アフリカ系、欧州系のどのルーツを持つとしても、そこに住むなら英語を学ぶ

必要がある」と話す。


 イスラム諸国が中国政府の新疆ウイグル自治区での対応を批判することに消極的な理由は、一部には

2011年の民主化要求運動「アラブの春」の高まりを受けたイスラム諸国の対応だ。

運動が起きた多くの国では、自国内で反政府的な動きに対して前例のない弾圧を行っている。

エジプトやペルシャ湾岸の首長国などは、人権活動家や独立系ジャーナリストを拘束し、

インターネット上で反体制派の主張を遮断するなどの行為を正当化するため、「過激派との戦い」という

説明を使っている。その結果、アラブ諸国をカバーする衛星テレビチャンネルで新疆ウイグル問題の

扱いは極めて限定されたものとなっている。


 アラブ首長国連邦(UAE)の政治学者、アブドルハレク・アブドラ氏は「新疆ウイグル自治区は

中国の国内問題と考えられており、この問題が議論されたり、大きな話題になったりすることはない」

と指摘した。


 インドネシアでは最近、イスラム系運動家がウイグル人問題を取り上げ、抗議行動やジョコ・ウィドド

大統領に対する反対運動を行った。運動家たちはウィドド大統領があまりにも中国政府寄りだと

批判している。同国では中国系市民に関する不満がしばしば政治的に利用されるが、

(4月17日投票の)大統領選のただ中にある現在でも、新疆ウイグル問題は依然として小さな話題に

とどまっている。

アブドゥルラフマン・ワヒド元大統領の娘で現在はシンクタンク、ワヒド研究所の所長を務める

イエニー・ワヒド氏は、「この問題はけん引力にほとんどなっていない」と指摘、

「抗議行動は小規模だった。(新疆ウイグル問題と反ウィドドという)組み合わせは起爆力がある

はずだったが、そうはなっていない」と述べた。


 欧米諸国との間で緊張関係にあるトルコでも中国に対する批判は抑制気味となっている。

昨年、米国による制裁措置を受けトルコ通貨リラが急落した際、中国工商銀行はトルコに対し、

36億ドルの融資を行った。


 トルコと中国・ロシアの同盟関係を提唱しているトルコ左派政党、愛国党のドウ・ペリンチェキ党首は、

新疆ウイグル自治区における独立派の動きについて、トルコ南東部におけるクルド人の独立運動と同様、

欧米による陰謀だとしてはねつけた。

同氏はイスタンブールにある自宅で、「トルコの安全保障は中国とともに始まり、中国の安全保障は

トルコとともに始まる。両国は米国に対する自国の安全保障を確保するため協力しなければならない」

と語った。

中国の毛沢東主席とトルコ初代大統領ムスタファ・ケマル・アタチュルクの肖像が掲げられた部屋で

同氏は、「中国とトルコの間に対立を生み出そうとするのは反トルコ的な活動だ」と強調した。


 在外ウイグル人の組織「東トルキスタン共和国亡命政府」の首相職を務める活動家、イスマイル・

チェンギス氏は、トルコ社会がイスラム世界全般での世論と同様、新疆ウイグル問題に引き続き

コミットしていくと強調した。しかしながら、同情が必ずしも政治的成果をもたらすとは限らないことも

理解している。「国家間の愛情は個人同士の愛情とは違う。国家間においては利益が最優先される」と述べた。

 

 

ムスリム世界が「同胞」ウイグルの悲劇を無視する訳